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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

英雄になりたかった

作者: かめロン

なんか思いついたので書いてみました。息抜きみたいな感じなので設定とか適当です、はい。そして、結構短いと思います。

 英雄になりたかった……。

 たくさんの命を救う…英雄に…。

 でも、なれなかった……。

 俺はなれなかった。何も、救えなかった…。

 目の前で泣く命を…遠くで助けを呼ぶ命を…もう……動かない命を…。


 地獄を見た……数え切れないほどの地獄を見た…。

 自分が辿ってきた…地獄を見た。


 人は、いや俺はなんて無力なんだろうか…。目の前で泣く子供一人救えない。助けられない。いくら願っても…いくら努力しても…いくら……後悔しても…何も変わらない。何一つ変わらない。どれほど見てきただろうか、命が消える瞬間を。何度絶望したかわからない。最後は必ず、無駄だったと、後悔して泣いた。なのに……俺は英雄になることを諦めなかった。何度、絶望しようと。何度、後悔しようと。何度、泣こうと。俺は変わらなかった。


 それを神は知ってか知らずか、いつも結末は変わらない。結局、何も救えず終わっていった。そう、それはまるで呪いのように。


 小さな丘の上に少年と少女がいた。

 少女は言った。


「どうしてそんなに努力するの?何になりたいの?」


 少年は答えた。


「僕は、英雄になりたい。ずっとずっと昔からの僕の夢。いつも叶えられなかった…僕の…夢…」


 そう言う少年に少女はにっこりと優しい笑顔を見せた。


「なら、私を守ってね」

「うん。絶対に守る。……今度こそ、絶対に」


 茜色に染まる空の下で交わした約束。

 今度こそ、今度こそはと願った少年。今まで散々味わった悲しみと絶望と後悔。今度こそ救って見せると決意した少年は、またしても地獄を見て、絶望した。


 目の前に広がるのは赤く燃える村。よく見た顔はただの肉と化して地面に転がっていた。そこら中から泣き叫ぶ声、助けを求める声、命乞いをする声が聞こえる。幾度となく見た地獄。この状況には最早、絶望しかなかった。しかし、少年は走った。燃え盛る家々を横に走った。


 まだ、まだ救える命があるはずだ!だから、すべてが終わるまで、諦めない。


 しかし、少年の思いはある場所で崩れ去った。目の前にはもう、動かなくなった姉の姿。少年は膝から崩れ落ち、元姉のそばに行く。


「ねえ……さん……?」


 何度呼んでも動かない姉の亡骸を前に少年は泣いた。姉の名前を呼びながら泣いた。いつになっても、何度味わっても変わらない胸の痛み。後悔、悲しみ、絶望。むしろどんどんそれは味わえば味わうほど強くなっていく。決して減ることのない痛み。


「いやああああああああああああ!!!」


 唖然としていた少年を更に追い詰めるかの如く、聞き慣れた声の悲鳴が聞こえる。それはいつも応援してくれた大切な人の、必ず守ると約束した大切な人の声。あの時、丘で約束をした少女は目の前で男達に押さえつけられ、今まさに殺されるところだった。


「やめろ……」


 そう言うと心の中で知らないはずのよく知った声がした。


『結局お前は変わらない』


「やめてくれ……」


『何も守れやしない』


「違う。俺は……」


『お前に何ができる?いつも何もできずに終わっていたお前に』


「だから、今度こそ……」


『今度こそ?笑わせるなっ!お前は結局、何も守れない、何も救えない、何もできない』


「そんなこと……」


『ないと言えるのか?それは今までお前が味わってきたことだ。お前が一番よくわかっているはずだ』


「俺はただ……」


『無駄なんだよ。最初っから、何もかも。どうせお前が何をしようと、どんなに努力や決意をしようと結末は何も変わらない』


「……俺は…俺は…」


『英雄とかそんな綺麗事言ってんじゃねえよ。憎いんだろ?この状況を作った奴が」


「にく……い……?」


 少年にとってそれは今まで感じたことのない感情だった。いや、本当はずっと前から感じていたはずだ。しかし少年は英雄と言う物に固執した。英雄とは正義の味方、ヒーローだ。だから、憎いなんて思っちゃいけない。復讐に取りつかれてはいけない。そう思っていた。だが、今少年の心の中にある物、それは正しく憎しみだった。


「俺は……憎い…」


『そうだ。お前は憎い』


「この世のすべてが…憎い…」


『この世の理不尽が憎い』


「俺をこんな目に合わせた奴等が…憎い…」


『さあ!すべてをさらけ出せ!すべてを解放しろ!本能のままに!』


「俺は……憎い!」


 その瞬間、少年の中にあった正義すべてが崩れ去り、代わりに憎しみがすべてを埋め尽くした。少年の体から赤い煙が昇る。それはまるで鬼のように、死神のように見えた。少年は少女を抑えている男めがけて地面を蹴る。目に見えない速度で男に近づき、そのまま右膝で男の顔を蹴った。男は燃え盛る家まで吹き飛んだ。何が起こったのかわからず棒立ちしている他の男に回し蹴りをかまし吹き飛ばす。状況が多少把握でき、怒り狂った男達が一斉に少年に襲い掛かる。少年は男達の攻撃を躱し、一人の男の顔面を鷲掴みにするとそのまま投げ飛ばす。それを見た他の男は一斉に逃げ出した。少年は近くに落ちていた木の棒を拾うと男達に向けて投げると同時に地面を蹴った。棒は男の胸に刺さった。少年は崩れる男に刺さった棒を掴み、引き抜く。男の背中から大量の血が吹き出し、少年を真赤に染めた。少年はまだ逃げている男達の背後に行き、首を撥ねる。男達の首から勢いよく血が噴き出る。少年は棒を地面に落とすと天を仰ぐように空を見た。その一連の光景を見ていた少女は少年に恐怖を抱いた。目の前で鬼人の如く、死神の如く命を奪う少年は今まで少女が見てきた少年の姿と、少年がいつも話していた姿と大きくかけ離れていた。


 俺はもう…戻れない。英雄にはなれない。でも、それでいい。俺は憎しみに生きる。今まで俺を踏みにじってきた奴等に復讐する。それが俺の…夢。


 この事件での生存者2名(少年と少女)他、死亡。

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