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悪夢契約者ナイトメアクライアント  作者: 花言葉
中央のナイトメアクライアント
13/19

5

 ユメノは急いでジュリア達を追いかけて、奥の部屋に向かった。

「カギを開けます」

 ユメノがそう言って、カギを開ける。

「ユメ!」

「生きているわよ、大丈夫」

 ジュリアが、ユメの脈拍を見ている。ユメは点滴されているので、死ぬことはまずないだろう。

 白いドレスのユメは眠っている。

「では、夢の中へ入りましょう」

「はい」

 ユメノが返事した。

 夢の中へ入ると、楽しそうに笑うユメがいた。

「ユメ」

「ユメノ?」

 ユメが少しばかり反応した。

「ユメのだよ。ユメノは、ユメの……ずっとユメのユメノだから、絶対に消えないで頂戴よ」

 ユメが泣き出した。すると、ユメノの姿をしていた。サーバントが前と違う動きをしだした。

「なぜ、泣かせた。私のユメ様なんだぞ」

「お前は、ユメノじゃない、私がユメのユメノだ」

 二人は、にらみ合い、時間が止まった。

「私のメモリーでユメ様を幸せにしてあげますから、今すぐあなたは、いなくなってください」

 ニセモノがそう言ってユメノを指差す。

「偽りの幸せで、ユメを縛るなんてだめだ、私が幸せにして差し上げるから、お前は引くがいい」

 ユメノも負けていない。

「君には出来ないよ、君がいなくなるからいけないんだ」

「いなくなって無い、少し遠くに用事があって……」

「この少女、泣いていたぞ、ユメノ、ユメノって」

「ユメ! さみしい思いをさせてすまなかった。でも、私は帰ってきた。それでは、ダメなのか?」

「ダメ、ユメノはユメだけの物だもん」

 ユメはまた泣きだしてしまった。その様子は、幼い少女の様だった。

「何だかやばくなってきたな」

 メルローがそう言う。

「でも、『時のサーバント』じゃないな、あれ」

「えっ!」

「ジュリアはやっぱり無能だな、しかし、あの状態にしてしまったら退却すると、ユメの命が危ないな」

「契約するしかないって事ね」

「そうだ」

「行くわよ」

「おー」

 サーバントの近くに向かう。

「ユメノ、我を忘れちゃダメ、そのサーバントはまやかしなの、本気で相手すると、余計刺激してしまうわ」

 ユメノは我に返ったのか、一回黙った。

「クライアント連れか、ならば、一つ賭けてみないか、どうだい、私と一戦しようじゃないか」

「その勝負乗った」

 メルローがそう言って目の前に立っていた。

「メルロー!」

「俺は、ジュリア、お前のためなら、何だってできる」

「それは、どういう意味?」

「自分で考えろ」

 メルローは、そう言って、前へ出た。

「そのサーバントでいいんだな、私は強いぞ、なめてかからない方がお前の身のためになるぞ」

「お前こそ、俺をなめるなよ」

 メルローは強気だったのだが、メルローの能力を知らないので、ジュリアは、不安でもあった。

(大丈夫かしら?)

 こうなってしまったからには、ジュリアは祈る事しか出来ない。

「お前は、支配のサーバントだろ?」

 メルローが問いかけると。

「違うよ~」

 ふざけた様子でサーバントはそう言う。

「余裕そうだな、だが、この剣を受けて見ろ」

 メルローはいつの間にか剣を自分の所に出現させていた。

(メルローの能力は武器のサーバントなのかしら?)

 そう思って見ていると、サーバントが光を放つ。

「くらえ、フラッシュフォーチュン」

 そうサーバントが言うと、『裏か表か選んでね? その場で不幸が始まるよ』と音が流れて、コイントスの構えをした。

「どちらかは幸せの紋様で、どちらかは不幸の紋様、どちらが出るかな?」

 サーバントは楽しそうにコインを持っている。

「はい、では、コイントスしま~す」

 コインを投げてキャッチした。

「さ~て、どちらの紋様が出るかな?」

 そーと、サーバントは、手を離す。

「残念、不幸の紋様だ。君には、おしおきを受けてもらおう、盲点の試練だよ、私が盲点に入り込みます」

「消えた」

 メルローは驚いたようにそう言った。

「いいえ、メルロー、いるわよ、あなたの盲点に入り込んだのよ」

「めんどうくさいな」

 メルローは目をつむった。その様子は気配を読んでいる様だった。

「そこだ」

 そう言って、剣を振りおろすと、サーバントに当たった。

「よしっ」

「ちっ、盲点ぐらいではだめか、では、次の幸せか不幸かを決めましょう」

 サーバントはメルローの前に現れた。

「そんなことさせるかよ、どうせ、そのコインは、全部不幸の紋様にしているのは、わかっているんだよ」

「そんなことありませんよ、コインを見ますか?」

 そう言って、サーバントは、コインの裏表を見せる。

「ねっ、ちゃんと普通に幸せの紋様と不幸の紋様があったでしょう?」

「ああ、だが、今のうちに倒させてもらう」

 メルローはまた、剣を振り上げた。

「危ないな~」

 サーバントはうまく避けて、コイントスをした。

「あっ、また不幸だ。次は、気配を消すよ」

「なっ、気配がなくなった」

 サーバントの姿は見えるが、気配が消えている。この状態では、先を読む事が出来ないので、攻撃を仕掛けるのが難しい。

「今度は効いているね、どう? 降参する?」

「しない」

 メルローは一生懸命剣を振りかざしている。

(あのサーバントは、強運のサーバントなのかしら?)

 サーバントを見てそう思っていると、バコンと音がして、メルローはサーバントに攻撃を当てたようだ。

「いった~、これもだめか、君、強いね」

 サーバントは、笑いながらそう言った後、またコインを握る。

「次はどうかな?」

 メルローは、サーバントの手からコインをはたき落した。

「あっ」

「それが無ければ、戦えないんだろ」

 メルローが鼻で笑うと、サーバントは怒り出して。

「そんなことないさ、今までのは手加減だよ、本当は私も剣を使う物でね」

 サーバントの手元に剣が現れる。その剣は発光しており、触ったらしびれそうだと思った。

「これで突かれると、体がマヒするんだ。どうだ? くらって見る?」

「ちっ」

 メルローは、守る事しか出来ず、苦戦しだした。どうやら、サーバントの思い通りの結果になったようだ。

「ははは、だから、なめてかからない方が良いって言ったでしょ、君が本気を出さないから苦戦する羽目になるのさ」

「くっ」

 メルローは顔をゆがめた。サーバントは、容赦しないで、発光するサーベルをメルローに当てようとしている。

「メルロー」

 ジュリアは悲痛の叫びをあげた。

「大丈夫だ」

 メルローは、剣でサーベルを払いながらそう言った。

 ――どうしよう、メルローがやられたら……。

 焦るジュリアは祈りをささげた。

 祈っている時、大きな金切り声が聞こえた。

「ユメノ、ユメのユメノだよね」

「はい、ユメ様」

「ユメノと離れたくないよ~別れたくないよ」

「ユメに何が起こっているの?」

 チャニがそう訊くと。

「たぶん、サーバントに私と別れる暗示でもされているのでしょう。それで、私がいなくなると思い込んでおられるのでしょう」

 ユメノが冷静にそう言った。

「そうか」

 チャニはどうして良い物かと悩んでいた。その時に。

「ユメノ達、避けて」

 ジュリアの声が響いた。サーバントがサーベルを離れて見ていたユメノ達の所まで、とばしてしまったのだ。

「よけきれない」

 そこで、ジュリアが前に立って受け止めた。

「くっ」

 かなりの激痛に声が出る。体はしびれ、動けなくなった。

「あれ~ごめんね」

 サーバントは悪気なくそう言って来た。

「よくも」

 メルローが、剣をサーバントに突き刺そうとした。しかし、かわされてしまった。

「丁度いいや、人質になってもらおう」

 ジュリアを抱き上げて、サーバントは得意げにこう言った。

「コインの裏が出た時は、この人の魂をもらおうかな?」

 そう言って笑っている。

「メ、ルロー」

「今、助ける」

「コイントス開始」

 そう言って、出たのは、不幸の紋様だった。

「では、魂いただきます」

 そう、サーバントが言った途端、隕石が降って来た。

「なんだこれ、お前がやっているのか?」

 メルローに向かってそう言うと、メルローは不敵に笑って。

「驚いただろ、俺は隕石のサーバントだ。その石を喰らっても平気な奴はそうそういない覚悟しろ」

 サーバントは、ジュリアを離して、メルローに渡した。

「ジュリア、大丈夫か?」

「すごいね、メルロー、こんなに強いなんて思わなかった。あと、ありがとう、助けてくれて」

 その様子を見ていたサーバントは。

「愛されているクライアントなんだね。私もそちら側に行きたくなった。契約を更新してくれないか?」

「いいけど、あなた何のサーバントなの?」

「『幸せのサーバント』だよ」

 サーバントが笑うと、ユメノの姿から変わり、中学生くらいの、背の低いかわいい男の子に変化した。

「これが、真の姿だよ」

「幸せをつかさどり者よ、私と契約せよ」

「僕は、ラール、よろしくね、メルローと……」

「チャニと言います」

「よろしくお願いします」

 ラールは深々と頭を下げた。

「さあ、ユメ様がお目覚めの時間です。夢の中から出ましょう」

「はい」

 そう返事して、ユメの夢から出ると。

「目覚めない」

 ユメは、白いドレスのまま眠っているではないか。

「うそだ。だって、僕はもう、その子にとりついていないんだよ。眠り続けているわけがないはずだよ」

「『眠り姫』みたいにキスしたら起きるとか?」

「キスですか……」

 ユメノは迷わずユメに口付けた。

「なに? ここは? ユメノ! ユメノがいる」

 茶髪がうまくカールされていて、目の大きい、かわいらしいユメは、ユメノに抱き着いた。

 ユメの白いドレスのおかげで、ロマンチックに見えるユメとユメノにジュリアは感動していた。

 少しやせているユメは、すぐに食事が用意されて、食べることにした。

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