さん。
帰り道。
明日、苺大福を作っておいてくれると言われて出てきたのも良いが、あそこの店の団子も、やっぱり少し食べておけばよかったかと思った。
周りには、さっきのお団子屋さんみたいな小さなお店が沢山並んでいて、お花屋さんの前では、奥様方が楽しく喋っていたりする。
時々楽しそうな笑い声が、わははっと耳に届いた。
そんな人たちを見てから、ふと、空を見上げてみる。
空はまだ、綺麗だと思うくらいに青かった。
「ん。」
鞄の中に手を伸ばす。
取り出そうとしているのは、一冊のノート。
良いと思った景色、幸せと感じた事を書き残しておく為に使っている。
理由は特に無いのだが……
「ん……あれ?」
無い。
鞄の中の同じところを、何回も見て、手で探って探しているのだが。
そのノートが、無い。
「え、っと……」
お気に入りで、大切に使っていたのに。
どこ、いったんだ?
「あぁあわわわわわわわわっ、やばいぃいいい!」
頭の横に手を当てて叫ぶ。
あれがあると、何だか落ち着いた気分で居れるのだ。
それが無くなったと言ったら、ちょっと焦る。
自分が見て来た幸せなことが、誰かに見られてしまうかもしれない。
僕は、そういうところに、何か、こだわりがあるのだ。
そんなこんなで、あたふたしていると。
____ポツリ。
冷たい粒が、上を向いていた頭にあたる。
それを見て、少し心が晴れた。
雨が。
僕の大好きな、雨が降ってきた。