よん。
____ポツリ、ポツリ
また二粒、雨粒が制服の肩に染み込む。
なんだか嬉しくなった俺は、心と一緒に、ウキウキした気分で走ってみた。
すると、
「あのっ……!」
と言う声が聞こえる。
声をかけられたのは自分だろうかと振り返ると、そこに立っていたのは、さっきの団子屋で明日までに苺大福を作っておくと約束した女の子だった。
「あ、はい?」
もう苺大福が出来ちゃったのか?
いや、それは無いか。
と、女の子の手の中に納まっているノートに目が留まる。
「あの、それは……」
見覚えのあるノート。
綺麗な薄茶色の表紙で、長い間使っているけれど、ボロボロになっているところは少ない。
「お客様が座っていたところらへんに、落ちてました。」
その手の中から、そっとノートが差し出され、それを受け取る。
「有り難う、ございます。」
ぺこりとお辞儀をして、中身は見たかと聞こうとすると、女の子の声が、先を越した。
「響、さんっ……て、名前……なんですね。」
「えっ、あ、」
いきなり名前を呼ばれてびっくりしたが、そういうことかと、ノートに書かれた自分の名前に目を落とした。
「響ですけど……」
「良い、名前ですね……!」
女の子は少し下を向いてしまっていて、顔は良く見えない。
「えっと……有り難う。」
言うと、パッと顔をあげて、えへへっと笑った。
笑窪が似合う、爽やかな笑顔で、自分でも思わず見とれてしまうくらいだったけど。
「……じゃあ、それだけなので、私はお店に戻りますね……」
と言ったのはいいものの、俯いたまま背中を見せないその女の子を、ただ上から見下ろしていた。
____ポツリ、ポツリポツリ。
「あ……」
上を見上げると、あの青かった空は灰色の分厚い雲で覆われ、そこから、どんどんと雨水が降ってきている。
さっきよりも強くなった雨に、女の子が声を漏らす。
「わぁっ、雨……!」
女の子に目を戻すと、何やら慌てたように頭を押さえていた。
何をしているのかと考えているうちに、雨はまた、強くなってしまった。