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第一話 強くなりすぎた男

(よし、いくか!)


 都内某ゲームセンター内の一角、たくさんの観衆に見守られながら俺は戦いの地へと歩み出た。


 音楽ゲーム『バトルマトリックス』その最終バージョン『デモンセイバー』


 俺はこの『デモンセイバー』をクリア、完全制覇するために日夜修行をしてきた。


(こんなにハマるとは思わなかったな)


 音楽RPGと銘打って発売されたVRゲーム『バトルマトリックス』。

 無線のVRゴーグルをかぶり、8メートル✕8メートルのフィールドの中で、音楽に合わせて光る床を移動、光る球体に体を向け、手に持った武器を振って球体を破壊する。これを繰り返す単純なゲーム。稼動初期は知る人ぞ知るゲームだった。

 しかしとSNSから人気が爆発、順番待ちが外まで続くなんてのは当たり前な大ヒット作となる。


 人気のため多数のバージョンアップ、いくつもの続編が次々とリリースされる。出るたびに改良がなされ、「このゲームの指示で生活が出来る」と言われるほど細かな指示が出されるようになる。


 だがこれがいけなかった。やれることが増えたが覚えることが多すぎて新規は増えない、難易度も出るたびに難しくなる。そのためどんどん人離れを起こし、一部マニアしかやらないゲームになってしまった。


 そして最終作品『デモンセイバー』


 ここまでならよくある『人気ゲームの衰退の歴史』なのだが、このゲームは違った。何を思ったかこの最終作品、難易度を上げすぎたのである。

 今まででクリアした者は0人。その難しさから『人外専用ゲーム』やら『○ンゲー』など、散々な言われようのゲームになってしまった。


 それでもクリアを目指すものはいた。俺もその中の一人だった。しかし、その難易度の前にほとんどの者が音をあげる。何人かいた仲間も居なくなりついには俺一人となった。それからしばらく考え、このままでは攻略不可能と判断、肉体改造をするため修行を行うことにした。


 修業を終え、何度かプレイ。ラスボスらしき敵まではたどり着けるようになったがクリアはできなかった。


 そして決戦の日の今日。置いておいてもお金にならないのでゲーセン側は今日を最後に片付ける予定。本来ならもっと早く片付ける予定だったが俺のわがままで撤去を待ってもらっていた。当然他のゲーセンはもう置いてない。

 更にこのゲームは本気でやった場合非常に体力を使う。一日一回が限度。そう、事実上のラストチャンスだ。


(今日こそクリアする!)


 スタート床、赤く光っているこの床を踏むとゲームスタート。

 始める前に軽く自分の装備をチェック。現実世界ではグレートソードと呼ばれる両手持ちで大きめの剣を所持。


 ゴーグルを通してみるゲームの世界では最強の剣、最強の防具一式を身につけている俺を視認できた。武器はいくつか選べるが自分に合ったのは両手持ちの剣だった。ちなみに最高装備は他バージョンで手に入れられる。これらを持ってないとゲームを始めることも出来ない。


 確認を終え、スタート床の上に立ちいよいよゲームスタート、と同時に音楽が流れ出す。


『GO 100HIT COMBO!』


 まずは小手調べ。目の前に現れた球体にどんな攻撃でもいいので一秒間に百回攻撃を叩き込む。

 上段突きの構えをとり、一旦心を落ち着けた後一気に力を開放。突きの百連射を叩き込んだ。


「シュバババババ」


 激しい動きに着ていたシャツが弾け飛んだ。


『GOOD!』


 難なくクリア。次は光る床の上を走り敵を倒すゲーム。

 これが厄介なのは敵がどこにあらわれるかはランダムであること。そのため次はこっち、その次はそっちと決め打ちが出来ない。


 そこで編み出されたのが『うつむきの構え』

 上半身を少し倒し顔を地面が平行になるようにする。こうすることで光った床をいち早く知ることが出来る。

 音楽に合わせて床が光る。


「ダダダダ、ザン」


 走って切って真ん中に戻るの繰り返し。問題なくクリアした。


 その後順調にクリアしていく。

 10分後、悪魔のような姿をした者が俺の前に姿をあらわす。


『クハハハ、よくぞここまできた。見事悪魔の王である儂を倒して見せい!』


 ついに決戦。今回はこのゲームのおさらいのようなもの、もちろん最大難易度で。だが、いける。今の俺には余裕があった。次々とクリアしそしてついに悪魔を倒した。


『グアァァーーー!!』


「やった!」


『GURURU』


 崩れ落ちた肉体の後ろから先程の悪魔より二周りは大きな悪魔があらわれた。


『GURAAAA!』


『GO 200HIT COMBO!』


「マジかよ……」


 ここにきて今までの最大難易度が来る。

 これまでの激しい動きによって体力をかなり消耗、気力も落ちてしまっっている。ここまでか。


「がんばれー!」


 観衆から声援が飛んできた。


「お前ならいける!」


 二寺さん、初めてバトルマトリックスをやった時、ぎこちない俺のプレイを見ていてもたってもいられず色々コツを教えてくれた人。


「負けんな!」


 三空さん。資産家で俺が修行できる場所を用意してくれた人。

 そうだ、負けられない! この人達のためにも!

 力を振り絞り、最後の戦いに挑む。


「うおおお!!」


 一秒間に200発の突きを繰り出した。


『GOOD!』


『GYAAAA!』


 悪魔が爆発。その後俺は光りに包まれる。

 今度こそ倒したようだ。


「やった、やったぞ!」


 俺は恥ずかしげもなく天を仰いでガッツポーズを取る。

 光が収まり仲間たちのもとへ駆け寄ろうとした時、先程までと違うところにいることがわかった。


「いったい……ここはどこだ?」




 ――神界、女神の部屋


「女神様ー、『デモンセイバー』回収してきました」


「ご苦労さま、そこに置いてちょうだい」


「はーい」


 ゴトンとダンボールを置いて去っていく天使。


「ようやくクリア者か。あちらの世界を救うため強者を送り込むシステムだったがちょっと難易度が高かったかな?」


 女神と呼ばれた者はダンボールから電子部品を取り出し特殊な機械につなげ内部データを見た。


「あれ? 設定値の10倍の難易度になってる……もしかしてこれが原因で、いやいやこんな難易度のゲームをクリアできる者はいない」


 厳しい顔をしていたが、ほどなくして悟ったような顔つきになる。


「クリア者が出たし、まいっか。どうせ2つの世界にはもう干渉できないしね!」


 そう言うと女神は証拠隠滅とばかりに電子部品をハンマーで叩き始めた。

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