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元奴隷の英雄譚  作者: 君影
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戦争?

久しぶりの投稿です。

 緊急依頼が発令され、ギルドの中は慌ただしくなっている。武器の詰まった箱を運ぶ人、連携を確認する魔法使い達、剣や斧などの近接武器を携えて突撃のタイミングを決める人々。楽勝だと笑う者や今回の報酬で何を買うかあれこれ議論する者。見える範囲ではゴブリンとの戦争を悲観する者など皆無でそれぞれで士気を高めている。それもそうだろう。今更、嘆いたところでどうにもならないし、戦うしかないのだから少しでも気分を盛り上げた方がいいに決まっている。中には酒を飲んでいる者もいる程だ。


 そんな中で一人だけ気分が落ち込んでいる者がいた。見える範囲にそんな者は皆無だと言ったのに矛盾してるって?そんなことは無い。なぜならそれは俺だからだ。自分自身を直接見ることは出来ないので何も間違ったことなど言っていない。


 とまぁ、そんな感じで現実逃避をしていたが、それももう終わりだ。そろそろ出撃準備が整う。詳しくは分からないが、ゴブリン達はこちらに向かって進軍しているらしい。その進路にある村は潰されているようだ。


 そう。間に合わなかった。俺は今までギルド内の椅子に座ってぼーっとしてただけ。冒険者はギルドで待機と命令が出ていたし、逆らう訳にはいかない。それも言い訳になるが、万全の状態で殺された人々の敵を討つと決めたのだ。そんなことをしても死んでしまった人たちは戻らないし、ただの自己満足だというのは分かっているが、無理矢理納得することにした。そうでもしないと心がもたなそうだったから。しかし、そう簡単に気分を入れ替えることなど出来ないので、周りから浮いている感じだ。


 一応、全く使っていない片手剣を磨いて少しでも馴染もうと努力はしている。横では同じようにユノが大鎌を磨いている。そっちは大量の血を浴びているので必要なことだが、俺の方は虚しさしか感じない。俺は何をしているんだろう。気持ちを高めるためにしているのに、逆に盛り下がっていく。


 そんなことをしているうちに時間が来た。大きな鐘がなっている。この鐘は高台にある警報用だが、こういう事態でも使われるのだ。


 冒険者達は気を引き締め、外へと出ていく。もう何処からも話し声は聞こえない。俺もその流れにユノと共に入る。


 静かに戦争は近づいてきていた。










 冒険者達は城壁の外に集まっている。その数はおよそ五百。これが人対人ならば圧倒的に不利なんて表現を通り越して自殺志願者の集まりだが、相手がゴブリンなら問題ない。こちらには魔法があるし、弓の射程距離も比にならないくらい上だ。今回はヴァルナ帝国軍は参加しないが、万が一のために城壁内で待機している。


 そして、何よりも心強いのがA級冒険者がいることだ。『爆炎のハール』。偶然、依頼の関係で居合わせたらしいが、これ程頼りになる存在はいない。俺ですら噂を聞いたことがあるほどの凄腕冒険者だ。この人だけで終わらせてしまうかもしれない。


 俺達はゴブリンを迎え撃つために森に向かって進み始めた。本当は待ち構えた方がいいのだが、ヴァルナ帝国周辺にはいくつもの村がある為、ゴブリンが散らばり被害が大きくなるのを防ぐためだ。俺は朝と同じ道を通っているはずなのに、今回は大勢の冒険者と共に進んでいるので全く違う感覚がする。


 俺とユノはその集団のいちばん右端を歩いている。突撃隊は左右の二手に分かれてえるので、俺とユノはその右側という訳だ。一応、一番端ということで注意して周りを見ているが、草原が広がっているだけで他には何も無い。今回も同じように魔物には出会わずにゴブリンと戦うことになりそうだ。


 順調に進み、偵察隊によればまだ見えないがもう少しで鉢合わせるところまで来ているらしい。俺達はここで待ち構えることにした。隊列を整え直し、作戦を再確認する。


 と言っても、それほど難しい作戦ではない。ゴブリンが見えるところまで来たら、A級冒険者のハールさんが詠唱を開始し、遠距離からその他の魔法使いたちと弓で時間を稼ぐ。そして、ハールさんの超広域魔法の後、残りのゴブリンを各個撃破という感じである。ハールさんの魔法で終わる可能性もあるので、どうなるかは全く分からない。逆も大いにありえるのだ。


 緊張感が高まってきた。もうすぐだ。俺も流石に気持ちを切り替え、前方を見据える。





「来たぞ!」


 一番前の冒険者が叫ぶ。肉眼ではまだ見えないから双眼鏡でも持っているのだろう。魔力で視覚を強化しても、言われてみればアレかなくらいにしか見えない。


 ハールさんはまだ詠唱を開始してないようだ。詠唱終了と発動は基本ほぼ同じになる。時間をあけると威力が落ちていくし、発動前の状態を維持するのが難しいのだ。今回のような大きい魔法だと尚更だろう。ハールさんの魔法の詠唱がどれくらい長いのか分からないがギリギリまで待つようだ。


 まだ射程圏には入っていない。じりじりと時間が過ぎてゆく。肉眼で見えるようになってきた時、ゴブリンたちもこちらに気づいたのか、突然走り出した。同時にハールさんが詠唱を始める。後は、ハールさんの詠唱が完成するまで時間を稼ぐ。


 すでに残り二百メートルくらいの所までゴブリンが来ている。


「うてぇー!!」


 遂に攻撃が始まった。一斉に魔法が放たれる。火属性の魔法が多く、至る所で爆発が起こり、炎が渦巻いている。俺にも熱が伝わってきた。単純な攻撃力なら火属性魔法が最も高い。


 前を走っていたゴブリン達は吹き飛ばされたり、火だるまになったりと為す術もなく殺されていく。だが、後ろから倒れたゴブリン達を踏み越えてどんどん進んでくる。まだ息があるゴブリンでさえ踏み潰されている。


 中には攻撃魔法をすり抜けてくるゴブリンもいるが、そこには弓が待ち構えている。真っ直ぐ走ってくるだけのゴブリン達はきれいに頭を撃ち抜かれ、絶命していく。


 流石に数が多く勢いも強いので、じわじわと距離を詰められるが、時間を稼ぐという目的は達成出来ていると言っていいだろう。


 膨大な魔力が集まっているのが分かる。ぞわぞわする感じだ。ハールさんの魔法がもうすぐ完成する。


 急に爆発音が途絶えた。もう魔法は全く放たれておらず、ゴブリンたちは猛然と押し寄せてくる。だか、問題は無いのだろう。超広域魔法がついに放たれる。


 俺達は一番端なので、ハールさんの声は聞こえないが、何が起こっているのかははっきりと見える。


 太陽がある。今は夕暮れで薄暗いはずなのに、赤々と輝く太陽がゴブリン達の真上にできたのだ。まだかなり高いところにあるが相当な大きさだろう。これには進むことに夢中だったゴブリン達も足を止め、突然現れた太陽に目を向ける。何が起こっているのかよくわかっていない様子だ。


「伏せろ!!」


 前方から叫び声が聞こえる。ハールさんがいる辺りだ。どうなるのかは分からないが従っておいた方が良さそうだ。みんな同じことを思ったのか、全員が一斉に伏せる。


 辺りが更に明るくなり、目が眩む。


 真っ白になり、目を開けていられない。


 爆音が鳴り響く。


 遅れて地響きと爆風が駆け巡る。


 ものすごい威力だ、伏せていて正解だ。


 視力が回復してくると、その威力の結果が目に飛び込んできた。


 魔法が落ちたのであろう場所は地面がえぐれ、何も無い。ゴブリンの死体すらなかった。その周りには黒焦げの死体。まだ生きているものは皮膚が溶けていたりとゾンビのように呻いてる。いちばん外側にいたものは吹き飛ばされている。こちらにも何匹か飛んできていたようでゴブリンの死体の下敷きになっている冒険者が見える。大した怪我はしていないようで、仲間に引き起こされている。


 こちらの被害はそれくらいだが、ゴブリンは逆に無事なものがいない。立ち上がれるものは皆無で生きているものは瀕死もしくは重傷だ。


 想像を超える結果を目にし呆然としていたが、そろそろ俺達も動かなければならない。我を取り戻した冒険者達はぞろぞろと息のあるゴブリンに止めを刺していく。


 俺もゴブリンに剣を突き刺し息の根を止める。俺だけで十分なので、ユノは俺の隣を歩いているだけだ。


 本当に一瞬で決着がついてしまったが、なまじ数が多いので後始末が大変だ。


 そう言えば、あのホブゴブリンはどうなったのだろうか。アレの死体が見つかるまでは安心が出来ない。


 ちょうどその時、奥の方から一際大きいゴブリンの死体を運んでくる冒険者達が見えた。


 アレはホブゴブリンだ。最後尾にいたのか。まだ息があったようで、体に剣による傷がついている。


 これで本当に終わりだな。




 俺達はゴブリンの死体を集めて、燃やすことにした。草原にこの数の死体が散らばっているのは流石に問題がある。ホブゴブリンの死体だけは持ち帰るようだ。


 それらの作業が終わり、帰路につく頃にはもう夜になっていた。死体でおこした火を松明に移し、明かりを手に歩き出す。


 無事に大きな仕事が終わり、気分が軽くなった冒険者達は賑やかだ。みんな明るい雰囲気で笑い合っている。


 俺も報酬でもっといい装備を買おうとか、いやいやロザリアに渡すべきだろうとか考えて少しウキウキしていた。


「あれ?」


 そんなことを考えていると、隷属の首輪が機能していないことに気づいた。壊れてしまっているようだ。ユノのものも壊れている。


「そうとう安物だったんだな……」


 同じ魔道具でもランクがあり、ランクが低いものは膨大な魔力に触れると壊れてしまうことがある。


「まぁ、こんな状況は想定してないか。後で、新しいのをつけてもらおう。ユノは逃げてもいいんだぞ」


 しかし、ユノは首を横に振る。


「ミュールの血、おいしい」


 一緒にいてくれると喜びかけたが、理由が理由なので複雑だ。でも、喜ぶべきなのだろう。ユノがいてくれるのは何かと助かる。


「そ、そうか。程々にしてくれよ。なら、首輪は外しといてもいいかな?」


 そう言って、首輪に手を伸ばすが抵抗はしないのでいいのだろう。正直、ユノにこの首輪を付けるのはいい気分ではなかったのだ。


 ユノの首輪を外し、バックパックにしまう。


「今日の晩飯は何だろうな」


「私はミュール」


「ユノはそうだけど。あ! 首輪が無くなったからって、吸いすぎるなよ。今までと同じだぞ」


「検討する」


「いや、まじでお願い致します」


 俺は思い悩むのをやめ、ユノとなら何とかやっていけるのではないかと思い始めていた。










 しかし、そんなふうに浮かれていた俺達を待っていたのは非情な現実だった。

読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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