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そのまま、ホールへ戻ると。
「ルル姫、とても美しいですね」
と言っている男がいた。するともやが現れ。
「私の二人目の愛人の方が美しいのだけれど、ほめておかなければ、地位が危うくなりますからね」
その男の口は動いていないのに声が聞こえるのだ。
(もしかして、本音?)
ルル姫には、本音が聞こえるようになっている事に気が付いた。
つまり、悪夢は本音と言う事だ。
「私のドレスの方が立派なのに、ルル姫だけチヤホヤされるなんて不公平ですわ」
また、女の人の側のもやがしゃべった。
「パーティーって、こんなに汚れているんだ」
チャニが驚いてそう言う。しかし、誰一人笑顔を崩さず、楽しそうに話し合っているではないか。
「こ、こわい」
「ジュリア、だめだ、怖がっては、それでは、サーバントの思い通りになってしまうぞ、ルル姫を救うんだろ」
「うん」
半分泣きそうな声でそう言った。
「ルル姫!」
ルル姫の前に立ち、大声でそう言う。
「ドレスは、お気に召した?」
「は、はいって、そういえばルル様、願い事ってありますか?」
「恋をしてみたいですわ」
「恋~!」
軽いパニックを起こした。
「無理ですよね」
ルル姫が悲しそうに笑った。
「できますよ、ねっ、メルロー、あなたとルル姫が恋をすればいいのよ、丁度王子みたいな恰好しているし」
「はっ?」
メルローは呆れた声を出した。
「とにかく、二人きりになって、恋愛ごっこでも何でもすればいいのよ」
「……」
メルローはだまる。
「よろしくお願いします? えっと」
「メルローです」
「よろしくお願いします。メルローさん」
そう言って、メルローの手を取って奥の部屋に消えた。
「大丈夫かな?」
☆ ☆ ☆
奥の部屋では。
「メルローさんのご趣味は?」
「本を読むことです」
「どんな生活をしていらっしゃるの?」
「チャニって言う女とジュリアって言う主人と、三人でボロ屋に住んでいるんだけど、ジュリアは、寝坊ばかりしているし、チャニは口うるさくて、大変なんだ」
「良い笑顔ですね、その二人が大好きなのですね」
「まあ、嫌いじゃ無いけど……」
「うらやましいですわ、あなたには、心から好きに成れる方がいて」
「……ルル姫様には、いないのですか?」
「はい」
笑顔でそう言った。その笑顔は、とても悲しそうだった。
「ルル姫様?」
「なんですか? 何でも聞いてください」
「あなたが一番嫌う物は何ですか?」
「うそです」
ルルは笑顔を崩さずにそう言った。
「そうですか、あなたの悪夢は本音が聞こえるのですが、恐れているのは、本音ではなくウソの方だったのですね」
「はい」
《なるほど》
どこからか、そんな声がした。
「メルローさん、ナイトメアサーバントに私の嫌いな物がばれてしまわれたのでしょうか?」
メルローはルルを背後に隠した。しかし、何も起こらなかった。
「……」
「メルロー、大丈夫? サーバントに襲われていない?」
ジュリアの声がしてドアを開けるとジュリアが飛びついてきた。
☆ ☆ ☆
「メルロー心配したのよ」
「お、おう」
微妙に、嬉しそうな顔で照れているメルローに、チャニは嬉しそうにしている。
「離れろ、ジュリア」
メルローはそう言って、抱き着いて来たジュリアを引き離した。
「心配したのに~」
ジュリアは不満げにそう言って離れた。そうしているうちに、ルルの目の前に一人の男が現れた。
「誰だ」
人間には珍しい、青い髪をした人物だった。コートを羽織った。どこか不思議なその人物にみんな目を奪われた。
「私は、中央のナイトメアクライアントのユメノです」
そう、深々と頭を下げた。
「私は、東のナイトメアクライアントのジュリアです。これから、よろしくお願いしますね」
握手を求めると快く受けてくれた。
「ちょっと、チャニ聞いた? 中央のクライアントだって、滅多に姿を現さないらしいのに、やっぱりルル姫は、すごい所の人なのよ」
ジュリアは興奮冷めやらずの様子で、そう言っている。
「そうね、中央のクライアントが、こんなにイケメンだったなんて」
チャニも興奮しているようだ。
「そんなに格好いいか?」
メルローは不機嫌な様子でそう言う。
「ジュリア様、話は後です。ひとまず、サーバントと契約を済ませてしまいましょう」
「はい」
パーティー会場に戻ると、人々がワイワイお酒を飲みながら、話をしている。
「あっ、姫よ」
一人の女性が気付いたようにそう言う。
「美しい髪飾りですね」
「ありがとうございます」
『金をかければいいと思っているのね、かわいそうなお姫様』
その人の本音だ。そして、王子が現れた。
「姫君、なんと美しい姿」
『どんなに着飾っても、私の好きな女性には、やはり敵わない、それに、似合ってないんじゃないか?』
「どこから見ても美しい」
『俺の方が美しいのだが、そうとも言えないな』
「美し――」
ユメノがその男の口を手で塞いだ。
「お前がサーバントか」
「ち、違う」
「本当に美しいのは君だよ、毎日美しいと言ってあげるから、私のサーバントにならないか?」
「……本当か?」
「はい」
『サーバントとクライアント、ここに、契約の意を記す』
そう言って、サーバントは、ユメノの物になった。その瞬間、悪夢は消えて、眠り姫は夢から覚めた。
夢の外に出た瞬間。
「クライアント様、あなたのおかげです。ルル姫が目を覚ましました」
教育係のおばさんに感謝された。
「い、いえ」
夢から出た先に、ユメノはいなかった。
ルル姫が目覚めたパーティーが一階大広間で開かれた。その時、ジュリアは、部屋にこもっていた。
「装飾のサーバントだったのね、装飾は美しいと言われて初めて完成、ウソでほめている人を見抜いていたのだろうね、ルル姫もウソに悩んでいたでしょう? メルロー? だから共鳴したのね」
「そうだったのね、だから、やたら美しさにこだわったのね」
チャニが楽しそうにそう言う。
「でも、ユメノに持って行かれちゃった」
「あの、ユメノって男は、何もかもわかっている様だったよな~」
「そう、ユメノは、装飾のサーバントって、すぐに見抜いていたわ、カンがいいんじゃないかしら?」
「さすが、中央のクライアントね」
チャニがほめた。確かに的確に、サーバントの欲しい物を当て、それを与えて、契約する。その手早さに驚かされた。
(やっぱり、中央のクライアントは違うわ)
「私も中央のクライアントみたいになりたいわ」
「だってよ、中央のクライアント、あっと、ユメノって言う奴、聞き耳立ててないで入って来いよ」
メルローがそう言うと中へ入って来た。
「失礼します。あまりにも持ち上げるので入りづらくて」
「ユ、ユメノ様、会えて光栄です」
ジュリアは、ガチガチになってそう言う。
「そんなに緊張しないで、同じクライアント何だから」
「は、はい」
返事も緊張がまだ、解けてないので固い。
「中央からわざわざご苦労様です」
チャニが笑いながらそう言った。
「君達は、サーバントなんだよね? すっかり毒の抜けた様子で、ジュリアさんは優秀なんですね」
「えっ? 私が優秀?」
「普通のクライアントのサーバントは殺気だっている者がほとんどです。新聞やラジオで取り上げられているサーバントは、大体、自分のために大人しくしているだけで、君達のように、友達のような関係は、初めてみます」
「え~」
ジュリアは思わず驚いた声を上げた。
(サーバントって、みんなこんな感じじゃないの?)
「私もサーバント達には、手を焼かされています」
「あの~、サーバントに面倒を見てもらっている私はどうなるのでしょう?」
「サーバントがクライアントの面倒を見ている? そんなことがあり得るのですか? 冗談ですよね?」
「本当の事だ。チャニは、ジュリアの、朝ごはんから家事まで、何でもやってあげているぞ」
「! 本当なのですか?」
「そうですよ、私は、ジュリア様のためなら、地の果てまでだって、探しに行くと思いますわよ」
チャニが明るくそう言う。
「チャニ~」
二人で抱き合う。
「驚いた。ここまで優秀なクライアントがいたとは……」
「でも、契約できたのは、このチャニとメルローだけなんです」
「いいや、クライアントの価値は、人数じゃないんだ。信頼されているサーバントの数の方が大事なんですよ」
「そうかな? 私、メルローに信頼されているのかな?」
「なぜ、悩むのです? 信頼されているでしょう」
「まだ、能力を当ててないんです」
「それは、きっと、当てて欲しくないようなみにくい技なのか、力が膨大過ぎて使うに使えないか? なのではありませんか?」
「そうなの?」
「そう言う事にしておけ」
メルローも否定はしなかった。もしかして、とってもみにくい技なのかしら? ううん、メルローの悪夢は夜空だもの、ビックバンとか、とても操りきれないものなのかもしれないわ。
しばらく考え込んだ。
「ジュリア、あんまり眉間にしわよせてると、しわが出来るぞ」
メルローが毒づいて来た。
「え~それは、イヤ」
ぐいっと眉間を伸ばす。
「ジュリアさん、あなたが優秀なのはわかりました。そんなあなたに依頼したいことがあるんですよ」
「えっ? ユメノさんが解決できない様な物ですか?」
「はい」
「そんなの、私にも無理です」
「一応やってみるだけでいいです。必ず成功させろとは、言いませんから」
ジュリアは悩んだ後。
「成功させられなくても本当にいいのですね?」
「はい」
ユメノは真剣な顔になった。
「内容は中央の役員の一人が、サーバントに取りつかれて、一週間も目を覚まさないんだ。それを目覚めさせてほしい」
「そんな内容なら、ユメノさんの方が得意でしょ」
「それが、知人でやりづらくて……」
ユメノがおずおずとしてそう言うので、メルローが。
「想い人なのか?」
とずけずけと聞いている。
「えっ、そんなんじゃないですよ、同僚ですって」
(あっ、これは、想い人だ)
そう思っているとユメノは。
「想い人と言うよりも、その方は、誰よりも大切な人なんです。それではだめでしょうか?」
「いいですよ、もちろん」
ジュリアは苦笑いした。想い人と大切な人は同じような気がするが、ユメノの中では、何かが違うのだろう。
「その大切な方を目覚めさせたら、何か報酬は?」
「協会から家がもらえます」
「家~!」
チャニが一番反応した。
「立派なのが良いわ、今のボロ屋とさようならよ~」
「チャニ、何度も言うみたいだけど、必ず成功するとは限らないって言っているでしょうが」
「ジュリア、自信を持って、大丈夫、あなたならできる」
チャニが楽しそうに言う。
「そうかな……出来るかな?」
「私も出来ると思いますよ」
ユメノも笑顔でそう言ってくる。
「よ~し、やるぞ」
ジュリアは、ガッツポーズをして立ち上がった。
「今夜は遅いので、明日、中央の話をしますね」
「「はい」」
メルロー以外が返事した。




