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気づきと困難

よりリアルに合わせるため、時系列の面で書き換えをしました。診断は早く2002年ぐらいだったと思います。


 自分を支えてくれた聡明だった両親は変わってしまった。物忘れが酷くなり、物質的な執着が心をむしばんでいく。二人の心は少しずつ現世を離れて幽界へと誘われ始めていた。星占いでは、年齢域というものがあり、土星の先は天王星になり、我々の常識が通用しなくなると語られている。おそらく彼らは、天王星の世界に招かれてしまったのだろう。

 その事に気づいたのは、一年前だった。二人とも日々あった出来事を聞き返すことが多くなっていった。


年齢によるものだろうと気にも留めていなかったが、病魔は少しずつ脳をむしばんでいった。

「だいぶ脳が委縮してますね」MRIの画像を指し示し、神妙な面持ちの医師が、事実を告げる。

医師から告げられて、私は言葉を失う。もう二度と元気なころに戻れる可能性は絶たれた。その日から私はなれない介護を開始した。


 実は、介護士の資格は持っている。2000年ごろに専門学校で取得したやつだ。あの頃は学校さえ出れば誰でも資格をもらえた楽な時代。過保護に育てられたせいで不器用になり、実技は落第点だった私にも

資格は与えられた。カンファレンス用の記録ノートに自分の悩みを書いてしまい、担当教諭に「今度やったら実習中止、退学!」と脅された私。勉強の方がよくできたので(クラスでも上位10人には入る)落第は免れた。しかし実際は過保護が影響し、脳が上手く機能せず失敗の連続で最初の施設を雇い止めになる。以降、男性で年齢が高めだったのが災いして、介護施設には入れず。前職の経験を生かしてスーパーでパート作業員として従事していた。


 そこで椎間板ヘルニアをやり、結果として、もう食料品業界には戻れない、身体が先行きの不運を告げていた。


「これじゃあ、一生女性にはモテないなぁ」楽観的な思考に支えられた悲観が人生を照射している。私の人生はいつもそうだ、同年代の人が担うべき苦労や義務が頭から消えて、楽観的な人生を夢見ながら悲観に酔いしれる。そこに年相応の現実味などは見られず浮世離れした空想に支配される日々。


 また薬を飲み忘れる。父母の事ではない。私が飲ませるのを忘れていたのだ。思えば子供の頃から、そそっかしくて物忘れは酷かった。宿題をやっているのに持っていくのを忘れてしまう事はしょっちゅうだった。先生からは「注意力散漫だ」と毎日怒られていた。それでも、勉強はできた方なので大目に見られて、学生時代は波風が立たなかった。これも発達障害によるものだと、自分では努力をせず親に責任を押し付けている。


 そして今、子供時代に生活の問題として悩ませた性格は、介護生活を脅かせ始めている。薬の飲み忘れに始まり、支払いを忘れる、銀行から預金を引き出すのを忘れる。買い物を忘れる。同じものをだぶって買う。通院の日時をすっぽかす。両親にも、自分の生活にも手を焼くようになった。自分では障害だからと諦めていた。重ね重ねいうが、そのための努力は決してしない。


 話は遡るが、書店で一冊の本に出合った『のび太ジャイ〇ン症候群』中には自分の事が書かれていた。これによると自分はADHDという脳の病気であるという事、リタリン(当時)という特効薬があり治ることなどが書かれていた。私は常日頃から自分は何かおかしいと感じていて、自分のおかしさの原因を調べていた。精神病質、精神分裂病(当時)、退却症候群、うつ病、神経衰弱、境界性人格障害、どれも似ててどこか違う。人生の解答がやっと見つかった気がした。


 自助会の助けを借り、診察してくれる病院を見つけた。脳の画像でも撮るのかなと思ったが、簡単な問診と知能テストを受けさせられる。事前に調べた知識では、私はADHDらしいと考えていた。知能テストは長時間にわたった。

その結果を見た医師は、意外な言葉を告げる。

「アスペルガー症候群」初めて聞く病名だった。医師の説明によると自閉症の一種らしい。自閉症と言われてもピンと来なかった。かって、介護職をしていた時、自閉症施設で働いていたのだが、あそこで暮らしている人々と自分が同じベクトルにいるとは思えなかった。


 医師から、アスペルガー症候群に関する小冊子を渡される。どうやら常識の欠如が主症状になるらしい。前職で、「お前は本当に常識がない」と言われ、親兄弟からも常識に疎いことを指摘されていた。そのことを薄ぼんやりと思い出しつつページをめくった。


 小冊子はその後、片付けない本の山に埋もれて何処かへ消えていった。まるで最初から存在を許されなかったかのように。発達障害は免罪符、できなくても努力をしなくても許される魔法の言葉、そう伝えたがる運命が私の心を覗いていた。


 両親の呼ぶ声が聞こえる。私は生返事をしてPCの電源を落とした。ほかならぬ自分が両親を支え生活を築いていかなければならないことの重大さに、まだ気づいてはいないふりをして。手相を見て、運命線を調べまだ来ぬ出会いに思いをはせる、現実は厳しくのしかかる機会をうかがっているが、その事実を私は直視しない。想像力の欠如か? いや私は知っている、しかし現実を受け止めるにはすべてを諦めねばならず、その覚悟は能天気な私の胸中には存在しなかった。


 今日も静まった夜に私の素行を怒鳴りつける両親の罵声が響く、近隣に漏れぬようにテレビのボリュームを上げてしのぐ毎日。永遠に続く過保護という華燭に満たされた家族ゲームはいつまで続くのであろうか。私の大好きな鉄道模型がエンドレスを駆け巡るように、同じ時間が同じ吐息をつきながら回り始めた。





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