ご。
雨はどんどん強くなっていく一方だ。
目の前の女の子は、髪を必死で押さえている。
男の僕にはわからないけど、きっと何かあるのだろう。
このままでも悪いと思い、何処か雨宿りが出来るところはないかと探していると、近くに丁度屋根を見つけて、女の子の手を引いた。
「こっち!」
雨が当たって冷たいはずの体とは裏腹に、僕が掴んだ手首は温かかった。
屋根があったのは、もう使われていなさそうなバス停。
所々が錆びれていて、辛うじて二人入れる程度だろう。
「大丈夫? 入れる?」
「大、丈夫、です……」
肩が少し触れ合うくらいの距離。
何か話すことも無かった為、顔を女の子と反対側へ顔を向ける。
すると、ふと爽やかな匂いがした気がして、無意識に女の子の方を向く。
女の子もこちらを向いていたらしく、丁度目が合った。
「……なんか、いい匂いしません?」
「……………………………え?」
質問が不意すぎたのか、女の子の反応が遅かった。
「これは……香り袋なんです。」
そう言った女の子の手元が動かされ、着物の中から、手のひらのに収まるくらいの小さな袋を取り出した。
「前に、ある人から貰って。それからずっとこうして首から下げて持ってるんです。私にとってはお守りみたいなもので……」
そうして、手のひらに収まった袋を、きゅっと握った。
「柚子の……香りだね。」
ふと雨に触れたくなって、屋根の外へ出る。
雨粒が、髪や腕に当たって、夕立の光で反射していた。
「柚子ってさ。すっきりした明るい香りで、すごく元気そうだよね。それに、一切の汚れの無い真っ白な純粋、純情な花。」
灰色の雲が敷き詰める、それでも、その間から顔をのぞかせた夕立を見ながら、ふと呟く。
「—————————————それって、まるで、君。」
「これを贈ってくれたその人も、そう想ってくれたんじゃないかな。」
そう言って、女の子の方を振り返る。
それは、無意識に、僕の口から出たものだった。