ゴブリン退治
短いですが、ぎりぎり書けました。
なんか戦闘シーンって何書けばいいのか分からないです。
ゴブリン。それは身体が小さく、脆弱な魔物である。だが、多少の知性により群れて行動し、繁殖力が強いため少々厄介な魔物として知られている。俺も見たことはないが、似たような説明を受けたし、イメージもそんな感じだった。
現実を見てみよう。俺の目の前にはゴブリンがたくさんいる。それだけならまだいい。しかし、これは群れているなんて生易しいものではない。百を超えるゴブリン達は、完全に統率されている。
最前列には弓を持ったゴブリンが並び、その後ろには先が尖った長い木の棒や棍棒を持ったゴブリンが何重にも並んでいる。そして、さらに奥には一際目立つゴブリンが一匹立っている。人間の大人と同じくらいの大きさだ。大体、百八十センチくらい。普通のゴブリンが子供くらいなので明らかに異常な個体だ。そして、皮膚の色も普通よりも暗い緑色をしている。あれが亜種というやつだろうか。全く別の魔物に見えるのだが……。
いや、今はそんなことはどうでもいい。何であろうと敵だ。恐らくあのゴブリンがボスだろう。統率されているのはそのせい。ボスを倒せば崩れるだろうが、正直そこまで行けそうにない。まだ乱戦ならやりようがあったが、いくら力で勝っていたとしてもこれだけ固まっていて、飛び道具もありとか攻めようがない。馬鹿みたいに強い奴もいるから絶対とは言わないが、俺は無理。とりあえず、ここは逃げるしかない。
と思ったが、既に後ろにもゴブリンがいて囲まれている。最悪だ。これでは後ろのゴブリンの相手をしている間に弓でやられるだろう。攻めてもダメ、退いてもダメ。完全に詰みだ。知性があるのなら、ダメもとで会話を試みようか。
「あの~、ゴブリンさん」
「ギャアギャア! ギャァ!」
無理っぽい。しかも、下手に刺激してしまったみたいでゴブリン軍からは今にも矢が飛んできそうだ。
ユノだけでも逃がそうと横を見ると、急にユノの体がブレた。ユノは一瞬でゴブリンに迫ると、大鎌を横に振り抜く。ユノの目の前にいた四匹のゴブリンが腹を切断され、真っ二つになった。切られた四匹を含め全てのゴブリンたちは攻撃されたことにすら気づいていない。
ドシャ
切断面から血が吹き出し、上半身が地面に落ちる。やっとゴブリン達はユノに気づいたようで距離をとろうと後ずさるが、近くにいた三匹は返す刃で同じように裂かれる。
既にゴブリン達はパニック状態だ。真っ先に逃げ出すものもいれば、突撃を仕掛けてくるものもいる。ユノは襲ってくるゴブリンを切り払い、逃げ遅れたゴブリンを後ろから切り飛ばす。接近を許した弓兵はなす術も無く大鎌の餌食になり、不意をつかれた槍兵もユノの速さについていけず、攻撃を当てることはおろか攻撃をすることすら出来ずに殺されていく。俺でもぎりぎり見えるくらいなのだから当然だろう。ゴブリンたちにはユノが瞬間移動しているかのように見えているはずだ。
ユノは風のように動き、すれ違いざまに二、三匹を一度に引き裂く。ユノが通った所には紅い花が咲き、ゴブリンの死体が転がる。
ユノの速さと力も凄いが、あの大鎌の切れ味も恐ろしい。骨まで切断しているにも関わらず、殆ど抵抗がなく切っているように見える。
ゴブリンたちは俺に注意を払う余裕がないようで、俺の周りにはゴブリンが一匹もいない。後ろにいたゴブリン達は目の前の蹂躙劇に参加していったようだ。俺を置き去りにしてその蹂躙劇は終わりに近づいていく。
ついにユノが最後の一匹を切り裂いた。辺り一面が血の海と化し、ゴブリンの死体が敷き詰められている。
俺は何もしていない。ただ見ていただけ。そのことにユノの異常さが相まって、まるで劇を見ていたかのようだ。しかし、漂ってくるむせかえるような血の匂いがこれは現実だと主張する。
そんな惨状の原因たるユノはその中心に一人だけ立っている。大鎌からは鮮血を滴らせ、黒かったローブは返り血で紅色に染まっている。
ユノは何事も無かったかのようにゴブリンの死体を踏みつけながらこちらに歩いてくる。
「おわった」
ユノは俺の側まで来て、いつもと変わらない口調でそう呟いた。そのいつもと変わらないという異様さに俺はひきつった笑いを浮かべることしか出来なかった。
今回の依頼はユノがすべて片付けてしまった。数匹逃してしまったが、仕方がない。ギルドからも全滅を推奨されてはいるが、できなくても仕方が無いと思われている。流石にあの数を全滅させようとしたら包囲するしかなく、相応の人手がいる。しかし、ゴブリン退治にそんなに人を割けないので、全滅は諦めているのだ。そのせいでゴブリンはまた増えて依頼が来るのだが、こればかりはその時その時に対処するしかない。
だが、一番奥にいたでかいゴブリンは逃してはいけなかった気がする。いつの間にか消えていたのだ。ユノに気を取られていなくなったことに気が付かなかった。一応、ギルドには報告しておこう。
俺達は村に戻り、依頼達成の報告をして印をもらった。宴をするから泊まっていけと言われたがそれを断り、水浴びだけをして村を出た。村長さんはとても残念そうだったが、笑顔で送り出してくれた。
もう、夕方だ。暗くなると危険度が跳ね上がるから、早く帰ろう。来た時と同じペースなら暗くなる前にヴァルナ帝国に着くだろう。ユノは疲れているかと思ったが、俺の血を少し吸うと大丈夫のようで無理をしている様子もない。
初依頼は結果だけを見れば大成功だ。しかし、相手を甘く見すぎていた。正直、俺だけでなんとかなると思っていたが、自分の力を過信しすぎていたようだ。剣闘士と魔物は違う。分かっていたはずだったのに全くわかっていなかった。魔物と戦う時には相手のフィールドで戦わなくてはならないし、相手が何をもっているか分からない。相手が弱かったとしても、情報収集を怠ってはならない。それを痛感した。
それを思うと、俺は幸運なのだろう。失敗したが次がある。他の多くの冒険者はそうはいかない。失敗すれば終わりだ。俺もゴブリンと対面した時は死を感じた。
これで二度目だ。剣闘士奴隷だった頃は何だかんだで上手くやっていたので、俺は他の奴隷とは違うんだと思っていたが、なんて小さな世界だったのだろう。冒険者になった時も初めは戸惑ったものの心の何処かでは何とかなると思っていた。
だが、今回の件ではっきりした。俺は弱い。特別な能力もないし、才能もない。幼い頃から少し厳しい訓練を受けていただけ。あれ以上はないと思っていたが、そんなこともないのだろう。俺は凡人だ。いや、凡人よりも下だ。なんせ奴隷なんだからな。
昔、字の練習のために与えられた本の中に英雄譚があった。攫われた姫を救うため、主人公が強大なドラゴンに独りで立ち向かい見事勝利する話。仲間たちと共に様々な困難を乗り越え、人間を滅ぼそうとしている邪悪な存在を倒す話。そんな物語の主人公達はきらきらしていて、憧れの存在だった。幼心ながら自分も主人公のようになりたいと思ったものだ。
けれど、物語の主人公には、ほんのひと握りの特別な人しかなれない。当然だが俺はその中に入っていないのだ。俺は英雄にも勇者にもなれない。物語の主人公にはなれない。
そんな俺だが、約束したことがある。力になりたいと願い、誓ったものがある。だから、止まってなんていられない。弱者は弱者なりに地を這ってでも進もう。
俺は帰り道に心の中で決意を新たにしたのだった。
次は何の魔物と戦いましょうか。それともまた別のことをしましょうか。何も考えずに書き始めると大変ですね……