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奥の部屋に入るには、カギが必要である。ユメノが首に付けていたカギを大きな鉄の扉に差し込んだ。
ガチャッと音がして重い扉が開いた。そこには、一人の女性が眠っている。
「この方が今回のサーバントにとりつかれた方です」
ベッドの上にいたのは、白いドレスを着た。結婚式前の女性の様だった。
「この人、結婚するはずだったの?」
「いいえ」
「じゃあ、なぜ、白いドレスを着ているんですか?」
「この方の仕事着だからです」
よく見ると、ドレスの丈が短く、足が出ている。ベールを被ってはいるが、それは、結婚式のような華やかな物ではなく、白い布だ。
「彼女は、「私の友達になってくれる方に失礼の無い恰好をするべきだわ」と言って、この格好をして働いていたのです」
「彼女はどんな職業の方?」
「ナイトメアクライアント」
ユメノがそう言い放ち、みんな固まる。
「お前が、ナイトメアクライアントじゃないのかよ」
「私は、臨時のナイトメアクライアントです。彼女は、本物のナイトメアクライアントです」
「そうか!」
みんなの話は、ところどころ変だった。それは、この女の人の職業を隠すためだったんだ。
そう気づきユメノを見る。
「どっちにしろ、救ってあげる方には変わりはないわ」
「ありがとうございます」
「サーバントに飲まれしクライアント、救って差し上げます」
「おー」
チャニが喜んで声を出した。
その女の人の夢に入ると、とても明るい光景だった。
「ユメノ、しっかりしなさい」
女の人は、ユメノを叱っているようだ。そして、彼女の周りには、サーバントが集まっている。
「でも、ユメ、ユメの様には、できないよ」
「やる前からあきらめないって教えなかった?」
「うん、ユメ、わかった」
女の人の名前は、ユメのようだ。そして、一つ疑問に思ったのは、これは、悪夢なのだろうか? と言う事だった。
(幸せそうな夢だけど……)
「どうだい、ジュリアさん、何かわかったかい? この夢の中の何かが嫌な事のはずなのだけど……」
ジュリアは考えた。
(クライアントが最も嫌う事? そうだな~、地位をはく奪される事とかかな?)
しかし、それでは、この夢の意味が解らない。
(次にクライアントが大事にしている事と言えば、サーバントよね?)
「サーバントが減ったりしていない?」
「それは確認した。その位の事は、私でも考えた。ユメは、本当にサーバントが大好きだったから」
ユメノが悔しそうにそう言う。
「ユメノは、ユメが大好きだったんだね」
「あっ、はい、ユメノだってユメが付けてくれた名前でして……」
「えっ? ユメノって親はいないの?」
「はい、いませんが、それが何か……」
「苦労したんだね~」
チャニがユメノの肩に手を置いてそう言った。
「いえ、苦労などしていません、ユメが、すべて嫌な事を消してくれましたから、お母さんと言っても過言じゃない位、私を大事にしてくださったんです」
「お母さん?」
お母さんと呼ぶには、ユメは若すぎる気がしたので、少し不思議に思ってそう言うと。
「はい、私にとっては、お母さんですよ」
ユメノは迷わずそう言った。少しおかしいと思ったが、クライアントと言う職業は、謎が多い物だから、少々不思議に思う事があってもおかしくないと思い。
「ユメが育ててくれたから、お母さんって呼んでいるのね? ユメノとユメは年が離れてないようだけど、ユメはお姉さんじゃなくお母さんなのね」
「はい、おかしいですか?」
「少々はね」
「少々って言うか、すごい違和感だよね」
チャニがそう言うとユメノは。
「ユメは、クライアントでしたから、経済的にも余裕がありましたし、サーバントを従わせるほどの度胸もありました。だから、お姉さんと呼ぶ方が、私には違和感なのです」
ユメノの話を聞いたら、なんだか納得できた。確かにクライアントは、姉と言うよりも母だと思う。
「それなら、仕方ないか」
ユメの夢の中では、相も変わらず、サーバント達とユメノと楽しそうに話している日常だった。
「やっぱり、もう少し考えさせて」
ユメノに向かってそう言うと。
「良いですよ、一回、夢から出ましょう」
そう言って、夢の外へ出してくれた。
「あなたには、二日間、時間をあげます。ですから、その間にユメの悪夢の謎を解いてください」
「わかりました」
神妙な面持ちでそう答えた。




