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かばね引きずり男

異星人が発達障害者と同じ特質を持つというくだりは、ベリー名義でツイートしてます。同じ人です。

水をかけられたカタツムリが殻の表面に張られた幕を縮めた足先で少しずつノックするようにして恐る恐る活動しようとするような遅さで地淵は回復しつつある。そのまどろっこしさに、ガブリエルは苦笑しながらも、神に全てを告げた。


「今回は引き分けの様ですね」ガブリエルは、予想外の結末にすこしあきらめの表情をうかべつつも、神の返事を待っていた。

「人間は、そう簡単に全てを変えることができぬものじゃ。ゆっくりと時間をかけて変容していく。おそらく彼が代わるには二、三転生かかることになるだろう」神は、しわだらけの瞼をゆっくりと細めて笑顔を向けた。


「発達障害者なら気づくのにだいぶかかるはず。おそらく転生回数は健常者の3倍以上ではないでしょうか」

ガブリエルは、恐れ多いと思ったが神の言葉を遮って訂正をかけた。

「それで、何故地淵の守護をまかせたのかわかったかね」神は首をかしげて視線をガブリエルに向けた。

「人の奇跡は、切断された神経のように数ミリずつしか変化が起きないということでしょうか」かなり控えめに地淵を評価した。彼も少しずつは日常の雑事をこなそうとしている。ただ、どうしても発達障害ゆえの先延ばし癖や、物忘れ、衝動性といった諸症状に悩まされていた。

「急激な変化は、よほど恵まれた人間にしか起きぬもの。ましてや地淵は転生回数から判ずるにまだ幼児のような物じゃ。だが、幼く力のない者とじっくり付き合うのも、天使としての役目ではないかね」


 ガブリエルの中にはまだ逡巡があった。地淵はどうみても人間未満のような気がしてならなかったからである。障害があってもアスリートとして活躍してる人間はごまんといる。なぜ地淵が少しは改善したとはいえ怠惰な日々に甘んじているのかがどうしても解せなかった。


「彼は、いや彼らは頭の障害だ。人間は頭に支配されておる。なので中枢の働きの悪い地淵はどうしても後れを取ってしまう」

「そこはやる気の問題では? プロットが書けないのはただ甘えているだけでは」ガブリエルは自分の立っているこの小説世界の基盤が、よその作家と比較して脆弱なのを気にしていた。この世界は、地淵のアドリブで構成された世界だった。

「ツイッターに、ベリー名義で書いたのだが。人類はもうすぐ異星人と遭遇する。彼らは知的に優れているが、他者への配慮という物がない。そこでわしは世界に発達障害者を生み出し、異星人との遭遇の予行演習にした」

 そのツイートは、ガブリエルも目にしていた。こちらの小説のオチとして考えていたが、あまりにも荒唐無稽ゆえに没にしたアイディアだった。

「彼ら異星人と地球人は友好的に交流できるのでしょうか」

「それは今の地球人の努力次第だ」

 こうして神は、賭けの不成立を告げ、ガブリエルは地淵のそばへ戻って行った。地淵は、家庭内の雑事を終えていたが、まだやり残した仕事は山積みだった。


「やあ、どうだい調子は」本来話しかけやサジェスチョンは禁止されていたが、ラストだという事もあってガブリエルはじっくり話したい気でいた。

「ああ、なんかトコロテンのようにやりたいことが過ぎていくから大変さ」地淵は、ベッドから起き上がると不満そうに返答した。

「いつか、まさ〇さまの倫理学ブログを読まなきゃならないし、最近見つけた脚本術の記事も読まなきゃならない。でも忘れてたよ今まで」

「メモを取ればいいじゃないか」常に思っていた疑問をぶつけてみた。

「メモを取ってもどこかへ行ってしまうのさ。メモ用のノートだけで6冊ぐらいある」

「急ぎすぎじゃないかな。もう少しゆったり生きたら」

「そうしたら際限なくゆったりして何もできなくなる。つねに急かされているのが生きざまなのさ」

「もうすぐお別れだけど、プロットは立てた方がいいな。何せ書きやすい」


「アドバイスありがとうな。だけど、話の先はその直前になるまでわからない。そういう脳の仕様なんだろう。ただアリバイ的な物は作れるけど、必ず計画書は変わる。絶対に変わる。絶対だ」

「そうか。じゃあできる範囲でいいから頑張れよ」

「ああ、ありがとう。こんなダメ人間に付き合ってくれて」

 ガブリエルは地淵の肩に手をかけて、相手の目を見据えて語りかけた。

「まだ人生三周目だろ。転生後には発達障害者も生きやすくなるって」

「来世はアフリカに生まれそうなんだ。理解のない環境で、また一からやり直しさ」

「あんまりネガティブに考えるなよ」


 こうしてガブリエルは地淵の元から去って行った。世の中には何でもうまくいかない人もいる。それが個人差だという学びを得て。


 そう、無為に過ごして生きているだけの人も彼なりに苦闘している。条件は皆同じ、頭のいい人も発達障害者も、似たような重さの荷物を背負って歩み続けている。これは仕方のない事なんだ。ひきこもりも苦悩を傍らに置いて過ごしている。野生を少し残している人類は、人生のかじ取りを本能や感情に引きずり回されながら、羅針盤を失った船のように、行先も定まらず同じ場所をぐるぐる回って進んでいる。理性的な判断は、我欲や感情のぶつかり合いや、ちょっとした不運で簡単に吹き飛ぶ。霊長類に属し地球を占有し威張っていながら実態はアニマルさながらだ。そんな中にも少しの人間らしさを潤滑油にして私たちは生き続けていられる。ほんの少しの愛をにぎりしめて、人の情を生きる糧にして。


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