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森林公園と餌付けと愛のチョップと



『ハナヤマ森林公園』


 そう書かれて楽しげに飾られた大きな木の看板が掛かるゲートを抜けて入ると、午後の穏やかな日の射す森の広場は、広大な森林の爽やかな緑の匂いがそよ風となって通る大自然の遊園地であった。


 とはいってももちろんジェットコースターなどがあるわけではない、まず、飲み物や軽食、木で作った玩具や虫取り網に虫カゴ、お土産品の木彫やアクセサリー類、そして子爵も言っていた動物たちの餌付け用のエサを揃えた売店が三軒ほど、広場の一角に並んで出店している。


 小さな子供用の簡単なアスレチック道具のある場所も見える、数人の子供たちが切り株を利用した渡木の上を飛び跳ね、太いロープで編まれた網の上の道を進み、滑車ロープにつかまり空中を勢いよく滑って楽しそうに笑っていた。

 年に二度の収穫祭がある時期は結構な人出があると聞いたが、今は時季外れなので全体を見回しても数組の家族連れがいるだけである、しかし混雑している場所が苦手なオレにとってはむしろそのほうが有難いと感じるのであった。


 広場に到着すると女性陣はまず視覚による情報収集に大忙しの様子である、あれなに~? わ~っ、あれ楽しそう~! などと口々に言いながらキョロキョロと周囲を見回している。

 その作業が終了すれば、さあっ! 私たちを楽しませなさいよっ! という期待の目がオレに集中することは分かりきっている、なんだかツアコンの仕事をしている気分になりながらも、マゴついて不当な非難の声を浴びせられるのも癪なので、オレは一人売店へトボトボと向かった。

 愛想のいい店のオバチャンからいろいろ情報を仕入れながら動物のエサを人数分買い込み、女性陣のもとへ戻ると思った通り期待に満ちたワクワク顔がオレを待ちわびていたのである。



「う……うおおぉ……あ、あのシッポを見よ……フワッフワのモッフモフじゃ……」

 木の上にチラッと見えた姿に、ふらふらっと追いかけようとするイルビスをガシッと掴み、追っかけるなと言っただろ~がっ……と、メッと睨む、餌付けの場所は広場から少し森の中に入った一帯であった。


 木々の間に横にした丸太に脚を付けただけの簡単なベンチが点在しており、餌付けを楽しむのはそのベンチに座りながら動物の方が寄ってくるまでジッと待つというのが作法であると教わったのである。

 それぞれにエサの袋を渡し、追っかけ癖のあるイルビスと、何をやらかすか分からないローサは強制的にオレの隣へ座らせる、比較的安心できるアリーシアとサマサは二人でオレたちの近くのベンチに座った。

 皆が座ると早速木の上を小さな影がチョロチョロと動くのが目に入る、エサの袋を開けると慣れた様子のリスが数匹、木の幹をスルスルとつたってその愛くるしい姿を現してきたのである。


 だが動物の本能というものもさすがである、まず真っ先に向かうのはアリーシアとサマサのペアの方であったのだ……

「ふわぁ~っ……か、かわいいですっ!」

「うふふ、さあリスさんたち、どうぞ食べてくださいね」


 オレとローサ、イルビスの三人の方から見るそちら側は別世界であるようだった……アリーシアから愛の女神の波動がキラキラと溢れているかのような錯覚を覚えてしまう、もちろんリスたちは本能で悟っているのであろう、どんどんその数も増えてあっという間に二人の周りは三十匹ほどのリスでモフモフ天国の様相を呈している……

 そしてついにはアリーシアの肩や脚の上に登ってくるリスまで現れた、極めつけは、はいどうぞ、召し上がれ……と差し出すアリーシアの指につままれたエサを、直接その小さな手で受け取るリスまで出てくる始末である……

 ふと横を見ると、イルビスとローサは口を半開きにしたまま赤い顔をしてプルプルしながらそちらを眺めている……アリーシアたちに群がるリスの愛らしさにヤラれながら、同時に自分たちの方には一匹も来ないという無常感にも襲われているのであろう……気持ちはわかる……


「ね、ねえ……なんでこっちには一匹もこないのよ……」

 またふらふらっと立ち上がって行こうとするイルビスをガシッと押さえているオレへ、ローサが納得いかなさそうな声で尋ねてきた。

「あ、ああいう小動物ってさ……こっちが強烈に意識を向けるだけで警戒するものなんだよ……ガン見してるだけでも、攻撃されるかも……って怖がっちゃうのさ……」

「な、なんじゃとっ⁉ 攻撃などするわけないではないかっ! 私はただ……あのモフモフをギュ~ッとしたり、頬をスリスリしたいだけなのじゃっ!」

 オレの説明にグリッと顔をこちらに向けたイルビスが泣きそうな表情で訴えて来る、それがリスにとってどんだけ迷惑行為なのかを理解していないところが、イルビスらしいっちゃらしいと言えるのではあるが……そこへ何かを思い付いた様子のローサが意気込んで口を開いた。

「じゃあ……知らん顔してればいいのねっ? つれない素振りで男を惹きつけるのと同じ感じでやればいいのねっ?」

 つれない素振りはともかく、こいつに男を惹きつけられるのか甚だ疑問ではあるのだが……

「ま、まあ可能な部分で言えば知らん顔は有効かもな……でも、普通にゆったりと構えて、のんびりしてる感じが出てればいいんじゃないか? こっちが大して気にもしていない様子に見えれば、リスも警戒しなくなるだろ……」


 よっしゃ、そうと決まればっ! と、足元にパラパラとエサを撒き、知らん顔作戦が決行された、するとイルビスはツーン! とそっぽを向き、ローサはふんふんふ~んとワザとらしい鼻歌を歌い始める、基本的になんかズレている……

 だがそうしていると木の幹からスルスルと、二匹のリスが降りてきてこちらを窺いだしたではないか……鼻をヒクヒクさせてまだ警戒しているようではあるが、少しづつこちらへ近づいて来ている。


 ピクッと反応し緊張で身体を硬くするイルビスとローサ……あからさまに視線を向けないようにグッと堪えているようではあるが、どうしても意識はそちらへ集中してしまっているのであろう、ローサの鼻歌はいつのまにかフスーフスーという荒い鼻息に変わっていた……

 これじゃまるで獲物が罠にかかるのを固唾を飲んで待つ猟師である……特にイルビスは顔こそオレの方に向けてはいるものの、視線をごまかすために細めた目の奥の瞳はとうとうリスをロックオンし始めたようである、口元もフヘヘ……という笑いの形になっており、顔をこちらへ向けられているオレとしては非常に怖いものがある……

 それでも知らん顔作戦が奏功したようで、とうとう二匹のリスは足元へ撒いたエサを拾いポリポリとかじり出す、追加でパラパラ撒いてやると二匹が三匹、そして四匹五匹とその数も増え始めたのであった。


 ふ……ふおおおぉ……と感激に震える二人、なんせ足元という至近でのモフモフである、オレもこれでなんとかヘソを曲げられずに済むな……と一安心であった、が、しかし……

「ね……ねえ、タクヤ……捕まえてていい……?」

 突然赤い顔をしたローサが辛抱たまらん小声でオレへ言う、やれるもんならやってみろと言いたいとこではあった……もしローサに捕まるリスがいたならそのリスは末代まで笑い者にされるであろう……だが捕まるかどうか以前に、そんなことをやらかせば全て台無しである。


「ばっ、ばか言うな……いいわけないだろうがっ……やめろっ」

 慌てて返すオレにイルビスの声が重なる。

「そうじゃぞローサ、やめよ……」

 おっ? と、思わぬイルビスの声に少し驚くと同時に感心する、リスの可愛らしさにさすがのイルビスも本当の動物愛に目覚めたかと思ったのだ……


「捕まえるなら一網打尽じゃ……待っておれ、今、土の精霊で周りを全て囲ってくれるわ……」

 耳を疑う言葉にイルビスを見たオレはギョッと目を見張る、頬を染めてニヘラッと笑った口元はヒクついており、目などはもう尋常じゃない光を発して明らかに錯乱状態である……

「おっ、おいっ! イルビスしっかりしろっ……捕まえちゃダメなんだって! 怒られるぞっ!」

 肩をユサユサ揺するが、精霊を呼び出すために集中しているのか返事がない……これはマズイぞっ……精霊の力を使って捕獲なんてしたら一体どうなっちまうんだ……大騒ぎになるんじゃないのか……?


 瞬時に意を決したオレは、持ってたエサの袋を口に当てフ~ッと息を吹き込み膨らませた。

「ちょ、ちょっとタクヤ……あんた何する……」

 ローサの慌てた声が終わらぬうちに、オレの掌は膨らませた袋に思いきり打ちつけられた……


 ぱーーーんっ‼



 オレたちの前はおろか、アリーシアたちの周りにいたリスも全て逃げ去り、オレたちだけが残された森のベンチの上で、オレはイルビスに胸倉を掴まれてガクンガクン揺さぶられていた。

「きっ、貴様っ! なんてことしてくれたんじゃっ! 私の……私のモフモフがああぁ……」


 しかし涙目になりながら揺さぶり続けるイルビスに、オレの右手が手刀の形になってスッと上げられる……

 ズビシッ! と振り下ろされるやピィッ! と鳴き、アゥアゥと両手で頭頂を押さえるイルビスにクルッと背を向けローサに向き直ると、ハワアァッ……と恐怖の表情を浮かべるローサの頭頂にも間髪入れずズビシッ! と炸裂する、ローサはピヤァッ! と鳴いた。


「お前ら……やって良いことと悪いことってもんがあるっ」

 ベンチから立ち腰に手を当てて二人を見おろすと、二人とも揃って目に一杯涙を溜めて頭頂を押さえている……下唇の出た半ベソ顔を見るとさすがに反省しているようでもあり、ちょっと可哀想にも思えてきた、そこへアリーシアとサマサもやってくる。


「そうですね、捕まえられたリスはきっと怖くてたまらないと思うでしょうね……でもイルビスもローサさんも反省できたわよね……?」

 アリーシアが間をとりなしてくれた、コクリと頷く二人にやれやれと溜息をつくと、ふと目を向けたサマサが森の奥の方をポ~ッと眺めているのが見える……

「?」となりながらも、アリーシアとサマサにリスを追い払ってしまったことを詫びようとしたとき、サマサがポツリとつぶやくように言った。


「ペンギンがいる……」



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