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元奴隷の英雄譚  作者: 君影
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初依頼へ

 食事の後はすぐに寝た。ユノは既に寝ていたし、俺も明日の朝に早起きするためだ。明日の依頼は日帰りで終わる予定ではあるが、流石に朝からでないときつい。武器屋にも寄らないといけないし、できるだけ早めに出発した方がいいだろう。


 ということで、俺達は早朝にこっそりと屋敷を出ようとしている。いや、こっそりしているのは俺だけだ。ユノは俺の背中で寝ているから。こんな早くにロザリア達を起こしても悪いから、気づかれないようにしている。


 こんなことは建前で、本当は昨日の話を了承したのはいいがどうしていいのか分からないのだ。実は夢だったのではないかと疑っていたりする。

 という訳で、俺は顔を合わせると気まずいためこっそりと屋敷を出ようとしている。そんなことを言っている間にもう玄関だ。


「ふぅ、気づかれなかったな」


「誰に気づかれなかったの?」


 不意に後ろから声がした。もう少しだと安心しきっていたので心臓が止まるかと思った。ゆっくりと振り返るとロザリアが立っている。その後ろにはギースもいる。


「これはある……ロザリア様。おはようございます」


「おはよう、ミュール。仕事に行くのでしょう?黙って行くなんて寂しいわ」


「い、いえ、朝も早いので、起こすのは悪いかと……」


「あら、仲間なのだから遠慮なんかしなくてもいいわ。見送りくらいさせて欲しいわね」


 当然だが、夢ではなかったようだ。ロザリアは少し不機嫌だ。そんなに黙って出ていくのが不満なのだろうか。ここは素直に謝っておいたほうがいいな。


「すみません。これからは気をつけます」


「そうね。分かったならいいのよ。では、いってらっしゃい」


「はい。行ってまいります」


 こうして、初めての依頼は始まった。









 まずは武器屋に向かう。昨日、買ったものを貰わないと何も出来ない。というか、そろそろユノには起きてほしい。バックパックを背負って、ユノを抱いている状態は歩きにくい。まぁ、武器屋に着くまではいいか。


 武器屋が見えてきた。まだ閉まっているようだ。しかし、裏口から入るように言われているので問題ない。朝早いという話を昨日していたのだ。

 裏口から中に入ると、店員が開店準備をしていた。こちらに気がつくと、昨日の店員が駆け寄ってくる。


「待ってましたよ。こちらへ」


 その店員について行くと、店の隅に昨日買ったものがまとめておいてあった。というか、大鎌のおかげで遠目でもすぐに分かった。


「こちらですね。鎌と片手剣が一つずつ、それに皮製の胸当てが二つ。合ってますか?」


「はい、大丈夫です」


「では、お引き取りください」


 そう言って、店員は去っていった。準備がまだあるのだろう。


 まずはユノを降ろして起こす。


「おい、ユノ起きろ。おーい。ほら、大好きな大鎌があるぞー」


 ばっっっ!!!!


 なかなか起きず、冗談で言ったのだが効果は抜群だった。ユノはすぐに目を開き、大鎌に飛びついていく。そんなに好きだったのか……。


「待て待て、まずは胸当てからだ」


 ユノが大鎌を背負おうとしていたので、慌てて止め、胸当てを付けてやる。ぴったりだ。流石は職人だな。俺も胸当てをつけ、片手剣を腰に下げる。ユノも大鎌を装備し終えたようだ。大鎌はむき身だと危ないので、黒い布を巻いてもらっている。ユノの黒いローブと合わさって、やばい奴感がすごい。こんな奴がいたら俺なら絶対に近づかないな。大鎌はユノと同じくらいの大きさなので持てないのではと心配していたが、全く問題なさそうだ。やはり亜人は謎すぎる。


 装備も整ったし、早速出発だ。この国から西の方角にその村があるらしい。片道三時間くらい。俺達はそんなにお金持ちではないし、その村はたいして大きくもないので徒歩だ。日頃から鍛えているので問題ない。ユノは……多分大丈夫だろう。


 ヴァルナ帝国周辺の魔物は狩り尽くされているので、特に何も出ない。恐らく、村に着くまで何事もないだろう。俺達はのんびりと歩いていく。


 本当に何もいない。ジーラスクの時と似ている。だんだんと緊張が増してくる。念のため五感を強化して……。



 着いてしまった。結局、俺達は何にも出会わずに目的の村に着いた。常に気を張っていたせいかどっと疲れた気がする。はぁ。


 取り敢えず、村長に話を聞かないといけない。まだ、どこにゴブリンがいるのかも知らないのだ。まぁ、近くに森が見えるからそこだとは思うが。


 早速、村に入る。村は木製の柵で囲まれているが、森側の柵に最近直したような跡がある。襲われたのは事実のようだ。

 村人達はよそ者の俺達を見ている。いや、特にユニが怪しむ様な目で見られている。この格好なら仕方ないか。俺は村長の家を近くの村人に教えてもらうことにした。農作業をしているおじさんだ。


「あの、すみません。ここの村長はどちらに?」


「…………こちらです」


 突然、話しかけられたせいで初めは驚いていたが、案内してくれるようだ。作業を止めて、着いてくるように促してきた。しばらくすると周りの家よりも少し大きな家の前についた。ここのようだ。


「ジルさん! お客様です」


 案内してくれた村人が呼ぶと、中から厳ついおっさんが出てきた。


「よく来たな。まぁ、中に入れ」


 おぉ、声まで厳つい。筋肉ムキムキではないが、身体は引き締まっているように見える。この人が村長なのか……。ってか、この人いれば大丈夫じゃね?


「では、おれはこれで」


「あ。ありがとうございました」


 案内してくれたおじさんが去っていく。それを見送ってから、家に入れてもらう。

 なかなか広い。殆どが木造でいい匂いがする。結構、好きな感じだ。大きな机にたくさんの椅子が並んでいる。ここで集会を行うようだ。

 村長が椅子に座ったので、俺達も反対側に座らせてもらう。


「では、早速だが依頼についてだ。村に入る時に見えたと思うが、近くの森の浅い所にゴブリンが住み着いている。これを討伐してもらいたい」


「はい、もちろんです。ところで、ゴブリンはどのくらいいるのですか?」


「おそらく百は超えているだろう。昨日の襲撃は十匹だったが強かった。二人が負傷してしまったのだ。そろそろ大規模な襲撃が起こるだろう、その前に倒してくれ」


 この人がいるのに二人も怪我をしたのか。百以上いるらしいし、俺たちで倒せるのか不安になってきた。大丈夫だろうか。いや、やるしかないな。


「はい、任せてください。今から行ってこようと思います」


「そうか! 頼んだ。俺は昔に足を怪我していて戦闘には参加できないが、健闘を祈っている」


 そういうことだったのか。これで色々繋がるな。なら、この人は怪我を期に冒険者を引退したのだろうか。まぁ、あまり突っ込むことでもないか。


「ありがとうございます。では、いってきます」










 俺達は村長を含む数人の村人に見送られ、森に向かった。村から森までの距離は短く、すぐに着いた。

 この中にゴブリンが百匹……。気を引き締めていこう。


 獣道があったのでそこを通っていくことにした。昼だというのに森の中は暗く、影が多い。不意打ちに注意する必要がありそうだ。俺は魔力を流し、五感を強化する。横を見ると、ユノは普段と変わらない様子だ。大丈夫かな。


 警戒しながら歩いていると、ユノが突然立ち止まった。俺もすぐに止まって振り返る。


「ユノ、どうしたんだ?」


 ユノは俺をを見て、何かを言おうとした。その時、俺は右の茂みから殺気を感じ、咄嗟に剣を抜く。


 カンッ


 俺が抜いた剣は、森の奥から飛んできた何かを弾いた。それが何かを確認する前に後ろの茂みから何かが飛び出してきた。俺は魔力で強化した身体で力任せに打ち払う。


 ギャッ


 ソレは鋭い悲鳴を上げて吹き飛ぶ。襲ってきたのはゴブリンのようだ。手には真っ二つになった粗悪な棍棒を持っている。下にはやはり折れた先が尖った木の棒が落ちている。弓か。

 ぎりぎり対処できたが、五感を強化した状態でこれは酷い。いくら森の中で不慣れだといっても気づくのが遅すぎだ。ユノは気づいていたようだが、俺は攻撃されるまで分からなかった。思っていたよりも、ゴブリンは手強いのかもしれない。力は弱いが、しっかりと知能がある。棍棒を持っていたゴブリンは木にぶつかり死んでいるようだが、弓矢のゴブリンはまだ倒せていない。仲間を呼ばれて、囲まれると厄介だ。


「ユノ!走るぞ」


 とりあえず、開けた場所に移動しなければ。走っている間も簡素な弓矢が飛んでくる。的外れなものが多いが、数が多いので当たりそうなものもあり、それを剣で弾く。ユノは綺麗にすべてかわしていた。


 しばらく走ると、突然視界が開けた。そこには俺の想像を超える光景が広がっていた。

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