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悪夢契約者ナイトメアクライアント  作者: 花言葉
中央のナイトメアクライアント
12/19

4

 ユメノはカギのかかった部屋から、ジュリア達を出してくれて、豪華な食事を振る舞ってくれた。

「エビとか魚とか、海の物は、どうやって仕入れているのですか? 中央には海がないですよね?」

 チャニが不思議そうにそう言う。

「あ~、地方の方が届けて下さるのです。でも、中央では、魚などはめったに食べませんよ」

 ユメノが笑いながらそう言った。

「ところで、ジュリアさん、サーバントの名簿見ましたよね?」

「はい」

「いったい誰が裏切ったのでしょうか?」

「裏切り?」

 ジュリアは驚いて大声を出してしまった。

「すみません」

 正直、誰かが裏切ったせいでユメが眠りについたのだと、ジュリアには思えなかった。だから、ユメノがそう言う意見を持つ事に驚いてしまった。

「みんな、あやしいですよね?」

「私はそうは思いませんよ、あなたも、臨時とはいえ、クライアントなら、サーバントを信じてあげなさい」

「そんな事出来るわけがないよ、サーバントって、クライアントが死んだら悪夢に戻るんですよ。つまり、自由になれるんだ。自由を望まないサーバントがいないはずないだろう」

「それでも、私は信じるわ」

 ユメノをにらみ付けると大人しくなった。

「クライアントと言うのは、本当に心の強い方ばかりだ」

「そんなことないですよ、信じているなんて言っているけど、真実は分からないもの、どちらかっていうと信じたいって言った方が、正しいのかもしれないわね」

「そうですか」

 ユメノに笑いかけた後、エビや魚を煮込んで、ソースをかけた物を食べて、チャニと部屋に向かった。

「チャニ、サーバントって自由になりたいって思う?」

「思いません、だって、私は、ジュリア様が大好きですから」

「じゃあ、その前のクライアントはどうだった」

「少し、性格はあれでしたが、サーバントで良かったと思ったことも何度もありましたから、嫌いではないですよ」

「そうか」

 サーバントは、クライアントに従うもの、それでも、嫌々従っているのなら、かわいそうだとも思った。しかし、悪夢に戻られると、夢を見ながら死ぬ人が出るので、やっぱりダメだと、建てなおした。

「ジュリア様、サーバントは、クライアントに従う事を嫌な事だと思ってらっしゃらない方がほとんどです。だって、認めた相手以外とは、契約何てしないのですから」

 ナイトメアクライアントは、サーバントの契約更新を仕事にしている。つまり、サーバントに認められなければいけない。

(ユメは、たくさんのサーバントに認められているんだ。きっと裏切った者などいないはず)

 ジュリアは、そう確信した。

 天蓋付きのベッドに入り、ぼーと上を見た。


☆ ☆ ☆


 いつの間にか眠っていたのか、朝になっていた。

「さあ、今日こそ、ユメのサーバントの正体当てるぞ!」

「おー」

 チャニが隣のベッドから、手を振りながらそう言った。

 服を着替えた。ジュリアは、オレンジ色のTシャツに五分丈のパンツルックで過ごすことが多い。

「これが一番落ち着くわ」

「ねえ、ジュリア、悪夢って反対を表すこともあるのよ、幸せなら不幸とか、ユメって、今、不幸なんじゃないかしら?」

「どう言う事? 幸せが不幸って」

「なくなったら嫌だと思わない、幸せって」

 チャニがそう言って、部屋を出て行った。

「幸せか……」

 ジュリアは、父にもらった。メモリアルボトルをバックから取り出した。それは、父と母の両方の写真を入れて、『愛しているよ』と書かれた手紙が入っている。

「お父さんは幸せだったのかな?」

 小さなころ、『ジュリア』と優しく呼んでくれていた父、メモリアルボトルは、二度目の結婚記念日、ジュリアが生まれて間もない時に作られたものである。

 人間は思い出を形にすることで、その時間を止めたような気になっている。でも、確実に時は動いている。止める事など出来ないのだ。

「それでも、この時間を止めたい時は、必ずあるわ」

 そう考えた時、幸せは、不幸になる。

――失いたくないと言う、その思いが不幸になるんだ。

ジュリアは、確信した。

『時のサーバント』だ。

 急いでユメノの元へ向かった。

「ユメノ、ユメノ! 私、わかったの、『時のサーバント』よ」

「はっ? 『時のサーバント』だって?」

「そう、ユメについているサーバントは、思い出の時のサーバントだと思うの、ユメは、幸せな時間を消したくなかったのよ」

「幸せな時が壊れるのを人間は、そんなに恐れるかな?」

「人によるわ、たぶん、特にユメは、幸せをかみしめる事が、うまかったんだと思うのだけど……」

「……」

 サーバント名簿に『時のサーバント』はいなかった。

「裏切ったんじゃないのか」

ユメノはそうつぶやいた。

「だから言ったでしょう、新しいサーバントなのよ、私の読みは外れなかったわ、すごいでしょう」

「すごいね」

 ユメノは少し暗い顔でそう言った。

「どうしたの?」

「い、いえ、『時のサーバント』は力の強い四天王サーバントの一つかもしれないと思ったんですよ」

「四天王サーバントって何?」

「サーバントには、位がありまして、最上級は、未だに誰も発見していないのでよくわかりませんが、マルチな力と悪夢のサーバントです。その下が、四天王サーバントと言って、力がとても強い一つにたけたサーバントです」

「チャニとかは、どの辺?」

「中級サーバントでしょう」

 ユメノは当たり前のことのようにそう言った。たぶん普通のサーバントだと言いたいのだろうと思って、黙った。

(チャニは普通だものね)

 メルローの能力は、まだ知らないので、何とも言えない。

「ジュリア、おはよう」

 メルローが笑いながら声をかけて来た。

「メルロー」

「今日は、ついに、二日目だ。今日中にサーバントを倒さないと、報酬がもらえなくなるぞ」

「うん、メルロー、その手に持った花は?」

「ジュ、ジュリアにやるよ」

 名前も種類も分からないけど、かわいらしいピンクの花だった。

「うれしい、ありがとう」

「なっ、なんだよ、ジュリア」

 メルローは、赤くなって指をこにょこにょ動かしている。

「?」

 不思議に思い首を傾げた。

「あっ、それよりもね、わかったの、サーバントの名前『時のサーバント』だと思うのだけど……」

「『時のサーバント』だって、あいつ容赦がないから嫌いなんだよ」

「メ、メルロー……、会ったことあるの?」

「俺の友達だよ、いつの間に気配を変えたんだ? 全く気が付かなかった」

「メルローがいたから、変えていたのかもしれないわね、でも、これで交渉がしやすくなったわ、メルローの友達で良かった」

「よくない、二度と会いたくなかったんだ」

 メルローが何を嫌がっているのかわからなかったが、照れ隠しだと思い、笑ってその場は落ち着いた。

「メルロー、がんばろうね」

「ああ」

 チャニが現れて。

「ジュリア、サーバントの正体がわかったんでしょう? すごいわ、やっぱりジュリアは出来る子なのよ」

「チャニのヒントのおかげ」

「私は、思った事を言ったまでですわ」

 メルローはしばらく首を傾げた後。

「とりあえず、朝食を食って来い、ジュリアは腹減るだろ」

「う、うん」

 メルローにそう言われて、走って会食の場へ向かった。

 ところが、着いたところで、自分の恰好がラフすぎるような気がした。

(誰もいないし、いいか)

 幸い、料理のサーバントしかいなかった。

「おいしいですか?」

 料理のサーバントは、チャニと同じでアラビア系である。浅黒い肌が特徴で、いつも、コックの衣装を着ている。

「おいしいですよ」

 お肉の肉汁が、ナイフで切る度にあふれてくるハンバーグを食べていた。

「肉汁が、高級なお肉が……」

 幸せに成って食事をしていたところ、ユメノとメルローとチャニが来た。

「ジュリア、おいしそうに食べていたわね」

 チャニが楽しそうにそう言ってくる。

「うん、とっても、おいしいわよ」

「チャニの料理よりはうまいだろ」

「まあっ、メルロー、食べてもいないのになぜわかりますの?」

「火炎弾のサーバントと料理のサーバントを比べたら、そりゃあ、かわいそうだったな、悪い、悪い」

「それでは、謝ってませんわ、しっかり謝ってください」

「い・や・だ」

「きー」

「チャニ、落ち着いて、せっかくのおいしいハンバーグが、台無しになっちゃうじゃないの」

「そうですね、すみません」

 チャニは謝った。

「どうして、メルローはあんな性格なのです?」

「知らないわよ」

 最後のハンバーグを口にいれる。

「う~おいしい」

「ジュリア様ったら」

 話を聞いていなかったのだが、チャニはなぜか呆れている。

「食べ終わったところで、ユメを救う方法を色々考えているのだが、ジュリアさんは、得策を考えておられませんか?」

「うんとね、何とかなると思うの」

 ユメノは呆れたような顔をして。

「今度は、考えなしなのですね?」

「だって、対策何て建てたところで、思い通りには、行かないものなのよ、だから、サーバントはおもしろいんじゃない」

 ジュリアは、また、少し強気な様子に変わっていた。

「やってやるわ、チャニ、メルロー、行くよ」

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