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雨より君に。  作者: 吹楽 奏 ・ (偽貍狸)
7/8

ろく。

 「それから……」


 続けて僕の口は、勝手に言葉を紡いでいこうとする。

 ある人、とは、異性だろうか。

 それなら。


 「きっとその人は、君の事を__」


 そこまで言ってから、勝手に言葉を紡ごうとしていた口は、静かに閉じた。


 「どうしたんですか?」


 その先の言葉を言えなかったのは、きっと、言ってはいけないような気がしたから。

 言ったら、今、心の奥に引っ掛かっている何かが溢れてしまいそうだったから。

 心のなかに突然現れたモヤモヤは、何かわからないけど。


 柚子の花言葉にあるのは、健康でいてほしいというものの他にも。

 恋のため息という__。


 「えっと、響さん?」


 「いや、何でもない……」


 それから視線は、自然と空を見る。

 灰色の雲から次々と落ちてくる雨に、心が安らいだ。

 

 「響さんは、雨が好きなんですか?」


 上を見ていた僕に、横から声をかけられる。


 「うん、音も匂いも、全部……ううん、濡れるのは好きじゃないかも。」


 言ってから女の子の方を見ると、少し大袈裟に苦笑して見せた。

 女の子は驚いた顔をして、それから何故か俯いてしまった。

 

 「私も、濡れるのは好きじゃないです。湿気とか……」


 そう言うと、下をを向いていた顔をこちらに向ける。

 

 「でも響さんが言うなら、私も、好きになれるような気がします……」


 「そっか……」


 自分の好きなものを好きになってくれるのは嬉しくて、少しだけ頬が緩んだ。

 女の子に向けていた顔を空に戻すと、雲の間からは、太陽が顔を覗かせている。

 雨も、少し弱くなってきたようだ。


 「そろそろ止むね。僕、送っていくよ」


 「いっ、いやいや、そんな悪いです……!」

 

 手をぶんぶんと振って遠慮している女の子に「大丈夫」と言って歩きだす。 

 後ろからカタカタとした下駄の音が近づいてきて、女の子が横に並んだ。


 「有り難う、ございます……」


 それから店まで歩いていくと、店先に、男の子が立っていた。

 一番初めに店に入ったとき、きな粉を被った女の子の後ろで苦笑していた子だ。


 「お前、どこ行ってたんだよ……! あと……お客さん……」


 呆れながら女の子に注意してから、こっちに気づいた男の子が、軽くお辞儀をする。


 「ふふっ、こちら響さんって言うの」


 「えっと……」


 いきなり紹介をされて、同じようにお辞儀をする。

 

 「雨降ってきて、ちょっと一緒に雨宿りしてたの。ごめんね」


 「えっ……と……」


 それを聞いて男の子が悲しそうな表情になったのは、二人から少し離れていた僕からでも読み取れた。

 それから、もう用事もなくなった僕は、二人に挨拶をしてから、まだ三十分ある帰り道を戻った。

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