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忍者と試験と助っ人と



 黒い雲が蒼月を隠していく、それまで青白い光にぼうっと浮かび上がっていた街並みが、巨大な刷毛で闇を塗られたように見えなくなっていった。


 静まり返った真夜中の雑木林を、まるで落ちた闇が動き出したかのような黒い影が走り抜けていく、僅かに動く空気と走り抜けた後に微かに動く落ち葉が、かろうじて影が本物の影ではなく実体のある何者かだということを証明している。

 ほとんど音を立てずに闇を駆け抜ける影は、やはり只者ではあるまい、その身のこなしも常人であれば数歩も動けば木にぶつかっているであろう闇の中を、まるで昼間の往来を駆けるが如く野生動物のようなしなやかさで木々の間を縫っていく。


 やがて周囲の木々がだんだんまばらになってきた、そして雑木林を抜けようとする直前、不意に影はピタリと足を止める。

 影の前方に建物のシルエットが浮かび上がっていた、民家ではない、窓の位置などから見ると二階建てではあるが、屋根の高さを考慮すると屋根裏部屋もありそうな造りのペンション風の大きな建物である。

 しかし影が足を止めたのはその建物を確認したからではなかった……

 そのとき雲に隠れていた月が現れ始めてくる、地上を塗っていた闇が再び青白い光に剥がされていき、そして立ち止まったまま動かぬ影の前方に照らす蒼光で浮かび上がったのは……立木の脇に立つロングワンピース姿の細身の女性であった。


「ほう……よく察知できたものだ……」

 影がくぐもった声で言う、月の蒼光は影の姿も浮かび上がらせ、それが全身黒ずくめの装束であり、頭部も目の部分だけを出して頭には頭巾、鼻から口回りは黒い布で巻かれているという、物質界の者が見れば一瞬で『忍者』の二文字が出てくる様相であるのが見てとれた。

「それだけ殺気を放って向かって来られれば、寝ていても気が付きます、あまり見くびらないでください」

 それまで粛然と立っていた女性が静かに、しかし凛と言い放つ、青白く照らされた世界で若草色のロングワンピースのスカートが微かに揺れた、通る風ですら二人の間の緊張感に怯えているようである、昼間と変わらぬ家政婦のきちんとした姿……赤い髪を後ろで一つのお団子にまとめ、背筋を伸ばして真っ直ぐ立つその女性はもちろんサマサであった。


「なるほど……ならば多くを語る必要もあるまい、覚悟は出来ていような?」

 忍者はスッと腰を落とし斜に構えて戦闘の体勢をとった、武術の達人が見ていればその無駄のない流れるような動きにムムッ……と瞠目したことであろう。

対するサマサも身体を斜めに忍者へ向け、体重を爪先にかけて応戦の構えをとる、華奢で小柄な彼女である、忍者も細身の身体とはいえ大人の男である以上は格闘戦において圧倒的なウェイト差というハンデがあった。

 一見してサマサに不利なこの対峙も、しかし彼女は己の小柄さを最大限に利用した速さと、その速度を乗せたしなやかな身体より繰り出される蹴り技で対抗しようとしている、実際に彼女の蹴りの破壊力は大の大人をも吹き飛ばす威力を秘めていた。


 じりっじりっ……と間が詰まり、張り詰めた緊張感が両者の間に満ちていく、先手を取ったのはやはりリーチで有利な忍者の方であった。

 フワッと黒装束が浮き上がったかに見えた次の瞬間、斜め上から浴びせるような蹴りがサマサを襲う、間一髪斜め後ろへ身を逸らしたサマサの肩口を掠めて忍者の足先が空を切った。

 が、さらに次の瞬間には蹴り下ろした足を軸に、忍者のもう一方の脚がサマサの足首を狙って地面スレスレを切り裂くように薙ぎ払ってくる。

 これも後方への跳躍でかろうじて躱すサマサであったが、さすがにその表情は焦りの色が浮かんでいた、それもそうであろう、忍者の速度が予想以上なのである、速さを武器とするサマサが忍者に、その速さでも同等かそれ以上の動きを見せられたのであった、己の武器を封じられたような焦りを感じているに違いない。


 忍者の素早い連撃は続く、足払いで屈めた軸脚を前方への跳躍につなげて跳び下がるサマサとの距離を一気に詰めてきた、着地したばかりの不十分な体勢のサマサの目前へ急激に迫った忍者から、四本の指先を伸ばした四本貫手が次々と突き出される。

 容赦ない攻撃であった、狙ってくる場所も目や喉、鳩尾など急所を的確に突いてくる、必死に避けるサマサであるが忍者の鍛え抜かれた指先が掠めたのであろう、頬から血がつう……と流れ落ちてきていた。

 なんとか蹴りを繰り出せる体勢に持ち直したとき、忍者は深追いするのを止めてスッ……と間合いを取る、どんなに優勢でも油断はしない狡猾さを感じ、サマサの額から汗が一筋流れ落ちる。


「よくぞ躱した……が、これはどうかな?」

 忍者の鋭利な刃物のような殺気がサマサにぶつかってくる、同時にシュッと懐に滑り込んだ手が霞むような速さで振られた瞬間、月光を煌かせて銀閃がサマサへと飛来した。

 カカッ! と上体をのけ反らせたサマサの背後の木に突き立ったのは、銀色に光る鋭い二本の針であった、かろうじて避けはしたものの、あまりに際どいタイミングにサマサも恐怖を覚えたのであろう、途端に呼吸が乱れハアハアと肩で息をするようになってしまう。

 忍者の手は再び懐に入り、サマサに間合いを詰めさせることを許さない、サマサは狙いをつけにくくするために左右へ身体を揺らすくらいしかできない状況に追い込まれた。


「まだまだ行くぞ……」

 忍者の不吉な声に続き銀閃が襲う、投擲の腕の振りから飛来するコースを読んで瞬時に身をひねるサマサは、一瞬前に居た空間を貫く銀光に背筋が凍りつくのを覚えながらも、腕の振りとタイミングを読むべく全神経を集中させる。

 針の飛来コースはもちろん直線である、投擲間隔を把握すれば避けた上で間合いを詰めて反撃も可能ではないかとサマサは考えた、三度、四度と躱すうちに飛んでくる銀光にも目が慣れてくる、よしっここだっ! と間合いを詰めようとした瞬間であった。


 ガスッ! とサマサの脇腹に硬い物がめり込む感覚。

「ぐ……うぅっ……」

 脇腹を押さえてよろめくサマサから、ボトリと地面に丸い物が転がる、見るとそれは直径三センチほどの黒く塗られた鉄球であった……

「目が良いのが災いしたな、影礫……お前のようなやつはよく引っ掛かる」

 不覚であった、銀色の針に目が慣れてなまじ銀光を追ってしまったがゆえに、黒く塗られた鉄球が視野に入らなかった……この目的のための銀の針であったのか……と、己の甘さに脇腹の痛み以上の悔しさでサマサの顔が歪む。

「すぐには動けまい、今、引導を渡してやろう……」

 忍者がサマサへと向かって歩を進めてくる、忍者の言う通りすぐには動けそうもなかった、逃げて時間稼ぎすることすらままならず、ここまでか……と観念しそうになったそのときである……


「うっ……⁉」

 忍者のうろたえた声が聞こえた。

 見るとサマサへ向かう途中の木の枝、忍者の顔のすぐ前に一羽のふくろうが止まっている……忍者はその位置に来るまで気付けなかったので驚いたようであった。

「な、なんだ……ふくろうか……うおっ⁉」

 再び驚く声が上がり、見ると今度は忍者のすぐ横に燃える炎が人の形をとった精霊がふよふよと浮いていた。

「ひ、火……の……精霊……?」

 あまりの突然のことにさすがの忍者も呆然としている、サマサも脇腹を押さえながら目を丸くして言葉も出てこない様子である、闖入者は言うまでもなくカノポスとファイであった。


 バシィッ‼

 なんの前触れもなく忍者の身体が動かなくなった、ぐあっ! という呻きと共にその場に棒立ちになる、もちろんカノポスの影縛りである、呻き声が出るということは喋れる程度には手加減してもらえているようであった。

 ふぁさっと羽を広げたカノポスが木の枝から忍者の頭頂へ飛び移るや、可愛い見た目とは裏腹の猛禽特有の鋭い爪をがっしと頭皮に食い込ませた。

「あっ! あ痛だだだだっ!」

 頭巾越しにでも簡単に突き刺さってくる鋭い爪に忍者もたまらず声が出る、するとそればかりか今度はぐいっと前に乗りだしたカノポスは、覆う布をものともせずに上から忍者の鼻の穴にその湾曲した嘴を引っ掛けて挟んだかと思いきや、力いっぱい上に引き上げつつ首を捻って捩じり上げ始めたではないか。

「ぎいやあああぁっ! 痛だだあっ‼」

 そりゃ痛いであろう、ふくろうの嘴は獲物を引きちぎるのに特化した造りである……忍者もたまらず悲鳴を上げている、が、しかしそれだけでは終わらなかった……


 つい~と忍者の背後に回ったファイが前方へひょいと右腕を伸ばすと、その指先から大豆ほどの大きさの小さな火球が生まれ、ぴゅ~と飛んで無防備な忍者の尻に命中する、すると当たるやいなや火球は忍者の尻で、パンッ‼ と、あたかもかんしゃく玉のように勢いよく破裂したではないか。

「〇×△#ッ&⁉」

 目を剥き声にならない声で叫ぶ忍者、破裂したときにボウッと小さな炎も上がっていたので衝撃と共に熱のダメージもありそうである。


 ギリギリ~ッグイグイッ! と鼻を捻り上げるカノポス、ポッポッポポッと火球を連発で繰り出し、パンッパンッパパンッ‼ と尻で破裂させるファイ、忍者はもちろん影縛りで微動だにできず情けない悲鳴を上げている、傍目から見るとなんとも陰惨なイジメのようであった。

 だがそこは、ウチのサマサになにしてくれとんのじゃこの野郎! と、言葉で聞こえるわけではないが明らかに二人の精霊の怒りのオーラが言っているのであった、いきなり影渡りで遥か上空に放り出されたり、身体の真ん中に大穴を開ける火球をぶち込まれなかっただけマシだったと言うしかないようである……


「ぎいやぁ~っ‼ 痛っ! 熱っ! 痛だだあっ! 熱うっ! ひいぃ~っ‼」

 鼻をギリギリ~ッ尻でパンパンッと続く悲惨な状態で叫ぶ忍者を、言葉も無く呆然と見ていたサマサがやっと我に返った様子でハッ! と気付くと……

「ス、ストップですっ! ファイさんっカノポスさんスト~ップッ!」

 止めるサマサに、んん~っ? と顔を向けるファイとカノポスである、サマサは両手を前に出して大慌てで止める仕草をしていた。

「そ、その人は試験官なんですっ!」

 へ? と首を前に出す二人の精霊。

「私の家政婦一級昇格試験の……護衛格闘技能部門の……試験官なんです……」

 頬を真っ赤にしながらプルプルしつつサマサは訴える、忍者の背後ではファイが、頭の上ではカノポスが、あ……そ、そういうことだったの……? と、サマサを見つめていた。


 ズルズルっと地面に崩れ落ちる忍者はぴくぴくしながら地面に伏した、装束に穴が開き丸出しになった尻からはうっすらと煙が立ち昇っている、影縛りは解かれてカノポスとファイは少し離れた立木の枝の上から様子を窺っていた。

「だ、大丈夫……ですか……?」

 さすがに哀れな状態の忍者に心配顔のサマサが尋ねる、が、しかしそこは忍者もプロフェッショナルなのであろう、地面に手を突くとググッと上体を起こしてブルブル震えながらもなんとか立ち上がった。

「くっ……なんという恐ろしい攻撃だ……それにしても仕える家の家人が見かねて助けに入ってきたという話はいくつか聞いたことがあるが……精霊とふくろうの助っ人など、長いこと試験官をやっておるが一度も聞いたことが無いぞ……」

 あ、あはは……と、困った笑いを浮かべるサマサに忍者は続ける。

「よいのだ……それだけお仕えする家の方々に可愛がられている証左よ、よい主に仕えておるようだな……」

 そう言われたサマサは途端に嬉しそうな顔になり大きく頷いた。

「……はいっ!」

 忍者も頷き言う。

「私もこの有様だ、この試験……次の一撃で決めるぞ」


 瞬間的にピンッと緊張の糸が張る、ススッと間合いを取って下がる忍者が静かな闘気を発しながらサマサへ告げる。

「私をお前の主とその家族を害しにきた暗殺者だと思えっ! お前の負けはすなわち主の死! この一撃で全てが決まるっ! お前に私を倒すことができるかっ⁉」

 その言葉を聞いた途端であった……いつもにこやかな笑顔を絶やさないサマサが、今まで見せたことのない殺気を放つ険しい表情になる。

「そのようなこと……絶対にさせません……必ずあなたを倒しますっ!」

 サマサの殺気に呼応するように風が渡り雑木林がざわめく、二人の間を闘気と殺気がつなぎ、対峙しているだけの今もすでに真剣勝負が行われているのが見守る二人の精霊にもビリビリと伝わっているようである。


「よい殺気だ……お前の覚悟、見せてみよっ!」

 忍者の言葉が終わると同時であった、闇色の影と若草色の影が目にも止まらぬ速さで互いへ向けて飛び出す、ぶつかると思うほどの至近で対峙したそれは刹那の攻防であった。

 人差し指と中指だけを伸ばした忍者の二本貫手が、疾風のごとくの速さで眼前のサマサに突き出される、達人であれば分厚い木の板をも貫くという必殺の貫手はサマサの細い喉を狙っていた。

 貫いたっ……と見えた瞬間である、そこにいたサマサの姿がフッと掻き消えた。

 忍者の目が大きく開かれる、ハッ! と気配を感じ真下を見たそこにサマサの姿があった。

 最大の武器であった速さで勝てぬサマサに残された唯一最後の武器、多くの武術者が苦手とする、サマサの小柄さを生かした地を這うような低い位置からの攻撃である。

 忍者の貫手を上体を振り子のように横へ倒しつつ身を沈めて避け、忍者の足元へ蹲るかのような低い姿勢になってそのまま地面へ手を当てる、同時に上体を倒した勢いを腰を中心にした下半身に伝え、脚を振り上げる力に変換していく。

 まるでカポエラのコンパス蹴りという技の応用のようであった、実際は脚を伸ばしたまま薙ぐように蹴るのであるが、サマサは屈めたままの脚を忍者へ向け、そして天を貫く鋭い槍のように突き上げた。

 貫手を突き出し重心が前へ動いている忍者にこの攻撃を避けるすべはなく、閃光のように突き上げるサマサの蹴りがズドオッ‼ と音をたてて忍者の鳩尾の辺りへめりこんだ。

 強烈なカウンターをくらった形になった忍者の身体は十数センチほども浮き上がり、そのまま斜め後ろの立木にドオッとぶつかる。

 これが刹那の間に起こったのだ、まさしく死闘であった。


 雑木林に静寂が落ちる……枝の上のファイとカノポスも固唾を飲んで見守っているようである、シーンと静まり返って全てが終わったかと思われたそのとき、ハアハアと肩で息をするサマサに押し殺したような忍者の低い声が届いた。

「見事だ……迷いのない動き、お前の主を護らんとする使命感……しかと見せてもらったぞ」

 ハッとするサマサ、見ると忍者は鳩尾に貫手とは反対の手を当てている、寄りかかった木からスッと立つ忍者はサマサの渾身の蹴りを手でガードしていたようであった。

 ガクガクする脚に力を込めてサマサは再び戦闘態勢をとろうと構える、が、しかしそんなサマサを忍者は制し先程までとは打って変わって優しい口調で語りかけてきた。

「いや、案ずるな、しっかりダメージは受けておるぞ、素晴らしい蹴りであった……もともと最後の一撃と言っておったであろう、お前は見事に己の使命を果たしたと評価する」

「そ、それじゃあ……私……」

 サマサが震える唇で忍者に問うた。

「ああ、合格だ、家政婦一級の証、胸を張って受け取りたまえ」

 そう言うと忍者はサマサの前へ進み出て、懐から細いチェーンの小さなネックレスを取り出しサマサの首にかけた。

 サマサが震える手に取って見つめるそのネックレスは、チェーンに小さな紋章飾りが通されている、紋章には一級を示す銀の一つ星が記されていた……

「あ……ありがとう……ございます……」

 ネックレスを胸にキュッと抱きしめ、頭を下げるサマサの目からはポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちている、枝の上では明るく燃え上がるファイが両腕を上げてバンザイをし、カノポスは羽を大きく広げてこれもバンザイしているようであった……

 そんなサマサと精霊たちを忍者の覆面から見える目は嬉しそうに、そして優しく見つめている……


「以上で今回の家政婦一級昇格試験を終了する!」

 忍者が重々しく宣言し、くるっと後ろを振り返る。

「ではな、精進しろよっ!」

 楽しげな声でそう告げて歩き出すその後ろ姿は、装束の尻の部分に大穴が開いて引き締まった尻がプリンと丸見えであった……

 ああ……となるサマサと精霊二人が見送っていると、雑木林の木の影へ歩んで行った忍者の姿が影に溶け込むようにスウッと消えていった。

 ハッ! と驚くサマサ、完全に目で追うことすらできなかった……驚愕の表情で立ち尽くすサマサに、雑木林に響く忍者の声がどこからともなく聞こえてくる。

「はっはっはっ、さらばだっ!」

 もう気配すら感じ取れない……愕然と立つサマサがしばらく後、やっと独りごちるように呟く。

「完全に……手加減されていたみたいですね……やられちゃいました……」

 それでもすぐに夜空を見上げる顔は晴れやかに微笑んでいた。

「よ~しっ、がんばるぞ~っ!」

 両腕を天高く突き上げて、小さな家政婦は空へと決意を放つ、枝の上の精霊たちがその姿を楽しそうに見つめているのであった。


「おふぁよ~」

 大きな欠伸をしながらリビングへ出てきたオレをいつもの明るい笑顔が迎える。

「タクヤ様おはようございますっ」

 二階から階段をパタパタと、アリーシアとイルビスも起きてきたようであった。

「アリーシアさま、イルビスさん、おはようございますっ」

「おはよう~、なんじゃ、ローサはまだ寝ておるのか?」

「ん~、今日は騎士団の訓練は無いって言ってたからな~、それにお前ら結構遅くまでトランプやってただろ、むしろよく起きれたな……」

「なんじゃ、あれしきで情けないのう」

「おはようございます、うふふ、昨日のローサさんの二十連敗はすごかったですね」


 そんなことを話しながらソファーに座るオレたちの前へ、サマサがモーニングティーを運んできてくれる、柑橘系の香りのするそれだけでパッチリと目の覚めるような爽やかなお茶であった。

「あれ? サマサ、その頬の絆創膏どうしたんだ? 怪我したのか?」

 見ると白い絆創膏を頬に貼っている、だがサマサは全然気にしてない様子でにこやかに答えた。

「いえ、ちょっと引っ掛けちゃっただけですっ、えへっ」

 そう言うとトレイを持って楽しそうにキッチンへと戻っていった、大したことはなさそうなので安心したが、見るとキッチン横の食卓テーブルの上にカノポスとファイまでいるではないか……

「なんだ……あいつら何やってるんだ……?」

 キッチンテーブルの椅子に座り、ファイとカノポスに向かいあってニコニコしているサマサ、いつの間にあいつらあんな仲良くなったんだろ……と、不思議に思いながら見るオレと、同じく「?」という顔をしてアリーシアとイルビスもそちらを眺めている。

「うぼぁ~、おはお~」

 ボサボサ頭のローサも起きてきた、のたのたと歩いてきてドッスンとソファーに着地する。

「ローサさんおはようございますっ、今お茶をお持ちしますねっ」

 すぐにパタパタと忙し気に動き回るサマサである。


 いつも通りの朝、いつも通りの日課、眩しい朝日の入る我が家のキッチンで、昨夜から新しくかけられたネックレスがサマサの胸元でキラリと光っていた……



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