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地淵の母と祖母

 母の事はあまりよく知らない。満州で隣同士だった家の男性と結婚した。相手の一族の一人がものすごい人格者で、地淵さんの所ならと結婚を勧められたという。


 ただいろいろと事情があり、母が結婚した男性は再婚相手の子供で末っ子だった。親族は言う「あなた苦労するわよ。わがまま放題に育てられたのだから」


 やがてそれは現実となった。相手のことは考えず、通すのは自分の都合ばかり。わがままで自己中心的な男、それが地淵の父親だった。


 だが妻への愛はあった。男性特有の強引でぎこちないものだったが。寿司をごちそうしたり、病気になった時は地域で一番の医者に連れて行ったりしていた。


 後に認知症で夫婦げんかが絶えないとこぼした時など「あんなに奥さんを愛してる人が」と周囲の人から驚かれたぐらいである。


 母は専業主婦しかしてない。ゆえに社会的なことはまったくわからない。育生が生まれた頃、祖母が地淵家にやってきた。育生は、まず祖母に過保護に育てられた。「年寄りっ子は三文やすい」とよく言ったものである。


 育生は近所の砂場に遊びに行くが、祖母がすぐに連れて帰ってきてしまう。

「あの子は砂をかけるからよくない」


 『人生で大切なことは砂場で学んだ』というタイトルの書籍があったが、育生は大事な人間関係をまなぶことがないまま来てしまっている。彼が幼いのは、発達障害もあるが、幼児期の生育環境も影響してるだろう。


 祖母は良く手をつないだ。なので育生も手をつなぐ癖がついてしまい。中学生時代に同級生の手を繋ごうとして気持ち悪がられていた。


 兄の証言では、育生は母に過保護に育てられたという。おそらく発達障害のこだわりや感覚過敏のせいで、人一倍手のかかる子供であったと予想できる。


 幼少時の育生はよく泣いた。女の子にいじめられたと泣いて帰ってきたことが多かった。


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