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永遠の愛とシンジツの愛

作者: 榎美夕

みなさんお久しぶりです!

奏 ましろです。覚えていますか??初めての方ははじめまして!最近、改名しました!


『 憧走走散 』はなかなか書き進めることが難しくなってしまったので少しづつこの、短編を作成していました。


私が人生の中で1番読んできたジャンルが恋愛。それに伴い書いてみました。


病んでいる人を見るのが苦手な方は閲覧注意です!


長くなりました。


かみゆワールドを楽しんでいただけると幸いです。では、ごゆっくり。



月がほんわか照らし続ける秋の夜。私はボロいアパートの2階から一人寂しく星を眺めていた。


窓のせいで夜空が綺麗に見えないため今日もいつものように力の限り窓を引っ張り、幸せな世界へと飛び込んだ。すると冷たい夜風が一気に部屋に吹き込まれ、髪はなびき私も外も部屋も全部が意思疎通したような新鮮な感覚に包まれる。


小さいベランダから見るその星はいつも綺麗で心が安らいでゆく。────私もこの中に溶け込めたらいいのに。


好きだった。幼い頃、家族で見たこの景色が。でも今となってはそれすら辛い思い出で、景色だけを新鮮に見ていたいといつも願っている。


ちなみにその両親は私が中学に上がったと同時に朝から晩まで遊びに行くのが日課になり、私の寝ている時間しかあまり帰ってこない。ただ、いつも300円が玄関に転がってあったり郵便置きに入れて置いてあるため帰宅していることは分かる。だが仮に会ったとしも、後ろ姿か下を向いていてまるで顔を隠しているようなそんな姿だけ。だから会ったというよりかは見かける程度に過ぎない。


こちらとしても両親の顔なんて見たくもない。遊びに行き始めてからは、洋服代や文房具などはもちろん中学校のお金すら払ってくれず、学校を辞めることは義務教育のため出来なかったが初めの夏休み前までしか学校に行けていない。そんなことで高校進学は出来なかった。


今から約1年前、父親が帰ってくるのを待ち、恐怖の遊び場にまた戻ろうとしている背中に勇気を振り絞ってバイトをさせて欲しいと言ったのだがそれすら許可をしてもらえない。理由も言われず駄目と言われ、家から出るなと言われただけだった。


そんな子供のためを思わずにただ部屋に居なければならない状況にする親失格の人の顔なんて見たくもない。みてしまったら私まで人として失格している最悪な人種がうつってしまいそうだから。


しかし、両親がそうなってしまったのはきっと私の責任。二人の思い描いたような素晴らしい子供になれなかったから呆れて遊びに歩くのだ。「……どうしてそんなことすらできないの?」、「お前は何をしているんだ?」というのが二人の口癖だったからきっとそうだと認識している。


ちなみに今の生活は、家に少し隠されていたお金と先程説明した300円ほどでおにぎりやカップラーメンなどを買って生活をし、服はタンスに閉まってある親の服を嫌々着ている。考えれば、家賃や電気代、水道代など必要最低限のものは払ってくれているらしい。が、感謝などできない状況だ。


毎回近くの同じスーパーに通い続けているので何度か店員に声をかけられた。「いっつも来てくれるけど親御さんは、?」、「今日も来てくれたんだね!カップラーメン好きなの?」などと声をかけられたが「うん。 そうなの。 人見知りなので会話は苦手。」そう返していると数日で声もかけられなくなり、幾度帽子をかぶって顔を見えないように、話しかけられないようにスーパーに行くようになった。



最近になってやっと両親が家にいないのだからバイトをしてもバレないとは確信したのだが、肝心な才能が無い。勉強はできないし体力的にもそして女性らしい体付きとは言えないこの体も売れる自信がない。私にとって、そもそも働こうと考えることですらおかしいこと。と、しみじみ思う。 それに職になりそうな趣味もない。唯一趣味と言っていいものがあるとすれば毎晩星を見るということと、お花を見ること。それも両方家の窓やベランダから。


買い物に行く時は誰かに冷たい目で見られるのが嫌で早足で帰る。


……何をしているのかしら。何故、生きているのかしらね。こんな無力で無能な人間が。私の年代だとJKなどと言い青春まっただ中のはずなのに、どうして一般的に言う普通の生活が出来ないのよ。あぁ、いえ、当たり前よね。私が普通ではないのだから……


こう思うのは、もはや日常化(エンドレス)されている。いい加減、自分に嫌気をさしているのだが結局いつもこう考えてしまうのは止めることが出来ない。本当は両親のことを少しも思い出したくなんかないし、自分が傷つくのも嫌だ。


そんなこのもやもやをどうにかしたくていつものようにカッターナイフを右手に持ったが、今日は何となく面倒だと感じてそのまま私なりの力の限り床に投げつけた。


物に当たってしまったことにより冷静になりカッターナイフを見る。


「ごめんね……痛かったわよね…もう投げつけるだなんてことはしないからね」


そう言いながら両手でそれを優しく包み、無理やり笑う。気がつけば刃を自らに向けていて首からは血が流れてた。


このように自らの体を傷つけてしまっているのはあんな両親の血が流れているのが気持ちが悪く少しでも取り除きたいと考えるからその行為をするだけであり、別に血を見て興奮するなどといった性癖を持っている訳では無い。ただ、一瞬だとしても現実逃避をしたいだけ。そして運が良ければ死ねる時が来るかなと思っているだけだ。


また、腹が立っている時は物に当たってはいけないと教育されてきた事から自らを傷つけることにしただけ。例え嫌いな親の教えでも、物に当たってしまえばその物が可哀想であるということと、弱い力でも破壊してしまう可能性がある。だから、そこは極力守っているのだ。


しかし、最近その行為だけでは物足りなくなってしまっている私がいる。解決方法は見えているからあとはそれをいつ実行するかのみ。


ただそれを躊躇しているのはとある理由がある。

それは淡い恋心だ。


その想いを寄せていた彼は中学の同級生で陸上競技部のエース。スポーツに関しては何をやらせてもある程度出来て、短距離は彼に適うものはいなかった。運動が苦手な私からすると運動神経がいいのはとても輝いて見えて、周りからは「はる」と呼ばれ友達も多く私の憧れだった。


そんなある日はる君が急に話しかけてきて、少し照れ気味に彼は花がすごく好きで私の名前が花の名称であることが素敵だと言ってくれた。友達は多いのに案外照れ屋な彼に心を引かれ、それからはお互い少しずつ距離を縮めた。


彼とはたまたま家が近かったこともあり、たまに部活動が終わるのを待ったりなんかして登下校を共にする日々を過ごした。しかし、私が家の事情のせいで段々と学校に行けなくなっていき、彼にも適当な理由を言って心配をかけないように会わなくなった。


それからというもの学校のプリントを家に届けに来てくれる際に家に来てくれていたのだが鍵は開けずにポストに入れてもらい、会うという行動を取らないようにした。


実際玄関の目の前まで好きな彼が来てくれていて本当は嬉しかった。しかし、段々とやせ細ってゆく自分を見られたくないという気持ちが上回ってしまいお礼の一言すら言えなかった。


はる君にもう一度会って今まで楽しかったことをきちんと伝えたい。そして、好きだったことを伝えたい。しかし、今の私では彼の家に行く勇気もない。もう一度彼と会う勇気があるなら……


会うという叶わない想いを願いながら彼女はもう一度カッターナイフをゆっくりと力を入れながら抱きしめた。





やっとの思いで自らの世界(じごく)からなんとか抜け出し、近くにあったリモコンを操作して番組表をつけた。


元々、見てもいない番組は流れていたのだが気分転換をしたかったため他の番組に切り替えようとした。でも、どの番組も趣味に合わないものばかりで気が冷めていってしまう。番組に興味がなくなった反面、なんとなく時間が気になり右上に小さく表示されている時間を見た。


もうすぐ23時30分を迎えようとしているらしい。


「あと30分で今日が終わるのね。あれ、明日って確か…」


ふと思い出しテレビの光と少しの外の明るさしかなく上手く見えないながらに薄い記憶を辿り、部屋を探りながらよく使っていた手帳を探す。


やっと見つけだしたそれはほこりという名の毛布をしっかりと身にまとっていたが、静かにゴミ袋の上にもっていき小学生の頃着ていた服を使って、ゆっくりと剥がしてからその場所で明日の日付のページまで開いた。


「私の誕生日……だわ」


誕生日はこの世で1番悲しい日。この世にいらない私が産まれてしまった日。


そんな彼女も明日で19歳。


あーー。もう。余計なことをしてしまったわ。


思い出すのはまた、はる君のこと。中学一年生の頃の誕生日は彼が一緒にいてくれた。中学生の私たちにはお金もなく住んでいるところは田舎なため素敵なディナーやケーキなどを食べることはしなかった。ただ彼は私に可愛い星のストラップと手紙を添えて笑顔で渡してくれたのだ。それが、嬉しくて未だに忘れられない。


その誕生日が楽しすぎてその後から1人の誕生日を迎えることは苦痛にしからならなかった。


それから無理やりその事を考えないようにして、いつも通り唯一毎日綺麗に整頓しているテーブルに手をかけて、手帳を置き一旦椅子に座わる。少し時間が経ち、さっき使ったリモコンを片付けていないと気がついてまた立ち上がる。


すると、窓からテーブルにかけての違和感を覚えた。見てみると行ったことのない森のような風景が映っていて、テーブルがスクリーンのように映し出されている。その光景はまるでここまで来いっとでも言うような玄関に続く道筋までもが続いていた。


考える暇もなく足が動く。上着なんてない。靴も履いてない。そのまま、そのまま本能に従うかのように全速力で走った。


外に出たのなんていつぶりだろうかと思ったのだが、そんなことよりも今は勝手に動く身体に委ねることにした。


どこをどう走ったのか、どのようにしてここまで来たのかは分からないのだが気がついた時には砂利道を歩いていた。走っていたはずなのに今は歩いていて、足が痛いわけでも体が寒いわけでもない。それは私が私ではないような感覚。操り人形にでもなってしまったのだろうか。


自然と動いていた足が急に重くなってきてつまずいた。辺りは木に囲まれていて、私の目のつけた先には大きな切り株が一つあった。


きっと私はあそこに行けば楽になれる。と、感じた。ただの勘だったが、きっと勘はあたる。そしてその楽というものは彼女が今1番求めていたものだった。


だから腕の力のみを使い死に物狂いで前に進む。案外距離があったのだが無事に辿り着くことが出来た。その代償で腕からも膝からも血が笑っている。しかし、私はは何も痛みを感じることはなくむしろ血がなくなっていってるのが嬉しくなった。


「き……れ…い」


不思議なことに切り株を中心とした円の形の中には一本も生えていないのにも関わらず落ち葉はたくさんあってとても違和感のある場所なのだがとても胸を打たれた。


私こんなところで終れるなんて幸せものね。このまま寝てしまいましょう。


そう、か細く言ったその時だった。


「永遠に愛してくれて何も無い私を認めてくれる。そんな幸せにしてくれる人が欲しかった……」


急に私の口は動き、心の闇を吐き出していた。


言葉を言い終わる頃には正座で何かをお願い事をするみたいに両手を前で握っていた。その手の中には無意識に持ってきていた星のストラップを握りしめながら。


誰もいない、人間が住めるような整った環境は無い。そこには私の声にならない声だけが静かに響いている。発した言葉は言わされた気がするのだが、長年胸のうちに秘めてきたことだった為何も不思議に思わなかった。


「ここなら誰にも聞こえないのね。 まぁ、そうね最期くらい悔いなく終わらせるべきよね」


それからは私自身が壊れ我慢していたものが一斉に溢れ出る。ここからは動かされている気はしない。完全なる私自身。


「……はぁ……どうしてあの二人は『桔梗(ききょう)』だなんて名前をつけたの? いつも私なんか放ったらかしでニ人で遅くまで遊びに歩くくせに。桔梗の花言葉を知っててつけた、の? 永遠の愛よ? 何一つ愛をくれないのにどうしてこんな名前にしたのよ」


小さくも大きくもない声でゆっくりはっきりと言う。


感情がこもりすぎているのか頬は真っ赤に染まり数粒の水滴が滴りながらも段々と数を増やし続けている。


全身が冷たい水滴によって濡れた。長い薄紫色の髪も、昔は白かったはずのぼろぼろのブラウスも。暖かい水滴は枯れた心を潤し、数年ぶりに素直な私になった。


「酷すぎるわよ。捨てるだなんて……ねぇ、私の存在ってそんなに必要のないものなのかしら? 必要ないならどうして産まれてしまったの? 二人ともどうして産んだのよ。 邪魔なら赤ちゃんの時に殺して欲しかったわ。 せめて、もう少し普通で自由な暮らしをさせて欲しかったわよ」


言葉を言い終わる度に雲行きが怪しくなってくる──まるで私の心を表しているみたいに。


「どうして私が捨てられるの? そんなに悪いことをしたかしら? 私は何かを捨てたから罰として捨てられるのかしら? もしそうなら早くそれを教えてよ。もしそんな過去があるならなら生涯かけて償うわ。でもそれが分からないの、どうにか自分を納得させようと思っても無理なの。 もぅ、嫌……本当に嫌よこんな人生なんて。 早く……速くこの辛さから逃げさせてよぉ!」


荒く言い放った瞬間、少し降っていた雨とは比べ物にならないほどの大雨になり、雷が私を囲むようにしながら、私の真横にある切り株を狙うようかのに一直線に向ってきた。見たこともないような光景。それからは目を離せるわけがなく、もちろん体を動かすことも出来なかった。


──こんな綺麗なものを見れるだなんて思ってもいなかったわ。私を救ってくれるために、ここへ連れ出されたのね。……誰かわからないけれどもありがとう。心の底から感謝しているわ。


そう心で思い続け、気がついた時には辺り一面が火の海になっていた。


「この光景も綺麗ね。 雨が降っていたのが嘘みたい」


燃えてゆく、やがてそれは私の周りの落ち葉に移り私はこの森と一緒になくなるの。そしてやっと……やっと私もあの素晴らしい輝きをする星の仲間になることができるのよね。きっと。


本当は知っている。私が死んでも星になんかなれないことなんて。でも幸せな夢を見ていたかった。死んだ後に自分自身が大好きな星になれたらどれだけ幸せだろうか、と。


彼女は辺りをもう一度目に焼きつけるように見渡したあと自然に口に当てていた右手を外し、その場に仰向けになった。



─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─


「おはよう、起きて?」


つられるように目を開ける。その先には顔立ちがはっきりとしている男性が一人いた。その人は銀髪の短髪でアップバング。目はパッチリ二重で眉毛がしっかりとしている。私好みな綺麗顔(びだんし)と、言うやつだ。


視界の先にいる彼の奥には空が見え、辺りからは花や木の自然を感じる香り。その事から仰向けに倒れていることが分かった。


「おっ? 起きたか?」


声は聞こえるし、寝起き?の目がぼやけていたのはすっかり治った。ただ、びっくりしすぎて声が出ない。それに焦った私はもう一度目を閉じ、少し時間が経ったあとに口と目を一緒に大きく開けてみた。今度は口を思いっきり横に広げ、目をきつく閉じながら声を出してみる。


「い〜~」


「何やってんだよ! 面白すぎな??」


「ふぁ!?」


声を出すことに必死で男性がいることを忘れていた私は、彼の言葉に焦り、またおかしな声を出してしまった。とりあえず、声が出ることが確認出来たため少し安心。それから5分ほどかけ自らを冷静にさせると、いくつかの疑問が芽生えてきた。その間彼はこちらを優しい笑顔で見続けていた。


「貴方はどちら様かしら? そ、れと……どうしてこんなところに人がいるの?」


声が上ずる。全体的に好みなのと、先程恥ずかしいところを見られてしまったからだ。それに加え他の誰かと話す機会なんて二度とないと思っていたからだろうか。そんな私の様子を見ながら彼は後ろにしていた右手を軽く握り、鼻に当て口を隠しながらまた笑い始めた。


「俺の名前はコトヒ。それと人間……らしいやつと、動物もたくさんいるよ」


綺麗な顔立ちでも笑顔は可愛らしい人だなと感じた。けど、コトヒという名前の知り合いなんていないはずで、人間らしい、?のと動物がいるだなんて理解に苦しんだ。


だって、ここは死後の世界。何も出来ない私は地獄に落ちるに決まっている。でも、話せる人がいるのならば今この人について知っておきたい。と、思った。もしかしたらこの人が地獄までの案内人として任命されているかもしれないから。それから勢いをつけて横たわっていた体を一気に起こし、彼の真正面に座る。そのまま顔を見あわせて一息置き、質問をしてみることにした。


「私の名前知っていたりするの?」


「うん? 桔梗でしょ?」


分かるはずがなく、シンプルなものを質問したつもりがあっさりと当てられてしまい戸惑いながら急いで他に質問をすることにした。


「あらっ。 な、なら私の性別はわかるかしら?」


「え、女」


「な、なら! 年齢は分からないわよね?」


「21か22じゃないのか?」


「あ、え! いえ、違う! 19よ? 私そんなに老けて見えるかしら!?」


たわいないこの会話がなんとなく楽しかった。人と話すなんて久しぶりで数年ぶりに笑顔になれた。ただ名前を知っているのが不思議で仕方ない。


「あーれ? おっかしいなぁ。 俺の事知らんの? 仕方ないから俺の自己紹介しとくと、23歳で性別は男のコトヒ! 呼ぶ時は呼び捨てかコトヒくんなっ? 名前を知っている理由、それは……俺だけのヒ、ミ、ツ♡」


どうやらこの人は私の心が読めるらしい。いや、読めている。どうして名前を知ってるのかと気になりはしたが、こちらから聞いていないのに答えてきた。その才能は認めた反面、コトヒくんは世間で言うチャラ男ということが分かり残念な人だと思った。ちなみに私にとっては苦手な分類で、関わりたくないタイプ。


→『このような男のことを顔は良くてもクズ男という』←桔梗の豆知識


「あと、こっちの世界に来た桔梗はもう23歳だから勘違いすんなよーっ」


え!?私19歳になったばかりなのにもう23歳なの、?私の憧れの20歳はいつの間に消えてしまったのかしら……


そう悲しんで彼の顔を見つめると笑いながら問いかけてくる。


「なぁ、次は俺からの質問いいか?」


「え? えぇ」


「俺って、お前の好みの顔してる?」


私自身でも分かるほど頬が熱く赤くなったのがわかる。と、言うかより、なんでこんなにグイグイ来れるのかが理解できない。せどここまで顔に出てしまっていては隠せるわけもないと諦めた。


「え、えぇ! 顔だけは好みよ!」


「なぁ、桔梗それなら。 これからはずっと俺がお前を幸せにし続けるからお前の人生かけてくれないか?」


こんな言葉信じられるわけがない。更に言えばこの私の何を求めてそんな急に変なことを言い始めたのかが全くわからない。さすがチャラ男だ。とてつもなくチャラい。と、思いたいのだが真面目なトーンで多分本気で言っている。しかし、こんな話なにか裏がありそうで怖くて仕方ない。


「無理よ、。 そしてこんな私にだって理想の恋愛像というものがあるのに付き合えないわよ。 そしてもうひとつ言うならばね?」


「え? なに? もうひとつ?」


余計なことを口走ってしまった。

そう思ったのだがここまで言って言わないのはとても失礼なため顔を少し下げ、ほんの少し見える顔を睨みながらゆっくりと伝える。


「他人の…いえ、人のそんな言葉なんて信じられるわけがないじゃない」


すると風に合わせて彼のにこやかな顔はどこか遠くに行き、逆に悲しくどこか不安げな顔がやってきた。


彼はわかりやすい人で、ものすごく感情が豊かだということを知った。そんな顔をするくらいには本気で言ってくれていたのだろうか。


でも、人として考えてしまうのはいつも両親で。私を叱るイメージと、捨てるイメージしかない。あの二人だって初めは優しかった。でも、結局は放置されてしまった。どうせみんなそうで私のことを飽きたらすぐに捨てるに決まっている。


「そっかぁ。 色々あったんだな今は聞かねーけど」


わかってくれたんだわ。諦めてもらえるのよね。 と、言うか今のでばれてしまったかしら……そう思ったのも束の間


「でも、付き合ってもらわないといけない。 お願いだから俺と付き合ってくれないか? 本気で好きなんだ。 絶対に幸せにするし、好きにさせてみせるから。 それでも無理?」


そんなこと言われても信じられるわけがない。しかし、こんな私に頭を下げている。そこからは先程よりも真剣さが伝わってくるためはっきりなんて言えない。しかし、絶対幸せにするっという言葉が嘘だと強く思ってしまう私がここにはいる。だから断りたいのにここまでされると優しい断りの言葉を考えるのに時間がかかった。


「えぇ、。」


「今言ったからな!? ありがとう桔梗! 好きだよ!!」


すると急に彼はまた先程のにこやかな顔で私に抱きついてきた。


私は何も言えず、結局断ることも出来なかった。


ただ、きっぱりと断れなかったのには理由がある。それは、切り捨てるのが怖いのだ。私は今まで大切にして欲しかった親という存在に捨てられた経験があって、その辛さを誰よりも知っているからここに来た。なのにも関わらずもし他の誰かを傷つけてしまっては無神経だと思ったのだ。


それに言い方に違和感を感じているはずなのにも関わらずそれでも『俺を捨てないでくれ』と、言うかのように微かに震えながら私を抱きしめ続けている。きっとこの人にも辛い過去があってここにいるはず。そんな思いで付き合うのはきっと良くないが、この価値のない私が誰かのためになるのならできる範囲助けるべき気がする。


何分抱き合っただろう。コトヒくんは何を思っていたのだろうか。私はなんだか幸せだと感じた。急に回されていた手が離れ、頬に一瞬何かが触れたようなきがした。


「あ! そこのイチョウの木、綺麗だからみてみろよ!」


刺された指につられて視線を向ける。それは今までで見た中で1番大きくて綺麗なイチョウの木だった。


さっき軽く触れたのは何だったのだろうか。しかし、気にしているのは私だけらしい。心が追いつかないまま手を掴まれ方向転換したと彼はそのまま思えば走り出した。だが、さすがに男子のスピードにはついていけず、息の仕方が上手くいかない。それに気づいてくれたのか何も言っていないのにゆっくりと走ってくれた。


混ざる。色々な匂いが混ざりに混ざる。

木、花、草、風。それに加えコトヒくんの汗も。

それは何故か人生で初めて感じるようなそんな安心する心地が良い香りだった。


ふと気づけばイチョウの木の付近。ついたのにも関わらず手はまだ離されることなくしっかりと掴まれている。


その手をみながらふと思ってしまった。


……この手はいつ離されてしまうの?今は一応付き合っている私達。いつ捨てられてしまうのかがやっぱりは怖いわ……。今まで恋愛経験なんてないし……こんな気持ちで付き合い続けてしまっていていいのかしら。


「コ、コトヒくん!」


「んおっ!? どうした? 手嫌だったか? 離す?」


木に見とれているコトヒくんが慌てて私の方を向き、不安げに眉毛を下げながら問いかけてきた。確かに、離してほしい。でも、この温もりを少しでも感じていたいというだめな私もここにいる。


「そっかそっかまだ早かったか。 勝手にごめんなぁ。 でも繋いでて欲しいよね? 俺も繋いでないからこのままにしとくよ?」


そんな優しい言葉をかけられ、驚きながらコトヒくんを見上げる。そんな彼に今なら気持ちを伝えられる気がして恐る恐る伝えてみることにした。


「私、捨てられるのが怖い。 でも、どうせあなたもそのうち捨てるでしょ? そうなのならやっぱし付き合うことなんてできないわ。 いえ、付き合いたくなんてないの」


自然とそう涙声で訴えてた。彼を疑いたいわけじゃないのに疑ってしまう自分が憎くて仕方なかった。 さっきの決断だって自分で意思が弱かったと言うことに対しても傷つく。やはり私は生きていたら駄目な存在。


「桔梗俺の話聞いてくれるか?」


聞くことが怖くなってしまった為イチョウの木を横目でうっすらと見つめながら軽く頷く。


「出会ったのが今日で、本当に本気で好きって思っていることを今すぐ信じてもらえるとなんて一切思ってない。 ほぼ一目惚れに近いことをした俺自身も驚いているから。 けどな? 本気で好きなんだ。 絶対に捨てない、捨てるとなったら殴っても……いや、殺したっていい。 だから本当に大丈夫だぞ? 本気なのに捨てれるわけがないし」


内容なんて入ってこない。

ただ信じてみたかった。


この人なら幸せにしてくれるかもしれない。こんなすぐに信じるなんて私はどれだけ軽いのだろう。でも、本当はずっと愛情が欲しいと思っていた。それと、この謎な世界を一人きりで生きていくのは辛いと思った。その気まぐれだとしても私は、永遠に続く幸せがある可能性があるのならその少しの可能性に賭けようと思った。


「わかったわ」


ゆっくりとコトヒくんの方へと目を向けた。


目が合う。


私は初めから目を背けていたのにコトヒくんはずっと私のことを見続けて言葉を投げかけてくれていたらしい。なんだか彼を避けて目を見なかった私自身が情けなく申し訳ないことをしてしまったと心底思い深く反省した。


「コトヒ……くん」


「目が合うと思わなかった」さっきまではこう伝わるような表情をしていたが、声をかけた後には、案外冷静な心を決めているような……そんなかっこいい表情をしている男性がそこに居た。


「ん?」


「コトヒくんごめんなさい。 えっと。 私、少し……って、え?

どうして泣いているの!?」


その質問には答えてくれなくてただ彼は涙を流している。男性の泣き顔は初めて見た。なんとなくその姿がはる君と重なったが、そんな事は気にしている場合では無いと思い、かき消した。


「ごめんな、そうだよな。 俺って桔梗の気持ち無視してるよな」


実際その通りだ。だからそうだよと言えば全部が終わるのに、私はこの人といることを決めたのだ。そしてそのことに関しては少し前に思っていたことであって、今さら謝られるなんて酷い言い方をすれば迷惑なのだ。


「あ、あのね? コトヒくんは、もっと私が伝えようとしている言葉の意味考えてくれないかしら? それと最後までお話を聞いてほしいの! さっきの続きは、少し怖いけど私も好きになりたいって。そう言いかけたのよ? な、なのに中途半端な意味で伝わってしまっているの、悲しくて私……泣いてしまうわよ!?」


私自身ですら何を言っているのかがわからない。

ただ伝えたかった。伝わって欲しかった。コトヒくんと言う人間をきちんと認めたいと心から思ったということを。


さっきのコトヒくんの気持ちがなんとなくわかった気がする。私の気持ちをものすごく届けたくて、届いて欲しくて。コトヒくんの心を開くひとつの鍵になって欲しいと思うこの気持ち。とてもむずむずする気持ちだけど、それは嫌ではなかった。


「ありがとな」


彼はそう言いながら頬も鼻も赤らめ、私の大好きな笑顔に戻ってくれた。


正直、本当に伝わったのかは不安なところもある。けど、二人でこの先もこのようなことも経験していってお互いがお互いをしっかりと理解し、信じ合えるようになりたいと思った。


そして、コトヒくんも私と同じことをを思ってくれていると秘かに願って。


─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─



それから七日が過ぎた。

今日でコトヒくんと付き合って一週間。記念日は比較的に結構楽しみにする方だからいつものりテンションが一段と高い。


「桔梗! 買い物行くぞー!」


そう私に声をかけるコトヒくんをカメラで撮った。


「恥ずかしいから消せよ!? と、ゆーか何枚撮ってんだ? それ買ったの昨日だろー?」


と、言うのも昨日2人でショッピングモールに言った際に見つけたカメラに熱い視線を送っていると買ってくれたものなのだ。


昨日のも合わせて150枚以上も撮ったことは私だけが知っていること。他人から見れば同じ写真ばかりと言うかもしれない。しかし、目が少し違うだとか口元が少し違うとかでどれも大切な写真。だからこそぼやけてしまったもの以外は消すことが出来ないのだ。


「まぁ、いいや。 車乗れよー?」


「今すぐ向かうわ!」


車に乗ること約2時間。私たちはとても大きな書店についた。少し歩いてみると目の前は本ではなく手帳が並んでいる。


「自分の好きな手帳選んでいいぞ〜」


「えっ! いいの!?」


大きさもイラストも色々なものがあり、悩みに悩んで1時間後。

ようやく一つに絞ることが出来た。


「コトヒくん! これが欲しいわ!!」


本ほどまではいかないがある程度大きく、可愛らしい淡いピンクのウサギが数カ所にいるものにした。ある程度大きくしたのは、出来事を書きやすい空白がたくさんあるものにしたかったから。


「本当にこれで後悔しないのか?」


「しないわ!」


そうはっきりと答えた私を彼は安心したように笑顔で見つめてきた。


「んーじゃ、俺それとお揃いのハムスターのやつにするから取ってくんね?」


そんなことをさらっと言ってしまうコトヒくんに驚いた。確かに私が選んだのとお揃いにするのにはハムスターのものしかないのだが、男性が持つにはどう考えても可愛らしすぎるものなのだ。


「まって?! 私それなら他のにするわよ!?」


「俺はこれがいーの」


彼はべーっと舌を軽く出し、驚いていると私の分の手帳も持ちありえないほどスピードでレジに向かって会計を済ませた。かと思えばまたありえないほどのスピードで私の元へ戻ってくる。その姿が店内だと忘れてしまうほどに可愛くてとても愛おしいと思った。


「桔梗は他に欲しいものねーの?」


書店を出て、車を走らせる前にそう聞いてくれる。正直少し遅い気もするがこの優しさがとても嬉しい。私のことをいつも気にしてくれているみたいで。


「手帳が欲しかったのよ! 今は他にいらないわっ!」


そっか。と、でも言うようにやんわりと笑う彼をまた写真に収める。車に入ってからは二人分の手帳が入った袋を抱き枕のようにしっかりと抱いて寝た。


家に着いた頃にはあたりが真っ暗。車から降りて空を見上げてみると星がとても綺麗に輝いていた。車の右隣りには私と同じく空を見上げている人がいる。その人は月の光と遠くの街頭の光でいつもよりかっこよく見えた。その姿をまた写真に収め、私ももう一度空を見上げた。


「直接見る星はとっても綺麗ね」


「そうだな」


「風邪ひくからそろそろ中入ろうか?」


少しばかり悲しいと思った。今見ている星は今しか見れない。中々入ると言えないく軽く拗ねている私にコトヒくんは優しく頭を撫でてくれた。


結局そのまま家に入り、手洗いとうがいを済ませ買ってもらった手帳と睨めっこをする。


「コトヒくん! 夜ご飯作る前に今までの分の出来事一緒に書きましょっ♪」


謎にメロディーチックになってしまったのと、さっきの落ち込んだとは思えないテンションなため、きっとコトヒくんは驚いている。が、嫌とも言わずに近すぎる距離に来てほぼ背後から私のお腹あたりに手を回した。正直変に気を使いすぎてしまってテンションが分からなかったのだが、相手の気に触らないならこれで正解だったのだろう。


「今日は11月の1日の月曜日だから……あっ! ここね!」



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1日│コトヒくんにお揃いの手帳を買ってもらった

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31日│コトヒくんにお揃いのスマホを買ってもらった

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30日│〜Halloween〜コトヒくんと恋愛映画を観に行った

────────────────────────────

29日│コトヒくんと二人で特製フルーツジュースを作った

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28日│コトヒくんにお揃いのコップとお皿を買ってもらった

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27日│コトヒくんと家の周りをお散歩した

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26日│コトヒくんとペンとかハサミとかを買いに行った

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25日│コトヒくんとこの家で一緒に暮らすことになった

────────────────────────────



これを横目に見ていた名前の本人は照れていることを私は知っている。しかし、あえてそこには触れずにご飯をいつも通り一緒に作ることにした。




手帳を買ってもらった次の日の朝。昨晩いつもより寝るのが遅くなってしまっためかコトヒくんが全然起きてこない。


「朝ごはんできたわよー? 起きないのー?」


「うむゃんむぅー」


「ほらほら、いつもの起きる時間過ぎてるわよ!」


「ききょーがぎゅーってしてくれたらぁ」


寝ぼけている時限定の甘えたコトヒくん。この、ギャップがたまらなく萌えてしまう。


「ほらほら分かったわよ、……ほら起きるのよっ!」


と、まるで新婚生活のような生活をほんの少し続けた私達。


共にご飯を食べ、共にくだらない話をし、共に笑いあったこの約一週間は、本当に心の底から楽しいもので毎日が大切で幸せのひととき。夢のハロウィンパーティーなんかもしてこんなにも毎日が幸せに溢れているだなんて初めてで。こんなに生きることが楽しいと思った。たった1週間がこんなにも楽しいものにすることを私でも出来るなんて、本当に思いもしていなかった。


もしかしたら、これが恋人同士が二人で暮らしていたら普通なのかもしれない。だけれどもこんな生活今までできるとは思ってなかった私にとっては夢のような気分が今でも抜けない。


ふと、ソファーに座りながら目だけを動かすと雨がちらほらと降り始めていることに気がついた。ちなみに、1度死んでから初めて見る雨。


「この世界でも死ぬことってあるのかしら」


「あるよ」


誰かの声が後ろから聞こえた。

低く、怖い、威圧のあるような冷めた声。振り返るのがとても怖い。


「桔梗」


そっと後ろを振り向く。


コトヒくんだわっ……!


「コトヒくん、いなくならないでね。 重いってわかってるけど絶対私と一緒にいてね?」


人生で放った中で一番重い言葉。しかも泣きながら抱きつきキャラになんて合わない。でも好きになって、両思いになれて。離れるのが怖くなってしまった。


もし「 あるよ 」と、そう言ったのがコトヒくんだっとしても今、目の前にいるその愛おしい彼に離れられることがものすごく怖いとそう伝えたかった。


「うん、そばにいるよ」


前にも似たようなことを言われたことはある。でも、改めて聞く事が出来てとても安心できた。───少しの違和感を雨が降っているせいにして


「コトヒ!」


初めて呼び捨てで呼んでみた。この雰囲気をいつものような幸せに包まれた暖かい雰囲気にしたかったから。呼び捨てで呼ぶ練習はいつもこっこりしていたが、いざ呼んでみると恥ずかしすぎて次の言葉が出てこない。


「ひゃっ?!」


いつもより強引に、力強く抱きしめられ変な声が出てしまった。


「桔梗。 お前って人生が三回あるって信じてる?」


抱きしめられたまま真面目な声で問われる。

さっきの「 あるよ 」の声と似た声で。


「え、えぇ。 二回までなら信じているわ。 わたし……私ね? 一度死んでここに来たの。だから二回目までは信じているわ」


誤った理解をされないように正直に話した。


「一つ、肉体的な死。 二つ、精神的な死。 三つ、魂的な死。 俺はそう思っている」


…………肉体的、精神的、魂的?

私はあの森で肉体的にも精神的にも死んだ。

今のこの私は魂の最後の命で生きている……の?


声が出ない。体が動かない。ただ頭だけが回る。


今がとても幸せなのに。私何年も何十年も辛かったのに幸せな期間はこんなにも少ないことに酷いと思った。


私いつからこんなに欲しがりになってしまったのかしら……。地獄に落ちると思っていたのにこんな幸せな生活が出来ているのに。


「大丈夫だ。 今死ぬわけじゃないだろ? 俺としたいこと思いっきりやりきろうぜ? 二人で最高に幸せにもっと、もっとなろう」


何かを発した訳では無い。

ただ、私が不安になったことに的確に答えてくれたことがものすごく嬉しかった。


「私、ドライブに行きたいの。 いつもみたくご飯作るのもいいけど美味しいもの食べに行きたいし旅行にも行きたいの。 他にもたくさんたっくさん……」


声が出たかと思えば一気に言いたいことが出てきて最終的には言葉が詰まってしまった。


「俺だってしたい。 他にもキスしたりぎゅーって抱きあったりもまだまだたくさんしたい」


「私だってキスもぎゅーもしたいわ。 コトヒくんと」


先程からというものからキャラが壊れてばかりだ。

いつもなら恥ずかしくて否定も肯定もしないことを、今は肯定しかしていない。


「桔梗? 今聞くのは本当に馬鹿だと思うが、俺の言葉って今は信じてくれているのか?」


本当のことを言ってしまえば恐らく信じられていない部分がまだ半分以上ある。今だって重いことを言ってしまい、うざかったりめんどくさくなったりしてしまったのではないか。その関係で嫌われて明日の朝起きてみれば隣には誰もいなくなってしまっているのではないか。今のこの瞬間だけでもこんなに信じられていない。大丈夫だと、そう信じたいけれど、怖くて怖くて。どうすればいいのかすら分からなくて。ただただ素直に発言しているのだった。


しかし、ここは何も答えることは出来なかった。


無言な時間が過ぎた。何分、いや何時間たったかはわからない。と、ふと思ったときに声が聞こえた。


「俺、ちょっと行きたいところ出来たから行ってくる」


「わかったわ」


悟った。コトヒくんはもう戻ってこない。

明日の朝まで寝て、起きてもこの家に居なかったら私はきっと魂的にも死んで本当に命を終わらせるのだろうと。


涙なんてもはや出てこない。ただふらふらとする。貧血にでもなってしまったのだろうか。


冷蔵庫を開け、当たり前かのようにフルーツジュースを手に取り一度テーブルの上に置く。それから食器棚の中央部に幸せそうに二並んでいるうちのかわいい紫がかったピンクのお花がニ輪ほど描かれたコップを手に取った。


もし、このお花の名前が桔梗だったとしたら使っていた約一週間がとても恥ずかしいわね。そして残酷だわ。


私は桔梗の花を見たことがない。見ていたとしても、理解をしては出会ったことがないのだ。私自身の名前が好きではない以上、見る必要なんかないと思っていたが、「この幸せだった一週間のうちに二人で見ておきたかった」と、少しばかり後悔をしたのだった。


「ジュースがぬるくなってしまうから飲まなければならないわね」


その声は雨の音で消された。


家の中は暗い。

私は一人きり。


「結局こうじゃない! このコップは買いに行った時本当に楽しくて幸せで。 このジュースだって一緒に作ったものじゃない。 そう結局私は一人になることが決まっているのよ」


雨の音が消えた。どうやら叫んだ後気を失い、そのまま日をまたいだようだ。


「ほら、結局コトヒくんだっていないじゃない」


そう言いながら辺りを見渡してみると、テーブルの上に昨日とはプラスアルファで何かがあることに気がついた。


──小さな向日葵が三輪ほど描かれたコップ


「コトヒ……くん!?」


それはコトヒくんが使っているコップだった。

しかもわざわざ置いてあった私のコップの真隣に置いてあったので彼の名前を呼ばずにはいられなかった。


「おはよう、ききょう!」


そう返事が帰ってきた。声でわかる。私の愛している人の声だと。


「コトヒくん、大好きっ」


姿を見つけたかと思えば駆け出し、腰あたりにゆっくりと両腕をまわした後で気持ちを込めてそう言った。


大好き。っと、冗談を交えることなく言ったのは初めてだった。キスをしたい。ぎゅーってしたいと伝えたことは何度もあったが心の中で大好き、愛してるそう想っていても声を出して伝えたのは初めてだったのだ。


「俺は愛しているよ」


本当に嬉しくて。幸せすぎて私自身が別人かと思うほどだった。コトヒくんはいつもそうだ。姿容的にはチャラチャラしているのにも関わらず、私に対しては誠実に対応してくれる。


「桔梗、明日俺が行くところ決めてもいい?」


また、幸せに包まれた時間を過ごし続けられる。そしてこの人が本当に運命の人だとそう感じた。


「うんっ! コトヒくんあ、ありがとう! 楽しみにしているわね?」


まだ素直にすぐお礼を言うのは慣れないが、少しでも頑張ってでも言おうと決めたのだ。少しでも最後の人生で後悔をしないために。


─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─



「桔梗! 着いたぞー? ほら、起きろー!」


朝が早かったため、どうにか彼に手を引かれながら車に乗ったのは言いものの気がつけば眠ってしまっていた。それでも怒らずに少し雑ではあるが起こしてくれるコトヒくんが愛おしくてたまらない。


それから目を開けゆっくりと体を起き上げるのを支えてもらいながら車を降りた。


「きれい」


辺り一面に見えるのは向日葵畑。

あまりにも綺麗な光景と、コップを買った時に向日葵が好きと言ったのを覚えててくれていたことに感動した。


でも今は11月で普通に考えれば向日葵がこんなに咲いているなんて考えられないがそこは気が付かないふりをして楽しむことにした。


「私はあなただけを見つめる」


「向日葵の花言葉か?」


「多分そうよ」


コトヒくんからはわかりやすいほど「 ん? 違うの? 」と、でも言いたげな表情をしている。


私はあってるかは全く分からないのだが、その花を見つめて何となく通じ合うことが出来ればほとんどの花言葉を予想することが出来る。違うかもしれない。ただ、私と心の通じた花はそう伝えたいのだ。


くるっと半回転をし心が通じあったばかりの向日葵の右側につく。それからこれまで誰にも見せたことのない笑顔でを彼に向けた。


「この花言葉通り、私はコトヒくんだけを見ているわよ」


照れ隠しで思いっきり目をにこっと痛いくらい瞑る。声が聞こえない。嫌だったのだろうか。表情を確認するためにゆっくりと目を開ける……つもりだった。


「コ、コ、コトヒくん!?」


「桔梗静かに」


大好きな男っぽい声が耳元で聞こえる。それには色気という言葉がぴったりの声が混ざっていた。


ドキドキしすぎて死んでしまいそうで、冷静になろうとしてもなれなかった。心臓がおかしいくらい高鳴っている。それは私だけじゃなくてコトヒくんもだった。


「目、瞑って?」


無意識のうちに目を開けていたらしい。だから返事もせず慌てて目をきつく閉じた。きっと……誰かに見られているかもしれないと言う恥ずかしさととコトヒくんのあまりのかっこよさに緊張してしまったからきつく閉じた。何度も痛いくらいに目を瞑ってしまったためか倒れそうになる。


足の力が抜けた時、私の肩は支えられ唇には暖かく柔らかいものが触れた。きっとそれは彼の唇。今までで一番溶けてしまいそうなキスだ。好きな花の中で大好きな人の腕の中に包まれながら大好きな人の愛を感じる。……私、ものすごく幸せ


「目、開けて?」


あたりを見てもぼやけた向日葵畑しか見えない。不思議に思っていると軽くロングスカートを引っ張られ下を見た。コトヒくんを見たときに首元に何かが光っているように見え、それを手に取って目と平行な所まで何かを持ってくる。


「向日葵のネックレスっ!」


思わずコトヒくんをみると、彼の首にも私と同じネックレスが付けられていた。この前行きたいところができたと、一人でどこかへ行ってしまったタイミングで買いに行ってくれていたらしい。


「なぁ桔梗。 ネックレスで申し訳ないんだけどよ俺と結婚してくれないかな」


声も体も震えている。 本気だとすぐに分かるほど緊張しているのがしっかりと伝わってくる。


「結婚式の時はきちんと指輪が欲しいわ」


素直に「 はい 」そういえば可愛いのかもしれない。けれども私には恥ずかしすぎて遠回しにしか伝えられなかった。


「任せとけよ」


意味が伝わったことに正直驚いた。多分前のコトヒくんなら無理だったであろう。私と一緒にいてこの類いの言葉に慣れたのか、少し考えて理解してくれたのか。はたまた奇跡的に理解したのかはわかるはずもない。しかし、伝わってくれたことに安心と感動の感情が膨らむ。


気がつけば家のソファーの上。記憶がない訳では無いが、コトヒくんを見ていても、綺麗な向日葵を見ていてもなんとなくふわふわしていた気がする。それが今になってだいぶいつも通りになり、さっきまではコトヒくんからの人生の最大の告白が嬉しすぎてボーッとしているのだとやっと理解した。


「あっ。 コトヒくん。私ね? コトヒくんと星を見たいわ!」


この前見た星が綺麗で、また見たいと思った。前回はそれぞれの心の世界で見ていたが今日は同じ世界観で見たいと。


「幸せそうだな! それ!」


「私もそう思うの! たくさんの星を見れるかしら」


「夜、雨降る予定ではあるけど大丈夫だといいよな」


雨……降ってしまうのかしら。せっかく一緒に見るってものすごく気持ちが乗ってくれている今日を逃したくないの。だからお願い晴れてくれないかしら。


そう心の中で訴えた。気持ちを込め目を瞑りながら、お祈りをするように両手を胸のあたりに握り続ける。


とりあえず腹ごしらえの為に2人でいつも通り料理を始めた。ある程度準備が終わり彼が最後の野菜を切る音に他の音が混ざった。


「雨降ってきてしまったわ」


コトヒくんは「え?」と声を出したかと思えば洗っていた野菜を置き、走って窓から外を覗いている。


「雨と虹と星空」


「何かの本の題名かしら?」


「桔梗も来てみたらわかるよ」


料理の一品目が完成し良い区切りがついたため、コトヒくんの横に立つ。私は目の前のあまりにも美しい光景に瞬きをすることが出来なかった。夢かと思うくらい綺麗で、さっき言っていた言葉はシンプルだけどその通りだった。


辺りは二つの輝き侵食され、まるで夢の世界で、好きな人と見るこの光景は一生の思い出にするほか何も無いものとなった。


「少し大変になるけど、今日はテーブルと椅子持って来てここで食べよーぜ?」


「いい考えね、私もそうしたいわ!」


椅子をよけ、2人暮しには大きい4人用のテーブルを動かす。テーブルは思ったよりも軽くあっさりと窓の近くに移動することが出来た。即座さっき二人で作った肉じゃがとほうれん草のおひたし、ご飯と飲み物をテーブルに置き、外の景色を見ながら夕飯を食べることにした。こんなロマンチックな夜は初めてで、今日は幸せすぎてなんだか目から何かが零れてきた。


「桔梗どうした?」


「えっ、?」


「どうして泣いてるんだ?」


「泣いてなんかいないわ」


コトヒくんが席をわざわざ立って私の隣に来たかと思えばすぐに私の目元を優しく親指で吹いてくれた。その優しさがあまりにも幸せ過ぎて彼の胸に飛び込みその夜は1日中泣いていた。


「私すっごく幸せ。この幸せは手放しなくないわ」


そう言い続けながら。



また朝になった。少し期待を込めながらカーテンを開けたが、はやり昨日の光景は何も無かったかのように消えている。


「夢……だったのかしら。 いえ。 本当よね!」


そう独り言をいい終わり、朝のルーティーンを守るために洗面所に向かう。


「あれっ、?」


顔を洗うために鏡を見ながら髪を縛った。なんだか鏡越しの私がぼやけて見える。詳しくいえば顔だけ。前はもっと普通に見えていてここまでぼやけていると感じたことは一度もなかった。怖くなって、でも気になって近くでみれる手持ち鏡を手にし普通なら顔がはっきりと見える位置まで持ってきたのだが、やはりぼやけてしか見えない。ただ視力が落ちてしまっただけの割には確実におかしい。


「あれ? 朝ご飯は?」


お揃いの寝間着を着て、少しわざとらしくあくびをしていた彼は一人で鏡を見つめ続けている私を不思議そうに尋ねてきた。


「あっ! えっと。 今日ショッピングモール行くなら大丈夫かなって思ってしまって作っていないの」


「そっか! なら早くいこーぜ! お腹すいたー」


車に乗ったが何も話せない。コトヒくんも何も聞いてこない。いつもは何も言わずにかかっている音楽すらかかっていない。


「桔梗せっかくここ来たのに何も見ないのか?」


「ねぇ、少しレストランに入ってもいい?」


「おう」


エレベーターで少し上の階に登り、目に止まったファミリーレストランに入った。


「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」


「2名で」


そのレストランの白と赤の雰囲気に合うような制服をきちんと着こなし、満面の笑みで問いてきた店員さんだったが、コトヒくんの言い方と私の雰囲気により笑顔ではあるのだが、多少顔を引きつらせながら対応をしていると伝わってくる。それに、聞き間違いかもしれないのだが声が震えていた気もする。


「では、お席にご案内致します」


「ご注文が決まりましたら、このボタンでお呼びください」


「はい、あー、カルボナーラとドリアで」


「かしこまりましたっ!」


誰から見てもかっこいいコトヒくんの顔で投げ捨てるような言い方はとても怖く、冷たかった。桔梗の態度がいつもと違って不機嫌になってしまっているのは確かだろう。だとしてもいつもとは違いすぎてまるで別人みたいだ。これがコトヒくんの本当の姿なのだろうか。しかし考えれば考えていくほど余計に不安になり、離したくないと感じるほどの幸せなど知らなかった私自身に戻ってしまいたくなってしまう。


だからそれ以上の予想──いや、妄想をやめた。


理由もなく見ていた場所から目を離して、そのまま目を閉じながら他のお客さんの声を聞く。レストランは今の私達にはちょうど良く、笑い声や話し声でレストラン中が少しがやがやしていることに今初めて気がついた。


「お手洗いに行ってくるわね」


目を背け、彼が何も反応しないことをわかってはいながらも声をかけた。私自身としては別にお手洗いに行きたかった訳では無い。しかし、少しの間だとしてもコトヒくんを一人にさせてあげたかったのだ。


「えっ」


突然変な寒気がする。自分でもわかるほど一瞬で血の気が引いてきて立っているのもやっと。


目線の先にある鏡を伏し目がちに見てみてもいつも通り顔がぼやけているだけ。他に変わったことなどない。と、思った瞬間幼い頃の私と同じ顔の子がこの私に「お母さんー? お父さんはどこにいるのー?」と、言いながら私の服を引っ張っている光景が写った。そして、いざ鏡越しに私自身の顔を見てみると最後に見た私が幼い頃の母親の顔そのもの。さらに言えば、意識してやっていた訳じゃないのに髪型もロングに緩く巻いている所も同じ。


正直母親の顔は全く覚えていなかったのだが、雰囲気や髪型を思い出し目の前に映る私の顔は母親だと確信した。それに焦り後ろをもう一度振り返ってみたが誰もいない。不思議に思いもう一度鏡越しに私の顔を見てみると、いつもと変わらず顔だけが濁っているだけだった。


今日は何なのよ、おかしいわ。私は私。あんな放ったらかしにする母親失格な人なわけなんて無いわ。さすがにきっとコトヒくんは心配しているわよねきっと。そろそろ戻ろうかしら、。


そう、自分を失わないように思っているつもりでも今の私は恐怖に呑まれてしまっていた。


「時間かかってたけど大丈夫なのかよ」


「お腹の調子が良くなかったのよ」


「ふーん」


「うん」


帰ってきた時間が遅いのか、早いのかは私自身わかってはいないが怒っていながらも少しは心配してくれていたのだと気づいた。こんな空気的には言ってはいけないことはわかるけれどどうしても言わなければ気に食わなくなり、素直に思ったことを口に出してみることにする。


「コトヒくん!?」


「え?」


「今日、初めての喧嘩記念日よ!」


沈黙が少し続き、これまでむすっとしていた彼がいつもの太陽の日を浴びたかのような雰囲気になり急に吹き出した。


「桔梗、お、お前何言ってんだよ! 寂しすぎて頭やられっちまったか?」


てへへっと照れ隠しで斜め下を見ながら思わず声が出てしまったのだった。


「お待たせいたしました! カルボナーラのお客様──」


やっと料理がそろい、最近自分の顔がぼやけて見えることを相談するタイミングが近づいてくる。


怖い。どう言われるのか、どう思われるのか。引かれてしまうのではないか。でもこのまま言わなければ私が成長出来ていない証になってしまう。


そう考えているうちにドリアも卓に並んだ。


「「いただきます」」


食べている時には一言も話すことは無く、ドリアの味は美味しい。と、感じることが出来なかった。味がと言うよりかは緊張と不安でそこに気が行かない。お腹を膨らませるためにお腹に詰めたような感覚でドリアには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「「ごちそうさまでした」」


また同じタイミングでその言葉を発し、何となくそれが彼と話す小さな勇気になった。


「あのねっ? コトヒくん。おふざけとかじゃなく、本当のお話聞いてくれるかしら」


「お、おう」


私たちだけ周りと雰囲気が違う。周りのお客さんは顔を赤らめながら話している人や、大きな声で笑っていたりくすくすと笑っていたりと、色で例えればオレンジやピンク色だ。私たちは完璧なる黒に少しピンクを足したくらいの色。早くこの色の雰囲気をいつもに戻すためにも頑張らなければならない。


「今日……いえ、今さっきはっきりと気がついてしまったの。 鏡に映る私の顔がぼやけているってことに。 正直、視力が落ちたことを疑ったわ。 でも、髪の毛や服などはきちんと細かく見えるのよ。 私は化粧をする人ではないから、今まではっきりとは気づかなかっただけであって少しづつ顔が濁って見えていたはずなの」


「え、でも俺にはきちんと見えてるぞ? 一緒にいた当初から比べれば少し大人びた顔になった気はするがな」


正直そこじゃない。彼が見える見えないの話ではなく、私自身が自らの顔が見えないのだ。しかしそこを否定すると話が逸れてしまいそうな気がした為、そのまま話を続ける。


「その見えてる顔が、私の母親の顔らしいの。 さっきお手洗いに行ったじゃない? その時に……」


いざ、話すとなると怖くて言葉が続かなくなってしまった。


「俺はお前の話を信じるから、ゆっくりでいいし分かりにくくてもいいから言葉にしてくれ。 お前がどんな話をしようが俺は桔梗が好きだから。 離れねーから。 安心して話せよ」


さっきの不機嫌なコトヒくんの態度ではないことがわかり安心する。少し時間を置き、自分のタイミングで話しかけた。


「さっき言いかけたことを話してもいいかしら」


彼は私の目を見ながらゆっくりと頷く。

その対応から、真剣に話を聞いてくれることを確信し先ほどの話を詳しく話した。


「お手洗いに行った時に小さな頃の私と似た子供が──」


「そうか、それは怖かったよな。 でも桔梗、お前は母親ではないし、顔は母親の顔ではないから安心しろ」


「えぇ」


コトヒくんなら大丈夫だと言ってくれるとは思ってはいた。しかし、母親の顔を知らない割には言い回しに引っかかるものがあったがあえて今はそこを気がつかないことにした。


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数十カ月が過ぎ、また向日葵が綺麗に咲く季節になった。

未だに顔がぼやけるのは治ることは無い。ただ、前よりも私自身に余裕を持つことができるようになり、ぼやけていることに関してはあまり気にしなくなっていた。


「コトヒー! また向日葵畑に連れて行ってくれないかしら?」


「おっ! 今時間だともうすぐ暗くなるから明日にでも行くか!」


この過ぎた歳月の中で私たちの関係は少し変わった。呼び方が変わったり、普通に手を繋ぐようになったりと普通の恋人らしくなったのだ。


「でも、大丈夫か? 最近大変なんじゃないのか?」


「大丈夫ではないのかもしれないわ。 でも、気分転換も大切だと思うの! せっかく行きたいと思えいて、連れて行ってくれるのなら行きたいの!」


最近大変と、言うのは前は鏡越しにしか見えなかった幼い頃の私が実際に見えるようになってきてしまい、そのストレスからか私はほぼ寝たきりになっているという状況のことだ。


「わかった。 その代わり思いっきり楽しめよ?」


「もちろんよ!」


「よーし。 明日の明日で急に外に出るのは体力が心配だから今、少し外に出てみないか?」


そうね。と言いながら私は微笑む。こんな元気の無い私でも一緒に居てくれるコトヒは本当に優しいと心底思う。本当に幸せ者だなと思う反面、お返しができていないと少し罪悪感が残るがそんなことを考える暇があるなら彼とくっついていたい為、誘うような形で彼の首あたりに両腕を回し無理やりベッドに来させ唇と頬に軽く数回ずつキスをした。照れたコトヒは顔が真っ赤だ。それを隠そうとしたのか、右手を軽く握り鼻にあて口を隠した。




夜になった。窓際の花瓶にあるカサブランカが月の光と調和しいつもと違う雰囲気を醸し出している。それはとても綺麗で、思わず見とれてしまうほどであった。


「お母さん? このお花なんて言うの?」


まただ。幼い頃の私にそっくりな子が今の私に話しかける。ただ、今日はいつもより気分が良かったため私は彼女の問いに答えてみることにした。


「そのお花は、カサブランカよ。 ちなみに花言葉は……そうね、雄大な愛とか永遠の絆を意味するみたい」


と、冷静さを保って教えてあげた。すると急に満面の笑みでこちらを向いた。


「桔梗さん。 やっとお話しできたぁ。あのね? 私の体は幼い頃のあなたでもあり、中身はこれからのあなたでもある。と、聞いている。 急な話で信じないかもしれないけど、あなたはまた死ぬよ。 それを必ず選ぶ。 最後の魂の命をどう使うのかはあなた次第だから私は何も言わないし、死ぬことを選んだ先何があるかは分からない。そして、私自身も本当に今後のあなたなのかも分かっていない。 ちなみに私は自分ですらどんな存在なのか分かっていない。 それだけ覚えておいてね。 ではさよーなら♡」


その人は窓を開けそのまま暗闇の中にかけて行った。正直何が起こったのかは理解出来ていない。しかし、さっきの人( ? )がいつもは小さい子供の声をしていたのに、急に大人びた声を出し恐ろしいことを言ったということだけが頭に残る。


今起こった出来事を夢だと思いたいのだが、開いた窓とその暗闇から入ってくる風に揺れ続けているカーテンが事実だということを痛いくらい叩きつけられているような感覚になった。


「……う? きっきょー? 外でねーの?」


微かに外から声が聞こえる。それから私はふらふらしながらコトヒの元へと向かった。


「お、お前ふらふらしてるけど大丈夫か? 歩ける?」


「え、えぇ。 ゆっくりなら歩けるわよ」


と、言ったのはいいもののその瞬間から意識が遠のいていった。


「起きれよ」


今までで1番嫌な起こされ方をした。いや、これはまだ夢の途中なのではないだろうか。コトヒらしき人が車の外から私を見る目は冷めていて、遠いい昔に聞いたことのあるようなその声は冷たく恐ろしかった。認めたくなんかはないけど、その恐ろしい声の先にいるのはやっぱりコトヒでこれ以上逃げ道はない。今の彼は黒いオーラに包まれているように見える。その姿はまるで何かに呪われてしまったかのようでなぜか私が悲しくなってきてしまう。


「コトヒ? 何かあったの? なんでも聞くから教えてくれないかしら」


聞こえているのかそれとも聞こえていないのか。彼はその場から私を睨みつけるだけだった。どうやら私が車から降りないと話しですらもさせてもらえないらしい。仕方なく私は車から出ることにした。


暗くてよく見えていなかったが、どうやらここはあのショッピングモールの目の前。もう閉まっているのにここに来たその理由は知りもしない。もはやどうだっていい。コトヒがいつもみたく戻ってくれれば。


「何回お前のこと呼んでやったと思ってんだよ。 まぁいい。 行くぞ」


目隠しをされ、強く腕を掴まれて連れていかれたのはあの、ショッピングモールの屋上。


屋上に来たのは初めてで思ったよりも狭かった。何となく夢と現実を見せつけられたような感覚になった。それは今までの生活は夢でそれから覚めさせるためにここに連れてこられたのかと感じる。


「俺は、ここから飛び降りる。 お前はどうする?」


彼が指をさした奥には夜景が一番綺麗な方向だった。この方向に飛び降りる理由が何か意味があるのだろうか。


「桔梗。 怖い思いさせててごめんな。 でもこうするしかないんだ。 今は詳しく言えないけど、ここから飛び降りて次の世界で絶対言うからお願いだから一緒にここから死んでくれ……」


コトヒは時に訳の分からないことを言う。今回はその中でも一番訳の分からないことだった。急に怖いコトヒになって、今は何かと言えば何かを抱えてしんどそうなコトヒ。でも、よくわからない。


でも私の選択の中には『 一緒に死ぬ 』という一択しかない。どうせここで私が死なずにここに残ったとしても、コトヒを失ったことにより最後の魂がなくなると悟ったからだ。


幸せな時間はここで終わってしまうのね。やっぱり遅い時間でも少し無理を言って向日葵畑に連れて行ってもらえばよかったわ。


なんぼ後悔しても遅い。もう、あの時間は帰ってなんか来ない。今は今しかないのだ。


そして多分ここで私がついて行くにしても行かないにしてもコトヒは今ここで死ぬ。もし、次の世界が私にはなかったとしても今ここで愛する人が死ぬのをただ見ているより一緒に死んだ方が何倍も何百倍も楽。どんなことがあっても置いてかれるだなんて考えられない。私はそれだけ彼を愛している。


「私、死ぬわよ。 コトヒと一緒に飛び降りるわ」


それからは二人で最後のキスをし、抱き合いながら2人で屋上から綺麗な夜景へと溶け込んだ。


─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─✱─


「……きょう! 桔梗!!」


その声につられるように目を開ける。その先には顔立ちがはっきりとしていて、銀髪の短髪で声も雰囲気までもが私好みの人が私だけを見てそう言った。ただ彼は病衣を着ている。


どうやら私は病院のベットにいるらしい。


「あれ、私……」


彼はそう言いながら私の右手を強く握り、泣いている。何がどうなっているかは分からなかったが、ただ彼の名前を呼ばずにはいられなかった。


「コトヒ……」


そう言うと彼はうんうんと大袈裟に頭を振りながらまだ涙を流している。


「よかったぁ。そう、俺コトヒだよ」


そう言いながら彼はぐしゃぐしゃな顔のまま満面の笑みでこちらを見ている。正直わかった訳では無いが、確かに似ている。本当にコトヒなのだろうか。もし、本人ならこれこそ夢でも見ているみたいだった。こんなシチュエーションはよく漫画や小説ではある話だと思う。でも、実際に起きてみると何が現実だか分からなくなる。


起き上がろうとしたが身体に力が入らない。コトヒ曰く私はもう24歳で約5年間植物人間だっという。


コトヒも約5年間植物人間だったのだが、早く彼女に会いたいがため、目が覚めて体からが動かないなりに隣のベットから起き上がり私に声をかけたと言う。


「会えてよかった。俺、もう隠しきれないから全部吐き出していいか?」


「えぇ、もちろんよ」


頭も回っていないが、彼の話はとても気になっていたからこのタイミングを逃す訳には行かない。


「起きたばかりで申し訳ないんだけど、隠してたこと言うな? もう忘れてるかもしれないけど俺と桔梗は中学の時に仲が良かったんだよ。 お前は知らないかもしれないけど、お前がリスカをする度に俺にも多少の痛みが来るんだ。同じ所に。初めはなんで痛みが来るのかなんて気が付かなかったけど、お前の19歳の誕生日の前日なんとなくお前の顔が浮かんだんだ。そしていつもに増して酷い痛みが来たからお前の家に急いで行ったんだ。」俺がついた時にはもうお前は死にかけの状態で、急いで救急車を呼んだ。もう一度会いたかったって」


コトヒと仲が良かったことは忘れたわけではなかった。ただ、名前は覚えていなかった。と、いうよりかは違った気がする。確か、はる君という名前だった。それに、髪色もこんな色ではなかったため全く気が付かなかったのだ。


「あ、ちなみに俺ははる君で間違いないぞ☆覚えててくれたの嬉しすぎてまた泣きそうだわ」


やはり彼は私の心が読めるのね。でも何故はる君?コトヒという名前にはる君要素はない……わよね?。とりあえずそれはあとから聞こうかしら。


「あーそれでな?俺が着いた時にはもう桔梗は死にかけだったけど、まだ生きててくれたから救急車を呼んだんだ。待ってる途中に「もう一度会えてよかった」ってお前が言ってて俺はすごく後悔した。なんで今まで顔をちゃんと見せに来なかったんだろうってな」


彼は本当に悔しそうな顔をしながら話す。こんなにも人に思われていただなんて想像もしてなくて、心が癒されてゆく。


「そして、俺も桔梗が見えていた小さい子供が俺にも見えていた。多分その子はそのまま桔梗をあの世へ迎えに来たんだと思う。だから俺はその子供にあの世界へ連れてってもらったんだ。 君を助けるために。そして、そこへ行く方法と一つだけ忠告を受けた。」


「行く方法と忠告って?」


何となく話がつながりそうで繋がらないのがむずむずして急かしてします。


「んーとなぁ。まず、行き方はお前が流した血を舐めることだった。止血もあるし別に躊躇せずできることで良かったと思いながらなぁ」


この人は何を言っているのかしら。理解が追いつかないわ……。私の血を舐めていたの……!?そんな性癖でも持っていたのかしら……。


びっくりしすぎて血の気が引きそうになる。こんな私の血だなんて舐めて大丈夫なわけない。が、放っておくことだって出来たのにそこまでして私を救ってくれたコトヒくんに素直に感謝する他なかった。


「後、受けた忠告私があの子と話をしてから24時間以内がタイムリミットだよって言われたんだ。正直、どうなるとか教えて貰ったわけじゃないけど、時間になっても2人とも生きてたら私があの子を本当に殺さなきゃ行けないって悲しそうな目で言ってたんだ。だからあの子だってきっと君を殺したいわけではなかったわけなんだよな」


あの子の存在がどう言った立場かは汲み取れない。それはきっと彼も同じ。だからそこはあえて触れずに話を聞く。


「そして、じゃあ君が桔梗と話をしたら24時間以内に何をするべきなんだ?って聞いたんだ。そしたら2人で死ぬしかないよって言われたんだ。まぁ死んでも2人とも生きてる保証はないけど、他人に殺されるの見るより一緒に死んだ方が君も幸せでしょって言われたんだ」


理解した。彼が時々暗いトーンで話していた意味が。コトヒはいつその女の子が桔梗と話すかは教えてもらった訳では無い。だからそれがいつかのかが不安で仕方なかったんだと。


「あれ?? だとしても私は、もう生き返れないはずなの。 三つ目の魂の命で生きていたのにどうして今生きているのかしら。 普通に考えれば私は今死んでいるわ」


「それは俺がコトヒだからだよ。」


そう言うと彼は二つの花を私に見せた。


「俺の右手に持っているのがマーガレット。 俺の左手に持っているのが桔梗。ちなみに俺の名前は木春菊(コトヒ)って書くんだ」


そう言いながら彼はポケットからメモ帳とペンを出し自分の名前の漢字を書いた。


「マーガレットは永遠の愛。桔梗は真実の愛……。」


見ればわかる。その花同士の相性がいいことが。


「そう。 二つの花言葉をくっつけると、永遠に続く本当の愛だ。 この花言葉は特別な力を持っていて、どちらかが幸せに暮らせていないうちに死んでしまうと生き返ることができるらしいんだ」


信じ難い事だがコトヒをしっかりと信じようと思った。今の命があるのは彼のおかげだから。それと、彼がなぜ中学の頃にはる君と呼ばれていたのかがやっとわかった。木春菊の春からはる君だったんだなぁと。


「コトヒ、私を救ってくれてありがとう。あなたが私の運命の人で本当に嬉しいの。私はあなたを愛しているわ」


そのまま私はコトヒの目の前に左手を差し出した。すると、右手を軽く握り鼻に当て口を隠しながら少し困った顔をしつつも、笑いながらコトヒは自分の首から下げていたあの、向日葵のネックレスをとり、そこから指輪っぽくチェーンを私の薬指にぐるぐると巻き付けた。


「ごめん、もう少し待ってくれないか? さすがにすぐには……」


「大丈夫よ。 分かっているわ。 でも、早めによ?私も早く退院して元気になるわ。」


「分かった。お互いもう少し頑張ろうな。そしたら二人ずっと一緒だ」


過去の後悔などは無い。伝えたいこともやっと言えた。これからは私の……私たちの物語を共に歩んでいく。


気がつけば病室の窓からでもかわかる程外は暗くなっていた。


上空には星が。空中には優しく雨が。地上から上空には虹がかかっていた。そう、あの世界で見た景色みたいに。


叶わない願いだって相手を永遠に信じることさえできれば真実になることだってある。


二人の『 永遠の愛とシンジツの愛 』の深さがそれを教えてくれたのだった。



-*- *-*-*-*-END-*-*-*-*-*-*-

どうでしたか??


書き方がかわっていたとはおもいます、笑笑


読みにくいところや、誤字、ここをこうした方がいいんじゃないかななどの感想などがありましたどしどしよろしくお願いします!!


ちなみにこの作品は、電撃大賞に出したいと思っている作品です。それも踏まえてTwitterのDMでも構いませんので感想をいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本心を曖昧な言葉でごまかすことなく、はっきりと伝え合う二人が恋愛ものにしては珍しく感じました。異世界で出会った二人だったからでしょうか? [気になる点] あとがきで述べられている通り、確か…
2019/01/20 00:52 退会済み
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