なな。
「ただいまー……」
玄関の扉を開けて、リビングに向けて声をかけると、「おかえりー」という間延びした返事が聞こえる。
キッチンの方からはいい匂いがするから、晩御飯を作っているところだろう。
靴を揃えて、二階へ続く階段を上る。
自室に入って鞄を床に置くと、制服を着替えるよりも先に、そのままベッドに寝転がった。
真っ白な天井を見つめていると、自室のドアをノックしてからお母さんが顔をのぞかせる。
「ご飯、できてるよ」
「うん、有り難う。もうちょっと休憩するかも」
「わかった」
短めに答えて扉が閉まると、一階に下りていくお母さんの足音が小さくなる。
しばらく扉を見つめた後、また何もない天井に視線を戻した。
一息ついて、知らない間に、今日出会った女の子のことを考えている自分がいることに気づく。
あの、お団子屋の女の子。
おどおどしたような感じで、第一印象は、危なっかしいなと思った。
きなこを被って出てきたときはびっくりしたし、雨が好きと言ってくれたときは嬉しかった。
今日一日だけでもこれだけの出来事があったから、自然と考えてしまっているだけなのかもしれない。
体を起こすと、とりあえず部屋着に着替えて一階へ下りた。
ご飯を食べるのを待っていてくれたお母さんと向き合って一緒に食べる。
いつも道理に食べているはずなのに、何故かじっと見つめられてた。
「……何?」
「何か考え事してる?」
「してないよ……?」
普段は聞かれないような質問に、少しだけ戸惑う。
「そうかな? でも響、なんだかいつもと違うもの」
「……そう、かな」
いつもと変わらないようにしているはずだ。
いつもと変わらないようにしているはずなのだけれど、何故か不意に、あの女の子に会いたいと思ってしまうのだ。