エピローグ
「家が完成しました」
「東に帰るのね、中央の暮らしもよかったけど、やっぱり、のんびり田舎で暮らすのが一番よね」
チャニがそう言う。
「最後にユメノに一言だけ言いたい、でも逃げると思うから」
『ユメノ~、あきらめるなよ~』
大声を出した。
「これで、伝わったわ」
「そうだといいね」
荷物は、若干増えたが、馬車にしっかりつめた。
「さようなら、ディックさん、お見送りに来て下さるなんて」
「いや、ユメノから、メルローさんへ秘密のメッセージだよ」
『私の方が早く伝えるだろうけど、お宅も鈍感な彼女相手に、せいぜいがんばるがいいメルロー』
と書いてあった。
「何のことだろう? ユメさんの事かな?」
「何はともあれ、帰るぞ」
「うん」
馬車が走り出した。東の家までの道のりは、三日もかかった。
☆ ☆ ☆
家に着いた途端ジュリアが大声を出した。
「うわー大きい」
無理もなかった。7LDKと聞いていたが、大富豪の家のように立派なうえに、城には負けるが、とても大きい。
ジュリアは、中へ入って、また驚いた。
「きれい」
洋館のように、広くて、美しい飾りが施されていた。
「チャニもみなよ」
チャニの腕を引き、家の中へ連れて行った。
「うわ~、本当にこんな立派な所に私達が住んでいいの?」
「いいに決まっているじゃない、ユメを救ったのは、私達なんだからね、報酬はもらわなくちゃね」
「正確に言うと俺のおかげ」
メルローが後ろから口をはさむ。
「わかっています。ありがとう、メルロー」
「お、おう」
照れた顔をして、いなくなった。
「ラール、ここが新しい家よ」
「すごい広そうですね、立派だし、直しようがいくらでもありますし、とっても楽しみですね」
「ほどほどにね」
そして、各自、自分の部屋に向かった。部屋は二階だ。
ジュリアは、部屋に入ると。
「この大きなベッドに、クローゼット、鏡まであるわ、すごい立派な品だし、中央の人達、ずいぶんお金を出してくれたのね」
驚いていると、チャニの声がする。
「すてき~」
チャニの部屋も気になって、つい、覗いてしまった。
「チャニ? どこ?」
「こちらです。ウォークインクローゼットの中ですわ」
チャニの部屋の、ウォークインクローゼットの中へ入ると、何も置いていないので、とても広く感じた。
「中央の人達、ちゃんと注文通りに作ってくれたんだ」
事前にチャニの部屋には、ウォークインクローゼットを作ってくれるようにお願いしていたのだ。
「これで、お洋服がいっぱい買えるね」
「そうね、ジュリア様」
チャニはウキウキ気分で、荷物を取りに行った。ジュリアも馬車から荷物を降ろして、部屋に置いて行く。
二時間後、とても疲れてしまい、ベッドにぐたっと倒れた。いつの間にか眠っていた。
☆ ☆ ☆
次の日の朝、チャニの声で目が覚めた。
「朝ですよ、皆さん」
「はーい」
チャニは、いち早く起きて、朝ごはんを用意していたようだ。
「チャニ助かる」
「お安いご用ですわ」
そう言って、食パンを次々に焼いて行く。
「ラール君も増えたし、一杯食べてね」
「ありがとうチャニさん」
ラールは食パンを食べながらそう言う。
チャニの服はいつも通り、アラビア系の恰好で、へそを出している、セクシーな衣装である。
「それじゃあ、みなさん、洗濯を干してくるので、しっかり、お食事をしていてくださいね」
「あ~、チャニ、いくらなんでもその恰好で出て行くのはダメでしょう」
「そんなに変ですかね?」
「変と言うか……」
みんな黙る。
「エプロンを付けて行きますわ、それで言いでしょう?」
「うん」
新しい家はキッチンから庭は見えない。トーストにかじりつきながら、チャニの事を心配していた。
「そう言えば、メルローとラールの部屋は、どうなの?」
「俺の部屋は、書庫付きだ」
メルローがそう適当に答えた。
「僕の部屋はですね、最低限の物しか置いていないんです。今から直していくのが楽しみなんだ」
ラールは楽しそうにそう言う。
「よかった。気に入ってくれたようね」
「それよりも、ニュースペーパーはしっかり読んどけよ」
「は~い」
返事して、新聞を取る。しばらく、リビングで紅茶を飲みながら、読んでいた。
「眠り病の患者は見当たらないね」
「そうか」
ラールは画用紙に一生懸命、絵を描いている。
「何? それ?」
「これは、部屋のイメージ画です。細部まで、頭の中でイメージして、描いておけば、すてきな部屋が出来ます」
「ラール君はすごいね」
ラールもすっかり打ち解けたようなので安心していた。
いつの間にかお昼になっていて、今日も一日、ボケーと過ごしてしまったと思っていたら。
「郵便です」
郵便が届いたようだ。
「はーい」
ジュリアが受け取ると。
「ユメノからだわ、まさかお金を取る気じゃないわよね」
恐る恐る開けてみると。
「結婚式の招待状!」
そこには、『ユメノ&ユメ・フィレア』が差出人と書いてあって、そこには、結婚すると書いてあった。
「うわ~、おめでたい、聞いて! チャニ、メルロー、ラール、ユメノとユメがついに結婚するって」
「!」
メルローが驚いた表情を見せた。
「サーバントとクライアントが結婚だと」
「私は、いいと思うよ」
ジュリアがそう言うとメルローは。
「負けちまったか」
うれしそうだが、悔しそうにも見えるようにそう言った。
「みんな、着ていく服、あったけ?」
「「ない」」
「ある」
チャニはあると答えたが、男性陣は着ていく服がないようだ。
「服を仕立てましょう」
ジュリアは、財布を開いて、いくらかかるか計算しだして、ため息をついた。
「いくら、報酬をもらったからと言っても、このままじゃ、すぐに使い切っちゃいそうだわ」
☆ ☆ ☆
その日の夜、星がきれいだった。
「少し外にでてみようかな」
ジュリアが外に出ると、メルローがいた。流れ星をまた降らせてくれるかもしれないと思い、喜んで近づいた。
「メルロー」
「ジュリア」
「また、流れ星、流してよ」
「いいぜ」
メルローがパチンと指を鳴らすと、流れ星が流れる。
「きれい」
ジュリアが喜んでいると。
「ジュリア、好きだ」
ジュリアの手を握ってメルローが必死にそう言う。
「私も、メルローの事好きだよ」
それは、サーバントに向ける愛だと思った。
「ジュリア、もし俺が、一人の男として好きって言ったらどうする?」
「えっと、どう言う事?」
「おこさまジュリアには、わからないか」
「私だって、ただのおこさまじゃないよ、ずっとみんなの事大好きだから、今はこのままがいいの」
迷いのない目でそう言った。
「このままでもいいか」
メルローはそうつぶやいた。
☆ ☆ ☆
次の日、新聞に、事件が載っていた。
「久々の、サーバント狩り、みんな協力してね」
「もちろんです」
チャニが気合を入れてそう言う。
「はい、がんばります」
ラールも元気よくそう言う。ところがメルローは。
「めんどうくさい」
本を読みながらそう言った。
「メルロー、ピンチになった時、あなたの隕石の力が必要になるかもしれないでしょう。行くわよ」
「はいはい」
嫌々ながらを装っているが、嬉しそうでもある。
「世話の焼けるジュリアだな」
「みんな、行くよ~」
ジュリアが、クライアント界で最強のチームと言われるようになるのは、数十年後の話、側には、いつもチャニとメルローとラールがいた。
ジュリアは『信頼のクライアント』と言う、称号を手に入れて、世界中のサーバントを救ったのだった。
(了)
読んでくださった皆さんありがとうございました。




