5
ユメノは急いでジュリア達を追いかけて、奥の部屋に向かった。
「カギを開けます」
ユメノがそう言って、カギを開ける。
「ユメ!」
「生きているわよ、大丈夫」
ジュリアが、ユメの脈拍を見ている。ユメは点滴されているので、死ぬことはまずないだろう。
白いドレスのユメは眠っている。
「では、夢の中へ入りましょう」
「はい」
ユメノが返事した。
夢の中へ入ると、楽しそうに笑うユメがいた。
「ユメ」
「ユメノ?」
ユメが少しばかり反応した。
「ユメのだよ。ユメノは、ユメの……ずっとユメのユメノだから、絶対に消えないで頂戴よ」
ユメが泣き出した。すると、ユメノの姿をしていた。サーバントが前と違う動きをしだした。
「なぜ、泣かせた。私のユメ様なんだぞ」
「お前は、ユメノじゃない、私がユメのユメノだ」
二人は、にらみ合い、時間が止まった。
「私のメモリーでユメ様を幸せにしてあげますから、今すぐあなたは、いなくなってください」
ニセモノがそう言ってユメノを指差す。
「偽りの幸せで、ユメを縛るなんてだめだ、私が幸せにして差し上げるから、お前は引くがいい」
ユメノも負けていない。
「君には出来ないよ、君がいなくなるからいけないんだ」
「いなくなって無い、少し遠くに用事があって……」
「この少女、泣いていたぞ、ユメノ、ユメノって」
「ユメ! さみしい思いをさせてすまなかった。でも、私は帰ってきた。それでは、ダメなのか?」
「ダメ、ユメノはユメだけの物だもん」
ユメはまた泣きだしてしまった。その様子は、幼い少女の様だった。
「何だかやばくなってきたな」
メルローがそう言う。
「でも、『時のサーバント』じゃないな、あれ」
「えっ!」
「ジュリアはやっぱり無能だな、しかし、あの状態にしてしまったら退却すると、ユメの命が危ないな」
「契約するしかないって事ね」
「そうだ」
「行くわよ」
「おー」
サーバントの近くに向かう。
「ユメノ、我を忘れちゃダメ、そのサーバントはまやかしなの、本気で相手すると、余計刺激してしまうわ」
ユメノは我に返ったのか、一回黙った。
「クライアント連れか、ならば、一つ賭けてみないか、どうだい、私と一戦しようじゃないか」
「その勝負乗った」
メルローがそう言って目の前に立っていた。
「メルロー!」
「俺は、ジュリア、お前のためなら、何だってできる」
「それは、どういう意味?」
「自分で考えろ」
メルローは、そう言って、前へ出た。
「そのサーバントでいいんだな、私は強いぞ、なめてかからない方がお前の身のためになるぞ」
「お前こそ、俺をなめるなよ」
メルローは強気だったのだが、メルローの能力を知らないので、ジュリアは、不安でもあった。
(大丈夫かしら?)
こうなってしまったからには、ジュリアは祈る事しか出来ない。
「お前は、支配のサーバントだろ?」
メルローが問いかけると。
「違うよ~」
ふざけた様子でサーバントはそう言う。
「余裕そうだな、だが、この剣を受けて見ろ」
メルローはいつの間にか剣を自分の所に出現させていた。
(メルローの能力は武器のサーバントなのかしら?)
そう思って見ていると、サーバントが光を放つ。
「くらえ、フラッシュフォーチュン」
そうサーバントが言うと、『裏か表か選んでね? その場で不幸が始まるよ』と音が流れて、コイントスの構えをした。
「どちらかは幸せの紋様で、どちらかは不幸の紋様、どちらが出るかな?」
サーバントは楽しそうにコインを持っている。
「はい、では、コイントスしま~す」
コインを投げてキャッチした。
「さ~て、どちらの紋様が出るかな?」
そーと、サーバントは、手を離す。
「残念、不幸の紋様だ。君には、おしおきを受けてもらおう、盲点の試練だよ、私が盲点に入り込みます」
「消えた」
メルローは驚いたようにそう言った。
「いいえ、メルロー、いるわよ、あなたの盲点に入り込んだのよ」
「めんどうくさいな」
メルローは目をつむった。その様子は気配を読んでいる様だった。
「そこだ」
そう言って、剣を振りおろすと、サーバントに当たった。
「よしっ」
「ちっ、盲点ぐらいではだめか、では、次の幸せか不幸かを決めましょう」
サーバントはメルローの前に現れた。
「そんなことさせるかよ、どうせ、そのコインは、全部不幸の紋様にしているのは、わかっているんだよ」
「そんなことありませんよ、コインを見ますか?」
そう言って、サーバントは、コインの裏表を見せる。
「ねっ、ちゃんと普通に幸せの紋様と不幸の紋様があったでしょう?」
「ああ、だが、今のうちに倒させてもらう」
メルローはまた、剣を振り上げた。
「危ないな~」
サーバントはうまく避けて、コイントスをした。
「あっ、また不幸だ。次は、気配を消すよ」
「なっ、気配がなくなった」
サーバントの姿は見えるが、気配が消えている。この状態では、先を読む事が出来ないので、攻撃を仕掛けるのが難しい。
「今度は効いているね、どう? 降参する?」
「しない」
メルローは一生懸命剣を振りかざしている。
(あのサーバントは、強運のサーバントなのかしら?)
サーバントを見てそう思っていると、バコンと音がして、メルローはサーバントに攻撃を当てたようだ。
「いった~、これもだめか、君、強いね」
サーバントは、笑いながらそう言った後、またコインを握る。
「次はどうかな?」
メルローは、サーバントの手からコインをはたき落した。
「あっ」
「それが無ければ、戦えないんだろ」
メルローが鼻で笑うと、サーバントは怒り出して。
「そんなことないさ、今までのは手加減だよ、本当は私も剣を使う物でね」
サーバントの手元に剣が現れる。その剣は発光しており、触ったらしびれそうだと思った。
「これで突かれると、体がマヒするんだ。どうだ? くらって見る?」
「ちっ」
メルローは、守る事しか出来ず、苦戦しだした。どうやら、サーバントの思い通りの結果になったようだ。
「ははは、だから、なめてかからない方が良いって言ったでしょ、君が本気を出さないから苦戦する羽目になるのさ」
「くっ」
メルローは顔をゆがめた。サーバントは、容赦しないで、発光するサーベルをメルローに当てようとしている。
「メルロー」
ジュリアは悲痛の叫びをあげた。
「大丈夫だ」
メルローは、剣でサーベルを払いながらそう言った。
――どうしよう、メルローがやられたら……。
焦るジュリアは祈りをささげた。
祈っている時、大きな金切り声が聞こえた。
「ユメノ、ユメのユメノだよね」
「はい、ユメ様」
「ユメノと離れたくないよ~別れたくないよ」
「ユメに何が起こっているの?」
チャニがそう訊くと。
「たぶん、サーバントに私と別れる暗示でもされているのでしょう。それで、私がいなくなると思い込んでおられるのでしょう」
ユメノが冷静にそう言った。
「そうか」
チャニはどうして良い物かと悩んでいた。その時に。
「ユメノ達、避けて」
ジュリアの声が響いた。サーバントがサーベルを離れて見ていたユメノ達の所まで、とばしてしまったのだ。
「よけきれない」
そこで、ジュリアが前に立って受け止めた。
「くっ」
かなりの激痛に声が出る。体はしびれ、動けなくなった。
「あれ~ごめんね」
サーバントは悪気なくそう言って来た。
「よくも」
メルローが、剣をサーバントに突き刺そうとした。しかし、かわされてしまった。
「丁度いいや、人質になってもらおう」
ジュリアを抱き上げて、サーバントは得意げにこう言った。
「コインの裏が出た時は、この人の魂をもらおうかな?」
そう言って笑っている。
「メ、ルロー」
「今、助ける」
「コイントス開始」
そう言って、出たのは、不幸の紋様だった。
「では、魂いただきます」
そう、サーバントが言った途端、隕石が降って来た。
「なんだこれ、お前がやっているのか?」
メルローに向かってそう言うと、メルローは不敵に笑って。
「驚いただろ、俺は隕石のサーバントだ。その石を喰らっても平気な奴はそうそういない覚悟しろ」
サーバントは、ジュリアを離して、メルローに渡した。
「ジュリア、大丈夫か?」
「すごいね、メルロー、こんなに強いなんて思わなかった。あと、ありがとう、助けてくれて」
その様子を見ていたサーバントは。
「愛されているクライアントなんだね。私もそちら側に行きたくなった。契約を更新してくれないか?」
「いいけど、あなた何のサーバントなの?」
「『幸せのサーバント』だよ」
サーバントが笑うと、ユメノの姿から変わり、中学生くらいの、背の低いかわいい男の子に変化した。
「これが、真の姿だよ」
「幸せをつかさどり者よ、私と契約せよ」
「僕は、ラール、よろしくね、メルローと……」
「チャニと言います」
「よろしくお願いします」
ラールは深々と頭を下げた。
「さあ、ユメ様がお目覚めの時間です。夢の中から出ましょう」
「はい」
そう返事して、ユメの夢から出ると。
「目覚めない」
ユメは、白いドレスのまま眠っているではないか。
「うそだ。だって、僕はもう、その子にとりついていないんだよ。眠り続けているわけがないはずだよ」
「『眠り姫』みたいにキスしたら起きるとか?」
「キスですか……」
ユメノは迷わずユメに口付けた。
「なに? ここは? ユメノ! ユメノがいる」
茶髪がうまくカールされていて、目の大きい、かわいらしいユメは、ユメノに抱き着いた。
ユメの白いドレスのおかげで、ロマンチックに見えるユメとユメノにジュリアは感動していた。
少しやせているユメは、すぐに食事が用意されて、食べることにした。




