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そう言うわけで、貴族用の立派な馬車の上である。
「風が気持ちいい」
クライアントの施設に、服から馬車から食べ物まで、すべて準備してもらっているので、ジュリアの負担は全く無いので、気負わずに旅ができる。
ジュリアは、大きな帽子をかぶっているので、馬車の中で飛ばされないように抑えていた。
チャニも珍しくワンピースを着ている。その色はチャニの浅黒い肌を引き立てる、淡い紫色だ。
「チャニって、ワンピースも似合うんだね」
「ジュリア様が着ている、ピンクのドレスの方が愛らしいですわ」
チャニの物は、一切飾りがないシンプルな物だが、ジュリアの物は、ピンクのリボンが散りばめられていて、少女趣味なのである。
「まあ、何はともあれ、行こう」
「それにしても、お姫様が、三日間も目を覚まさなくなるなんて、不思議な話よね~」
チャニ達の姫のイメージは、何不自由なく悩みの無い女の子だと前に言っていたので、チャニがこういうのも仕方ないのかもしれない。
「チャニ、お姫様は人間なの、何かには悩むのよ」
「例えばどんな悩みがあるの?」
「結婚の相手とか、国の未来とか、とにかくたくさんの事を考えてくれているのよ!」
「そうなの? お腹いっぱい食べれて、自由に暮らせるのに、何をそんなに悩むのかしら? ほら、人間はおいしい物を食べると、何もかもどうでもよくなるのだと聞いたのだけど?」
「それは、一部の人間なの、姫様は、毎日与えられるのが当たり前だと思っているから、おいしい物位では、機嫌は直らないわ」
「へ~贅沢、ジュリアはおいしい物を与えておけばかわいいのに、姫ってかわいくないのね」
チャニが怒りながらそう言った。
「チャニ、そう思っているのはチャニ位の物よ」
ジュリアは、馬車をひいてくれている人が姫側の人間だったら、不敬罪でチャニが捕まりそうだと思ったので、落ち着かせた。
「でも、ありがとうチャニ、うれしいよ」
「ジュリア」
チャニがジュリアに抱き着いて頭を撫でている。
「あほらしい」
メルローがそう言って、チャニの隣で寝てしまった。
「メルロー……もう寝てる。文句の一つぐらい聞いてから寝なさいよ」
チャニが怒っている。
「チャニ、落ち着いて」
二人のケンカは日常的なのだが、一応チャニを落ち着かせる。
馬車はどんどん山道に入って行く。辺りは、緑の葉が生い茂っていて、木ばかりがみえる。
「こんな森の奥に姫なんているの?」
チャニが窓を開けてそう言ってくる。
「いるんだから、馬車が向かっているんでしょう、それに、サーバントの気配は、強くなっているわよ」
「そう、それなら、問題は無いの、ジュリアの力を信じているもの」
「チャニ」
チャニの手を握って感謝していると、メルローがうっすら目を開けて。
「まだ、着かないのかよ、ガタガタ言って眠れやしない」
そうあくびをしながら文句を言った。
「メルロー、ジュリア様のピンチに、いつもみたいに立ち尽くすだけだとか、絶対に許しませんよ」
チャニは、メルローを叱りだした。
「いつも、いつも、メルローは、何もしないで立っているだけ、何をそんなに恐れるの? あなたは、もう、ジュリア様のサーバントでしょ、前のトラウマ何てきれいさっぱり捨てないさいよ」
「なっ、そんな理由じゃない」
メルローは汗をかきながらそう言う、どうやら、前のクライアントの事は、まだ、トラウマらしい。
サーバントの不安を取り除けないのは、まだ、ジュリアの力が弱いからと言う可能性はとても高い。
(メルローに認められなくちゃ)
意気込んでみるが、何をしていいかわからなかった。
(今日の姫のサーバントを仲間にしたら認めてもらえるかな?)
そう思いメルローを見つめる。
「何だ?」
「なんでもないよ、メルローは役に立たないなって思っただけ」
強がってそう言ったもののメルローは。
「へっ、俺に騎士の真似事でもしろって言うのか?」
いつものように悪態をついてくるが、ジュリアは、優しい声で。
「そんなことないよ」
と小声で言った。メルローは少し気にしたのか、眉がピクリと動いた。ところが、すぐにチャニが口を挟んできた。
「騎士の真似事、上等ですわ、サーバントがクライアントを守ることも珍しくありません、メルローも騎士になりなさい」
「はあ?」
メルローは呆れたような声を出して、チャニを見る。
「チャニ、もういいよ」
大声でそう言った。メルローが悪いんじゃない、まだまだ未熟なのが悪いんだもの。
「ジュリア様……」
チャニは、心配そうに声をかけて来た。
「大丈夫だから、落ち着いて」
「はい」
チャニは、それからは、大人しく馬車に乗っていた。
☆ ☆ ☆
しばらく沈黙していると、馬車が急に止まった。
「きゃっ」
メルローの上に倒れ込んでしまった。
「たくっ、何だよ、重いだろ」
そう言って、メルローは、ジュリアの肩を持って向かいに座らせた。
「あっ、ありがとう」
自覚は無かったが、顔が赤くなっていただろうと思った。なぜなら、ほほが急に熱くなったものだから。
「どうしたのですか?」
チャニが馬車から降りて、馬車をひいていた男に声をかけていた。
「霧が出ていて、柱に気が付かなかったんだよ」
馬車をひいていた男は、渋い声でそう言っている。馬の方を見ると、一本の白い柱があった。
「何これ?」
チャニが触ると、ギーギー音がする。
「扉?」
白い柱は、門の一部だった。
チャニは馬車に戻って来て。
「恐ろしいお金持ちよ、あんな門を作るなんて、救ってあげたら、謝礼が出るわ、がんばりましょう」
と声を張り上げた。




