表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨より君に。  作者: 吹楽 奏 ・ (偽貍狸)
6/8

ご。

 雨はどんどん強くなっていく一方だ。

 目の前の女の子は、髪を必死で押さえている。

 男の僕にはわからないけど、きっと何かあるのだろう。

 このままでも悪いと思い、何処か雨宿りが出来るところはないかと探していると、近くに丁度屋根を見つけて、女の子の手を引いた。


 「こっち!」


 雨が当たって冷たいはずの体とは裏腹に、僕が掴んだ手首は温かかった。

 屋根があったのは、もう使われていなさそうなバス停。

 所々が錆びれていて、辛うじて二人入れる程度だろう。


 「大丈夫? 入れる?」


 「大、丈夫、です……」


 肩が少し触れ合うくらいの距離。

 何か話すことも無かった為、顔を女の子と反対側へ顔を向ける。

 すると、ふと爽やかな匂いがした気がして、無意識に女の子の方を向く。

 女の子もこちらを向いていたらしく、丁度目が合った。


 「……なんか、いい匂いしません?」


 「……………………………え?」


 質問が不意すぎたのか、女の子の反応が遅かった。


 「これは……香り袋なんです。」


 そう言った女の子の手元が動かされ、着物の中から、手のひらのに収まるくらいの小さな袋を取り出した。


 「前に、ある人から貰って。それからずっとこうして首から下げて持ってるんです。私にとってはお守りみたいなもので……」


 そうして、手のひらに収まった袋を、きゅっと握った。


 「柚子の……香りだね。」


 ふと雨に触れたくなって、屋根の外へ出る。

 雨粒が、髪や腕に当たって、夕立の光で反射していた。


 「柚子ってさ。すっきりした明るい香りで、すごく元気そうだよね。それに、一切の汚れの無い真っ白な純粋、純情な花。」


 灰色の雲が敷き詰める、それでも、その間から顔をのぞかせた夕立を見ながら、ふと呟く。


 「—————————————それって、まるで、君。」


 「これを贈ってくれたその人も、そう想ってくれたんじゃないかな。」


 そう言って、女の子の方を振り返る。

 それは、無意識に、僕の口から出たものだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共同執筆中の作品 『花より君に。 』!  こちらも宜しくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ