考察とつながる話と管理者と
ガヤガヤと、陽気な笑い声や酔うにつれて大きくなった声での雑談が場内に溢れている。
昼過ぎから開催され盛り上がっていた宴会は、今や日も暮れて薄暗くなりつつあるこの時間帯になっても未だその勢いは鎮まっていなかった。
ざっと見回すと子爵はオレたちのボックス席からかなり離れたテーブルで、自身と同年代ほどであろうか……高齢の村人たちと集まりすっかり出来上がっている様子で杯を傾け合っている、おそらくいつもの飲み仲間の人たちなのであろう、気心の知れた連中と飲むのも楽しいのであろうが、オレたちに余計な気を遣わせないようにあえて村の重鎮たちを引き付けてくれているようにも見える。
サマサはカウンター席の一番端っこでフィリアと仲良くやっているようであった、こちらからはカウンター上の酒瓶やグラスに遮られてフィリアの頭だけが見えており背の低いサマサは全く見えないのであるが、フィリアの頭が時折り笑うように揺れているのでどうやら話は弾んでいるらしい。
セルピナは言わずもがな……取り巻いて盛り上がっていた周囲の若い衆のうち数人が酔い潰れてしまっているようではあるが、セルピナ本人は元気一杯というかようやくトップギアに入ってきたという感じの騒ぎ様である……何のゲームをやってるのかは知れぬが二、三人の若い衆が罰ゲームで上半身裸にさせられてるようである……半裸の若者を側に侍らせて大満足そうな闇の女神さまであった……
そしてオレたちの席はというと……
「なぁ……マクシム神官長……大丈夫なのかアレ……?」
先程次元の裂け目から引きずり出されてきてガクガクしながら強制的に教え込まれたのであろうセリフを言わされ、挙句の果てに用が済めばさっさと裂け目に押し込まれて戻って行った憐れな神官長の姿を思い出しながらオレが言うと、あら? なんのことかしら? といったすっとぼけた笑顔の二女神さまが可愛らしく小首を傾げてみせた。
「大丈夫もなにも、私とねえさまはごく穏やかに説得しただけじゃぞ? マクシムも私たちのお願いを快く承諾してくれたのじゃ、何も問題なかろ?」
イルビスが上機嫌な声で言う、オレもこの二人はもちろんそう言うだろうと思っていた……二人が戻って行った大聖堂でどんなコトをやっていたのかは想像に難くない、突然戻ってきた崇拝する守護女神と伝説の大神官にいきなり小一時間ほどギャーギャー喚かれ、おそらくイルビスの明晰な頭脳による悪魔的ともいえる狡猾な脅迫もされていたであろう可哀想なマクシム神官長の姿が脳裏に思い浮かべられるのである……
そしてオレにそんな想像をされるであろうことは、目の前でニコニコしている女神~ズも当然承知の上での言動なのである……つまりイルビスもアリーシアも、この旅を続けるためには開き直った実力行使も厭わない!……なにがなんでも旅するわよっ! と、いうことであるようだ……
「ハァ~……」
オレは大きな溜息をつきつつ肩をガックリと落とす、この二人がここまでする覚悟を決めているのであれば、おそらくもう誰にも止めることなどできぬであろう……この上でまだ無理矢理にでも、戻りなさい! などと言おうものなら、今度はガクガクしたキラさんが次元の裂け目から引っ張り出されてくるのが目に見えているのである……
オレの諦めた様子に、おっ⁉ と更に顔を輝かせる女神~ズであった……いたしかたないので渋々と切り出す。
「まあ、オレもまた全員で旅できるのは嬉しいんだけどさ……お前ら、この旅が終わって王都に帰ったら……教会の人たちに埋め合わせくらいはしてやってくれよ……?」
するとこの言葉を聞いた途端にアリーシアの目がぶわっと潤み、表情もみるみる心底ホッとしたような半泣きの笑顔に変わった……
「はいっ!」
目の端に涙の粒が光っている……これは本当に心奥からの笑顔を向けられてオレの方も胸を衝かれる思いであった、それほどまでに一緒に旅をしたいと思ってくれていたんだな……と、改めてなんとも言えぬ感動で胸が一杯になってしまうのである……隣のイルビスは勝ち誇ったようにカッカッカと笑っているのではあるが……
「なあ、イルビス……」
それからは宴会の仕切り直しということでオレとローサ、アリーシア、イルビスの四人はしばし他愛のない会話をしつつ料理をつまみ酒場内の雰囲気を楽しんでいた、その中でオレは昨日からなんとなく気になっていたことを思い出し、イルビスに尋ねてみようと口を開いたのである。
「……ん~?」
アリーシアに少々苦手なセロリを食べさせられて仏頂面になっていたイルビスが、モグモグしながら返事をする。
「昨日の戦闘中、ミツハが現れただろ……? 変だと思わないか……?」
しかし、そうオレが尋いた途端にイルビスのモグモグがピタリと止まった……何故かオレと目を合わさぬように斜め下へと視線を固定しつつ、口の中のセロリをゴクリと嚥下する……苦い表情になっているのはセロリのせいだけではないように思えたのであった……
「変とは何がじゃ?」
驚いたことにそれまでの場の陽気さすら打って変わって鎮まるほどの面白くなさそうな口調である、イルビスのこの変わりようをローサとアリーシアも変だと気付いたのであろう、少し心配げな表情でオレとイルビスの顔を交互に眺め始めた。
「ミツハさ……アイツ、頼まれてあの古代竜を追って来たって言ってたよな……?」
まるでオレがこの話をするのを予見していたようなイルビスの反応に戸惑いつつも、しかしあえて話を進めるオレの言葉に彼女の目がスウッと細くなった……視線もまだこちらへ向けようとはせず、だが声音は更に硬くなりながら応えが返ってくる。
「それのどこが変なのじゃ……? ミツハとて誰かと取り引きすることもあるであろうよ……偶然が重なっただけにすぎぬ、あまり気にするでないっ!」
ピシャリと言われて一瞬鼻白んだが、オレの中の漠然とした考えがむしろ形をとって確信へと変わっていく……オレの考えていたことは的外れではなさそうだ、と……さらにイルビスは何か気付いていてオレたちに隠しているとも思えて来た。
「イルビス……お前、何か知ってて……隠してるな……?」
このオレの問いには返事は無く、かわりにジロリと睨む視線がようやくこちらに向いてくる……急に険悪な雰囲気になってきたオレとイルビスに、慌ててアリーシアが間に入ろうと口を開いた。
「ちょっ……ちょっと待ってくださいっ! タクヤさん……イルビスも……二人ともどうしちゃったんですかっ? あのとき確かミツハさんは……スー……スーワーン? という方でしたっけ? に、借りがあってあの竜を追っていたのだと言っていましたが……何か問題でもあるのですか?」
「ああ、あのミツハに貸しを作ることのできる、そのスーワーンって人のことも気にはなるがな……」
心配顔のアリーシアに頷きつつ言い、そして押し黙ったままのイルビスへと視線を戻しながらオレは続けた。
「イルビス……ミツハは次元の狭間からこっちへ出て来た古代竜を追って来た、しかもそのスーワーンって人に頼まれてと言っていた……ってことは、あの古代竜はひょっとしたら次元の狭間で管理されていたんじゃないんだろうか……? そうは考えられないか?」
オレのこの言葉にアリーシアも、あっ⁉……と気付いたようであった、そうである……このことが昨日からなんとなく気になっていたのであった、オレは相変わらず無言のままのイルビスを見つめながら更に続ける。
「本来なら古代竜がこっちの世界でどんなに暴れようが、被害を受ける者以外にはなんの関係もないハズ……それが原初の八柱であるミツハに追跡させるっていうとんでもない対策を講じる存在がある……ってことはあの竜が大暴れして騒ぎが大きくなるとマズイと考えるヤツがいるんじゃないだろうか……? って思えてきたんだ」
「もうよいっ!」
そのとき勢い込んで話すオレの言葉を、イルビスの鋭い声が突き刺すように遮った。
「うっ?……イ、イルビス……?」
突然話を遮られたオレが驚きつつ凝視していると、イルビスの険のある目つきがみるみる緩み、代わりにその表情は不貞腐れたようなムス~ッとしたものへと変じていった……元が超の付く美少女なだけにそんな表情でも可愛いのではあるが、やはりイルビスはイルビスである……毒気をたっぷりと含んだ忌々し気な言葉が、その可愛い口から吐き出された……
「貴様というヤツは……なぜにこうも気付かぬともよい所に気付くのじゃっ! 私が何も言わずに黙っておった意味がなくなるではないかっ! まったく気が利かぬばかりか余計な所に気を回しおって!」
そう言うとプンプンしながらグイ~ッとメイプルジュースを煽る、しかし言われたこちらとしては何が何だかよく解らない……アリーシアもオレと同じなようで、キョトンとした顔で不思議そうにイルビスを見ているだけである。
「ええと……イルビス、それってどういう意味なの……?」
やがて耐えきれなくなったのであろう……アリーシアがおずおずと切り出した、それでイルビスも話さざるを得なくなったのであろう、鼻から溜息をつきつつ逆にアリーシアへと質問する。
「ねえさまはスーワーンという名……聞いた覚えはありませぬか?」
全く知らないわ……という感じでフルフルと首を横に振るアリーシアへ頷くと、次に黒紅色の瞳はオレの方へと向けられた。
「私はスーワーンという名、何かの文献で読んだことがある気がしての……しばらく思い出せなんだが、荒地からここへ来るときにようやく思い当たったのじゃ……」
「文献って……文献に載るような人物ってことなのか……」
「そうじゃ、しかも記載されていたのは現存する文献の中でも最古の部類に入るものでの……神代の世界に関する記述の中にその名があったのじゃ……」
これには驚きであった……ミツハと取り引きできるであろう所から只者ではないというのは予測できたのであるが、まさか神代の世界などというとんでもないワードが出てくるまでの話であったとは……しかし、ということは……
「そ、それじゃ……スーワーンってのはやっぱり、ミツハと同じ原初の八柱……なのか……?」
オレのこの問いに、だがイルビスはフルフルと首を横に振りつつ眉をしかめた……機嫌が悪くなったという訳ではなさそうだが、なんだか逡巡しているような表情である、そしてその心情は応える声にも表れていた……
「原初の八柱であろうことはあるのじゃが……八柱という表記は見当たらなかったのう……」
「え……? じゃあ何て? 神代の女神なのは確定なんだろ?」
「じゃろうな……そうであるのは間違いなかろう、じゃが記されておったのは冠の方なのじゃ……」
「冠……? セルピナは闇で、ミツハは水だよな……そのスーワーンってのは何の冠なんだ?」
なんとなく言い澱んでいるイルビスに若干の疑問が頭をよぎる、オレがこの話を言い出さなければイルビスは黙っているつもりであったともいう……彼女のことだから何か深い理由があるのかもしれなかった……だが話してくれている以上は聞いてもよいのであろう、オレは好奇心も併せてイルビスの次の言に身を乗り出して耳を傾けた。
「文献には一言のみ……たしかにこう書かれておった……『時を司る者スーワーン』とのう……」
しばしオレたちの間には沈黙が落ちた……格別な驚愕に襲われている訳ではないのであるが、なんとなくイルビスの言葉に荘厳なものを感じてコメントし辛いのである……ローサはアケビ酒のせいで酔ってトロ~ンとしているだけのようであるが、アリーシアは何て言ってよいのか判らぬ複雑な表情である、その中でオレは記憶を辿るために少々難しい顔になっていた。
「なあイルビス……その『時を司る』ってフレーズ、時間を冠に持つって意味だよな……? それってなんか以前、お前から聴いた気がするんだが……なんだっけ?」
このオレの問いに、やっぱり覚えておったか……という感じでジト目をするイルビスであったが、元からもう話す気になっていたのであろう……若干のシブシブ感を漂わせながらも応え始めた。
「セルピナの工房で話してやったのう……私が長らく追い求め、そして半ば諦めかけていたものの話じゃ……」
そこでオレはハッ! と思い出した。
「あっ! 全知の書院の話だなっ⁉ 思い出したっ!」
イルビスに聞いた当初は古代の図書館であったが、その後森の泉でミツハが全知の書院という正式名称を言っていたので呼称は変わっていた……コクリと頷くイルビスにオレは勢い込んで続ける。
「たしか全知の書院を護ってるのは、時間の冠を持つ女神って説があるとか言ってたよな? そっか~……だから聞き覚えがあったんだなぁ~」
ウンウンとオレも頷きながら思い出せたことにスッキリした気分になる、が、そこでハタと動きが止まった……え? スーワーンってのは全知の書院を護る時の冠を持つ女神……? ってことはまさか……
「な、なぁイルビス……」
「なんじゃ?」
「そうなると全知の書院を護ってる女神が、ミツハに古代竜の追跡をさせたってことになっちまうんじゃ……?」
「そうなるのう」
「え……? じ、じゃああの古代竜って……全知の書院の……か、関係者?」
「関係者ってお前……あの竜が貸し出し担当でもやっておったと思うのかの?」
「い、いやそうじゃないケド……」
オレの狼狽ぶりにフス~っと鼻から溜息をついたイルビスは、しょうがないのう~という感じで渋々説明を始めてくれた。
「セルピナの工房で話した四行詩、覚えておらぬじゃろうから諳んじるぞ」
そう言うと眼前の宙に浮かぶ文字を追うように目を細め、以前聴かせてくれた四行詩を何かの呪文の詠唱のように諳んじる。
「其の地は長き洞窟の最奥にありて彼の地の入口にあり」
「選ぶは眼にあらず取るは手にあらず知は心に流れる」
「資格を得るは難からずただ問いに真名を示し」
「証としての宝珠を得ること永劫に其と共にあるに等し」
涼やかな声が諳んじ終えると、ゆっくり開かれた目の黒紅色の瞳が真っ直ぐにオレへと向けられる……オレが何か気付くのを待っているかのようなその視線に、四行詩の内容とこの二日間の出来事が頭の中でゆっくりと重なっていった……
「其の地は長き洞窟の最奥にありて……ウォルトさんが閉じ込められていて、あの竜の親子が棲んでいたのも洞窟だったな……」
「ふんっ、その通りじゃっ」
オレの答えに対しエラそうに腕を組み満足そうに頷くイルビスである。
「そ、それじゃあの洞窟が全知の書院につながっていたのですか……?」
アリーシアもようやく話が見えてきたのであろう、驚いたわ……という顔で尋ねてきた、それにも鷹揚に頷いて応えたイルビスは再び何か含みのある目つきでオレを見る……古代竜と全知の書院に関係性がありそうだという事実から、だとするとこれからオレがどんな推測をするのか興味がある様子であった、ならばとオレも半分ほど意地になって脳をフル回転させるのである。
「ウォルトさんや竜のいた洞窟が全知の書院へつながっているとすると……あの竜の親子は番犬みたいなものだったのかな……だとしたらとんでもなくスゴイ番犬だな……でも、だからこそそこを護るスーワーンはミツハにこっちへ出て来た竜の追跡を依頼した……放っておいたら竜が暴れ回るのは目に見えてるし、あんなのが暴れればどこから来たんだって話にもなるもんな……洞窟がこっちの人間や女神に見つかって調査されるなんてことになるとマズイってことか……」
「じゃろうのう……境界面が自然と歪んでできる裂け目や穴は、言うなれば突発的なイレギュラーじゃ、全知の書院へはそれとは違う正式な行き方が当然ある、タイチが到達したであろう方法がの……それ以外からの侵入者はもちろん招かれざる客じゃ、ゆえに騒ぎにならぬようにとこちらへ勝手に出て来おった竜の処理を、ミツハが依頼されて来たのじゃろう……」
オレとイルビスの見解がほぼ一致した、場に納得の雰囲気が流れ安心感から空気も穏やかなものへと戻ってくる、だが驚くべき話であった……以前セルピナの工房で古代の図書館と聞いたときには、漠然とした遥か遠くの地のような印象しか持てなかったのであるが、なんと今やソコへと続く洞窟に図らずも足を踏み入れてしまっていたとは……
やはりイルビスの絆の冠の力なのであろうか……望む望まぬに関わらずセルピナやミツハとの邂逅を境に、急速に全知の書院へと引寄せられているような……そんな気がして背筋がザワッと寒くなるのであった……
「よいか……タクヤ? ローサもねえさまも聞いてほしいのじゃが……」
話が一段落して溜息が流れる場に、イルビスが少しトーンを落とした真剣な声で言う。
「この全知の書院の話……おいそれと口外してはならぬぞ?」
「ん……? やっぱ秘密にしなきゃならんもんなのか……?」
のん気に言うオレへ、当然じゃろうっ! というようなイルビスの厳しい目が送られる……まあ、ローサにしてもアリーシアにしてもキョトンとした表情であったので、オレが代表で叱られているようなものであった……
「ミツハが森の泉で言っておったであろうが……タイチがサウル帝国の禁書庫に侵入して知識を持ち去ったと……そしてその後全知の書院へと渡ってきたようじゃと……タイチ自身がオーブを入手しておったのじゃ、それは真実なのであろう……」
「あっ……そ、そうかっ……全知の書院って、その帝国が禁書にまでして護ってるくらいの機密情報だってことか……」
オレからしてみると、その機密情報の方から頼みもしないのにホイホイ寄って来ている感覚なので気が付かなかった……しかし考えてもみれば、このイルビスが明確な存在の証拠すら掴めずに一時は断念したほどの厳重な機密であるのだ……たしかに気安く他人へペラペラと喋ってもよいコトではないであろう……
「口外せぬのは勿論のことなのじゃがな……これは私の杞憂であればよいのじゃが……」
さらに声を落としてイルビスが続ける……えっ? まだあるの……? というオレたちなど気にもしていないほどの真剣な表情であった……思わずオレたちもゴクリと喉を鳴らして前へと身を乗り出す……
「おそらく……いや、絶対にミツハから管理者たるスーワーンへは報告が入っているであろう……私たちがあの古代竜と交戦したということがのう……そうなれば、私たちが全知の書院の存在に気付く可能性があるとみなされても……おかしくはない……」
「ま、まあそりゃ……偶然とはいえ洞窟にも入っちまってるしなぁ……ミツハも黙ってりゃいいのに、ヒントみたいなこと喋ったりするし……んでも、じゃあオレたちが全知の書院の存在に気付いたってのが知られたら、どうなっちまうって言うんだ……?」
ミツハをすら竜追跡の任へと送り込むほどの相手である……オレが多少震え声になってビビるのもいたしかたないであろう……そんなオレへ、もう少し優しくしてくれたっていいだろうに半分あきれ顔のイルビスからは両掌を開いて、さあ……? のポーズが返ってきた……
「な、なんだよっ……他人事みたいにっ……イルビスだって当事者なんだからヤバいだろうにっ」
唇を尖らせて文句を言うオレへ、これにカチンときた様子のイルビスが突然クワッ! とネコが威嚇をするような表情になってまくしたて始めた。
「じゃから言ったであろうっ! 余計な所に気を回しおってとっ! 貴様がいらぬコトを気付いて追及せなんだら私の胸中に秘めておるだけで済んでおったのじゃっ! もし狙われるとしても私一人で済んだものをっ……このアンポンタンめがぁっ!」
ムキーッ! と怒ってプルプルしながら喚くイルビスであった、その剣幕にのけ反り過ぎてオレはドテッとソファーの上に倒れる……だが起き上がりつつ、イルビスがなぜオレがこの一連の話を切り出したときに不機嫌だったのかようやく理解できた……
「そ、それじゃイルビスお前……オレたちをスーワーンから庇うために黙っていたのか……」
この言葉にハッ⁉ と気付き、し、しまった……という顔をするイルビスである……頬もボワっと赤く染まっておりそれを見たオレたち三人は、あ~こりゃ間違いないな……と悟るのであった、しかし当然のことながらイルビスがその指摘を素直に肯定するわけもなく……
「な、な、なにを言うておるっ! きっ、貴様のことなぞどうでもよいわっ! 私が心配しておるのはねえさまとローサたちのことじゃっ! 誰がお前のことなど心配するかっ! 己惚れるでないわっ……!」
ニャニャ~ッ! と喚かれたがこうなるともうこういうのは毎度のことである……ローサもアリーシアも、ハィハィそうねっという感じでニコニコしながら飲み物のグラスへ手を伸ばし始めた、もちろんそれに対しイルビスは非常に面白くない様子である……むぐぐぅ~っ! となっているその顔を覗き込むように見てオレは口を開いた。
「そっか……イルビスはそんなふうに考えてくれてたんだな……オレ、気が利かないことを尋いちまったみたいで……ゴメンな……」
「うぐっ……⁉」
オレに素直に謝られたものだから言葉に詰まって目を白黒させるイルビスである……照れ隠しに毒づくこともできなくなり、かといって黙ったままだと余計に恥ずかしい……目元も頬も真っ赤になっていて、実に女の子らしい反応を見せる齢二千歳を優に超える女神様であった……
「もうっ、ヤバイとか狙われるとか……私、そんなにヒドイことしないんだからっ」
そのとき、不意にオレのすぐ横から澄み切った美しい声が聴こえる……




