冒険者になる
一話がどのくらいの長さがいいのか分からずまだ手探りですけど、できるだけ長くしたいと思います。
俺達はギルドへ向かった。装備を整えてからの方が良かったかもしれないが、俺はギルドの登録費がいくらなのか知らない。だから、装備に最大限お金を使えるように、先にギルドへ向かう。
ヴァルナ帝国。初めてきた国だったが、買い出しなどで主要な施設と道は覚えている。確かこの道を右に曲がればギルドだ。
ギルドはなんといってもでかい。大勢の人、大量の金、巨大な魔物、それらが入るに相応しい大きさを誇っている。
三階建ての建物で一階が魔物などの素材を置く倉庫と報酬を渡したり、冒険者登録をしたりする受付になっている。
二階が下位冒険者の依頼を受ける受付。
三階が上位冒険者の受付だ。
冒険者は七ランクに分かれている。下からF、E、D、C、B、A、Sだ。最初はみんなFから入り、依頼をこなしていけば段々と上のランクへ上がっていく。ランクによって受けられる依頼が決まっていて、あまり無謀なことは出来ないようになっている。死亡率が高すぎたため導入された制度らしいが、俺も成り立ちまではよく知らない。
で、その上位と下位の分け方というと、C以上が上位となっている。ランクの数的には上位に偏っているが、S、Aランクの冒険者は数える程しかおらず、人数的には下位の方が多いほどなのだ。
そして、初心者の俺達はFランクから始めることになる。とりあえず、一階の受付で登録をすませよう。
ギルドの中に入ると凄い喧騒が聞こえてくる。獣の臭いもする。倉庫とは違う部屋だが繋がっているせいで臭いが漂ってくるのだろうか。受付の周りはすごい人だかりで待つ必要がありそうだ。どれも同じくらいの列だったので適当に並んだ。
誰も俺たちのことを気にする人はいない。建物に入った時、何人かにチラ見はされたがそれだけだ。まぁ、ユノがフードを被っているのが大きいとは思うが。流石にあの髪と目は目立ち過ぎるので隠している。
並びながら、周りを見ると実に様々な人がいる。筋肉ムキムキの人、強面の人、黒ずくめの人、変な仮面の人。女性もいたのは意外だった。俺たちのような若い人は数人しかおらず、少ないようだ。
そうしているうちに順番が回ってきた。受付係は若いお姉さんだ。まぁまぁ可愛い。ユノには劣るけど。
受付係は容姿で選ぶかと思いきや、隣は中年のおばちゃんだし、逆側は若いお兄さんだ。
「おはようございます。ご要件は何でしょうか」
お姉さんは俺の首輪を一瞬見たが、何も無かったように丁寧に聞いてきた。
「冒険者の登録をしたいのですが」
俺は少し驚いたが、すぐに要件を伝える。
「分かりました。では、一人二百エル頂きます」
二百エル。これは思っていたより安い。ものによるが露店で串肉を一本買おうと思ったら百エル必要だ。
この国の通貨単位はエルである。一エル硬貨、十エル硬貨、百エル硬貨、千エル硬貨、一万エル硬貨、十万エル硬貨がある。
皮袋の中には千エル硬貨と、一万エル硬貨が入っている。俺は千エル硬貨をだして、お姉さんに渡す。
「二人分お願いします」
「はい、かしこまりました。お釣りは六百エルです。そして、こちらが冒険者カードになります」
お姉さんは百エル硬貨六枚と小さなカードを二枚渡してきた。
カードは金属製で鉄色だ。特に何も書かれていない。
「では、名前を教えてください」
「はい、私はミュールで、こっちはユノです」
「分かりました。ありがとうございます」
「次はこのプレートに血液を垂らしてください」
そう言って針を渡される。俺たちは言われた通りに指先をついて血を垂らす。
すると、プレートが光り白色に変わった。そして、黒文字で名前が書かれている。すごい! これは魔道具なのか。
「今はFランクの白ですが、ランクが上がる度に色が変わります。これはご自分でしか使えないようになっています。そして、ギルドでしか使えません。そのかわり、何処のギルドでも使えますので、無くさないようにしてください。以上で登録は終わりです。ご健闘をお祈りしております」
「ありがとうございました」
俺はお礼を言ってその場を離れる。
白色のプレートを眺める。魔道具を見たのは二回目だ。隷属の首輪が一回目。しかし、これは日常になっているから、魔道具というものを初めて見たような感動がある。
それにしても、ギルドは完全な実力主義というのが納得出来た。このプレートからは名前とランクしか分からない。冒険者はそれだけでいいのだろう。種族、性別、年齢、身分、それらは白紙に戻される。力こそが正義なのだ。
しかし、違法行為は厳しく取り締まられ、危険度が高くなるとギルドに懸賞金をかけられるらしい。
「先に下位の依頼を受けておこうか。また来るのも面倒だしね」
俺はユノに話しかけて、二階を目指す。
二階は正面に受付があり、左右の壁に依頼書が貼ってある。この依頼書を受付に持っていくと依頼を受けることができるようだ。
俺たちは初めてなので順番に見ていく。魔物の討伐、素材の採集などが多い。目当てだった賊の討伐依頼は一枚も無かった。
そんなに沢山いるわけでもないし、小悪党は国が対処できるもんな。そんなもんか。
少しがっかりしたが、切り替えて他の依頼を見ていく。
「やっぱり、最初は簡単な依頼から……」
『スウィスパーの討伐』
『カーバイトの討伐』
『フクフク草の採集』
『ニードルラビットの角を十本採集』
『ニドル遺跡の探索』
『彩鳥の羽根の採集』
『ルラルラの捕獲』
俺は魔物の知識がないから、どれが簡単なのか分からない。辛うじて、ニードルラビットとかは知ってるし、倒せるだろう。
けど、十本ってことは、十匹倒さないといけない訳で。ニードルラビットは逃げ足がとても速い。二、三匹なら余裕だが、十匹となるとなかなか大変そうだ。
ということで、俺は何を選んだらいいのか全く分からないのだ。
んー、どうしよう。ギルドの人に聞いてみようか。それが一番、無難かな?
俺はユノを連れて受付に行く。ここは基本、依頼を受けるだけの所なのでそれほど混んでいない。
俺の番はすぐに回ってきた。受付係は若い女性だ。
いや、誤解のないように言っておくが、別に俺が若い女性を好んで選んだ訳ではない。元々、下位の受付係はみんな若い女性だったのだ。断じて俺に下心があったとかではない。
下位冒険者は若い男性が圧倒的に多いから、ギルド側もそういうところを分かってしているのかも知れない。
それはさておき、自分に合った依頼を聞かなければならない。俺は早速、聞いてみることにする。
「あの、今日から冒険者になったんですけど、初心者向けの依頼とかってありますか?」
「えーと、そうですねぇ。初心者と言っても実力には差がありますし、ちょっとそこのところ簡単にでいいんで教えて貰ってもいいですか」
確かにその通りだ。全く情報が無ければ、アドバイスもできない。でも、俺はいいとしてユノのことを話してもいいのだろうか。この国は亜人がいない。冒険者なら大丈夫か?いや、冒険者にも亜人だと分かる人はいなかった。つまり、いたとしても隠しているということだ。これは、正直に話すのは避けた方が良さそうだ。
「俺は剣の腕にはそこそこ自信があります。剣闘士をしていたので、対人特化ですけど。こっちは……」
あれ?何が得意とか聞いたことなかったな。魔法とか使えるのかな?力は強かったけど、亜人ってことを隠したらすごい不自然になる。どうすれば……。
「……荷物持ちです」
自分でも無理があるとは思うが仕方ないんだ。ユノが呆れたような目で俺を見てくる。ギルドのお姉さんもすごく怪訝な表情だ。
「はぁ、荷物持ちですか。まぁ、いいですけど」
深く追求されないのは助かったけど、絶対に信じてもらえてないな。何かいい言い訳を考えておかないと。
「では、戦うのはミュールさんで武器は剣。となると、ほとんどソロなので限られてきますが……とりあえず、こんなのはどうでしょう」
そう言って一枚の紙を渡された。
『ゴブリンの討伐』
「ゴブリン……ですか」
「そうです。ゴブリンが村の近くの森に住み着いたそうなので、その討伐依頼です。ゴブリンの姿は人の形をしていますので、あなたなら倒しやすいかと」
なるほど、確かにそれなら戦いやすい。
人型の魔物といっても特異な能力や部位があることが多い。しかし、ゴブリンの身長は百二十センチくらいと小さく、個体としては強くない。一対一なら、普通の大人が武器を持って戦えば倒せるだろう。
ゴブリンの脅威は個体の強さではなく、数にあるのだ。ゴブリンは繁殖能力が極めて高く数がとても多い。増えすぎると食べ物を求めて森から出てくるのだが、そうなった時にはもう手遅れだ。それぞれの村では対処できないほどの数になっており、すぐにギルドへ依頼をするのだが、救助が間に合わずに村が壊滅したという話を俺も聞いたことがある。
ゴブリンを一匹見たら百匹はいると思えと言われる程だ。
ゴブリン程度なら何匹いようと負ける気はしない。これにするか。
「では、それでお願いします」
「かしこまりました。手続きをしておきますので、その間に依頼書を探してきてください」
取ってこなくてもいいのかと思っていたが、ダメだったらしい。
俺たちは左右の壁から同じ内容の依頼書を見つけ、戻ってきた。
「はい、手続きは終わりました。依頼を完了した証に依頼主の村で印を貰ってきてください」
「分かりました。ありがとうございます」
「あ、それとゴブリンは亜種が出やすい種ですので気をつけてください。では、ご武運を」
亜種? 人間で言うと亜人みたいな感じだろうか。ゴブリンの亜種というのは聞いたことがない。聞き返そうと思ったが、既に次の人の対応をしていたので諦める。まぁ、ゴブリンなら大丈夫だろう。
次は装備を買いに行く。
俺たちはギルドを出て、大通りに向かった。
この国に来てから武器関連を買ったことがないので、どこがいいのか分からない。だから、なんでも揃う大通りへと向かう。
ついでにギルドの人に聞いとけばよかったと思ったのはギルドを出てしばらく歩いた後だったのでもう遅かった。
大通り沿いに建っている目立つ装備専門の店があったのでそこに入る。こういう店は品揃えが多いかわりに値段が高いのであまり好きではないが仕方がない。
「いらっしゃいませー」
とりあえず、店の中を一通り見てみる。俺はシンプルな両手剣を使っていたから似たようなものにしようかな。装備は動き安さ重視で皮の鎧でいいか。そう言えば、ユノは何がいいんだろう。
「何かいいものはあったか?」
俺の隣できょろきょろしているユノに聞いてみた。すると、ユノはあるものを指さした。
あれがいいのか。え? なんだあれ!!
俺は全く興味がなかったので素通りしていたが、とんでもないものがあった。この店のような量販店には似つかわしくないソレは店の一番奥に置いてあり、壁に掛けてあった。
ソレの正体は鎌だ。しかも、他のものと比べて明らかに大きい。大鎌。その刃だけでもユノの背丈くらいあり、何かの牙か爪でできているみたいで金属とは異なる光沢がある。バケモノ級の大鎌。
「いや、あれはやばいって。絶対高いし、ほら、鎌って使いにくいから。やめとこ?」
そう、鎌という武器は使いにくい。鎌の刃は内側にしか付いておらず、曲がっている。その構造上、攻撃中に間合いを詰められたら基本対処ができずに終わる。しかも、横薙ぎが主な攻撃方法なので森などの障害物が多い場所では圧倒的に不利だ。
実際、俺は今までで鎌を武器として使っている人を見たことがない。売っているものも草を刈るのを目的としたものが殆どだ。でも、目の前にある大鎌は確実に武器として作られたもので、すごい違和感がある。
俺は必死にユノを説得しようと試みたが、頑なに意見を変えようとしない。こんなユノは初めてだ。初めての我儘だったこともあり、最終的には俺が折れることになった。
予想道りその大鎌はとてつもなく高かった。所持金では足りなかったが、買い手がつかず困っていたらしく安くしてもらった。懇意にしている鍛冶屋が趣味で作ったものを押し付けられたらしい。気の毒だな。
安くしてもらったと言っても十分に高い。俺は両手剣が買えず、中古の片手剣だ。そう、片手剣だけなのだ。盾が買えなかったので、片手剣の長所である盾を持ちながらの戦闘ができない……。
防具は皮の鎧だが、これもお金が足りず胸宛てだけ。しかも、ユノが小さすぎて手直しが必要だったので、俺のよりも高くついた。もうなんなんだよ……。
ユノの装備の手直しと中古の剣の整備に時間がかかるらしいので、買ったものは預かってもらうことにした。ゴブリン退治は明日の朝出発なので、朝ここに寄ってから行くことにする。
依頼主の村は案外近くにあり日帰りで行けるが、準備は必要だ。思わぬ出費でお金が後わずかしかないけどバックパックと非常食、薬などの最低限のものは揃えないと。
ここではちゃんと店員におすすめの店を聞いて、冒険者御用達の店を教えてもらった。
そこで冒険者初心者セットというのを一つ買って、帰路につく。本当にギリギリで、もう所持金は百エルもない。そのせいで今日の昼飯は食べれなかった。ユノはちゅうちゅう吸ってきたけど。
皮袋からはチャリンチャリンとさびしい音がしている。
これ、絶対怒られるだろ!今回受けた依頼報酬よりもユノの大鎌の方が高いってどういう事だよ。次受ける依頼はもっと高額なのにしないと本気で殺される……。
俺は初日から不安しか感じないのだった。
続けて読んでいただいている方、本当にありがとうございます。