ふくろうと日焼けと水着の謎と
「すっかり御馳走になっちゃったわねー、あなた達もまた遊びにいらっしゃいな」
キラさんが帰ってしばらく後、夜もだいぶ更けた頃、前庭でセルピナがオレたちに向かって言う。
泊まって行けばいいのに……と皆も言ったのだが、受注した薬の納期が迫っているとのことで帰らざるを得ないようであった。
「ああ、もちろん、また皆で遊びに行くよ」
見送るオレたち一同は微笑みながら頷いた、傍らではイルビスが次元の裂け目を作り終えて待っている。
「あ、そうそう、ねえタクヤ、渡したいモノがあるからちょっと一緒に来てくれる? イルビス、裂け目をつないだままちょっと待っててね」
手招きしながら次元の裂け目へさっさと歩いていくセルピナに、言われたオレは慌てて付いていく、一同が「?」となって見守る中次元の裂け目をくぐってオレたち二人は前庭から消えた。
さほど間もなく一人戻ったオレを見て一同は、あら~! と目を見張った、イルビスに至っては、ふああぁ~っ! と頬を紅潮させている、さもあらん、皆が見つめるオレの頭頂にはふわっふわの羽毛のふくろうが、まだ慣れぬパイルダーオンにちょっと緊張気味になりながらもちょこんと乗っかっていたのである。
「カノポス~ッ!」
皆の揃った声がふくろうの名を呼ぶと、呼ばれたカノポスはペコリとこれもふわふわの頭を下げて挨拶した、その仕草にイルビスがぐはあっとなっている。
リビングへ戻り、オレが説明する内容はこうだった、超大雑把なセルピナの説明をかなり脳内補足したものである。
カノポスは今まで、まだ稼働中であった弓猿の残りから影の精霊を解放する作業を行っていたらしい、封印式を解いて精霊を解放し残された猿の屍を埋葬するという、聞くだに大変な作業を一人で黙々と行っていたという。
へぇ~、えらいわねえ~、という皆の目にカノポスは少々恥ずかしそうに斜め下へ首をキュッとひねっている。
そして昨日の夜にセルピナへ申し出ていたようであった、オレに付いて行きたいと……その理由についてはセルピナは詳しくは語らなかった、ただ、すごく嬉しそうな顔をしていただけである……
「じゃあ今日からカノポスはウチの子になるのじゃなっ!」
「まあっ、ようこそカノポス、よろしくね」
「すごいですっ!家族が一人増えましたねっ」
「ほんとそうねえ~、カノポスよろしくね~」
オレの説明が終わると皆が口々に言いながらカノポスへ寄ってくる、がしかし、歓迎の挨拶はいいのであるが、肝心のカノポスはソファーに浅く腰掛けているオレの頭の上にいるのである、皆がカノポスを囲むということはオレを囲むということになり、カノポスのフワフワの羽毛に触れようと夢中になるということはつまり……
もはや可愛いフクロウの台座と化しているオレの眼前には、オレのことなんか眼中に無くなっている女性陣の、ちょうど胸の辺りがこれでもかといわんばかりに突きつけられていた、イルビスとサマサの胸は顔スレスレを掠めて行っただけだが、ローサとアリーシアのはムニュン、ポヨンとぶつかってくる。
ようやく皆が離れた後、オレはちょっと赤くなっている幸せそうな笑顔で心から歓迎の意を表した。
「カノポス、ほんとによく来てくれたな、これからよろしく」
その後はお風呂タイムとなる、海で遊んだものだから正直体はベトベトである、女性陣などは未だに服の中は水着であった、一応この家の家長ということで普段から一番風呂に入る習慣ゆえにオレが最初に入ることになるが、そこはやはり気が急いて十分ほどでさっさと上がり次へとバトンタッチした。
皆よっぽど我慢していたのであろう、我が家の風呂は元ペンションということもあり結構広い造りとなっている、なんとか四~五人ならば入れる広さなのでオレが上がるやいなや、なんと女性陣全員がまとめて入っていった。
どうにも海水浴で水着になったということで連帯感が強まった印象である、風呂の方からキャッキャと聞こえてくる声を聴きつつソファーでぐったりとするオレを、窓枠にちょこんととまるカノポスが、お疲れさん……という顔で眺めているのであった。
「ねえねえ、タクヤ、見てよ、結構日焼けしたと思わない~?」
ローサである、白いタオル地のバスローブの胸元を手で広げてニヤつきながら見せている、うっ……となるオレの反応を明らかに楽しんでいるようであった。
他の皆もお揃いのバスローブでくつろいでおり、ローサのこの言葉をきっかけにそれぞれが腕やら脚を見せてくる。
こいつら、なんでこんなに元気なんだ……と、タジタジになりながら。
「そ、そうね……日射し強かったもんなあ……」
と、出されたローサの胸元やアリーシアの腕、イルビスの脚やサマサの肩を泳ぐ目でチラチラ見ながら赤くなっていると、ふと疑問が湧いてきて尋ねてみる。
「女神もやっぱ日焼けするのか?」
素朴な疑問にキョトンとするアリーシアとイルビスであるが、そう言われてみれば……という顔でイルビスが応える。
「今まで日焼けを意識したことなどなかったからのう……じゃが実際少し焼けたところを見ると、人の身体と変わらず日焼けするようではあるの……しかしお前、変なとこに気が付くものじゃな……」
焼けたというよりは赤っぽくなっているように見えるイルビスであった、アリーシアもそうであるが抜けるように白い肌が日に焼けたことにより、なんとなく健康的な色気が滲み出ている、逆にローサは騎士団の訓練を当然屋外でもやっているだろうに、なぜ今まで日に焼けていなかったのか甚だ疑問ではあった、がしかし言うのは自重したのである。
「はーい、みなさん、日焼け後のお肌に良いアセロラティーをどうぞっ」
サマサが運んできてくれた冷たく甘酸っぱいアセロラティーが湯上りの身体に染み渡る、くぅ~っという感じである、ニコニコ顔のサマサの前で全員がソファーに脱力して幸せそうな表情であった。
「そうだローサ……」
ずっと疑問に思っていたのであった、話しかけるオレに脱力して一気にダルくなった様子のローサが、んあ~? という感じでユルい顔をこちらへ向ける、水着姿でキリッとしたお姉さんはどこ行った……と思いながらオレは言葉を続けた。
「皆の水着だよ、あれ一体どうやって手に入れたんだ? いくらなんでもまだ広く販売してるとは思えないんだが……」
そうである、ラフ画を残してきただけのものが商品化されるのには、どんなに急いでもまだまだ期間的に足りないのであった、ましてや水着のように素材の選定や染色に手間のかかるものである、現在であればせいぜい試作品が何点かできる程度であろう……
「むっふっふ……」
尋ねられたローサの不気味な笑いにちょっと引きながらも、黙って答えを待っていると……
「ねえタクヤ、ハナノ村の製品の王都での取り扱い窓口って知ってる?」
意外な質問に驚きながらも、オレは必死で記憶をたぐる。
「そういや……バザルさんが知り合いの雑貨商と契約してくれてたな……そこで注文を受けてくれるから王都での受注が楽だったんだが……でもそれがどうかしたのか?」
「その雑貨商ね、私のお父様の経営してる商人連合の傘下だったのよ」
あっ⁉ と驚き固まるオレを皆がニコニコしながら見つめている、脳裏には以前ローサが自分の家のことを話してくれたときの、父親が商売の上手な人だという言葉が蘇ってきていた、そんなオレにローサは続ける。
「その雑貨商からね、お父様にタクヤブランドの報告が上がってて、かなり注目されてたみたいなのね……んで、偶然少し前に陛下が私の実家においでになったとき、その話題になったみたいなんだけど……」
「ま、まさか……じゃあ陛下から……?」
「う、うん……陛下が……そのタクヤ君ならローサ君の恋人だよ、って……」
赤くなってモジモジしながらローサは言う、オレの方はといえば、うわああぁ~っ! となって顎をカクカクしてる状態であった、水面下でそんなに拡散していたのおおぉ~っ⁉ という感じである。
「そしてタクヤが今度、子爵位を受ける話をされたみたいで……そしたらお父様どころかお義母様まで喜んじゃったみたいなのよ……そりゃあ商売上の打算的な意味もあるんだろうけどね、でもそのことを聞いたとき私……もう嬉しくて嬉しくて……」
「ローサ……」
そうである、実母を亡くし父親の愛人の娘としてランカスター家に入ったローサは、ずっと義母に受け入れられることがなかった……なんとか気に入られようと努力もしたようだが、結局居場所が無く陛下に救われて騎士団に入ったという経緯であった、その義母が喜んでくれたということが、ローサにとってどれほど嬉しいことか……オレなどには想像もつかぬほどであろう……
頬を紅潮させたローサが、えへっ……と笑う、しかし目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「でねでね、こっからが水着の話なんだけども」
間髪入れずに嬉しそうに話し出すローサであった、彼女のこの明るさにはオレのみならず周りの皆も優しい笑顔になってしまう、日頃はたまにアホっぽいなどと考えちゃっていたことを内心申し訳なく思いながら、頷いて聞き入った。
「ハナノ村の販売代理人さん……バザルさんだっけ? が、この前、試作品だけどどうでしょう? ってその雑貨商のとこへ持ち込んできたのがあの水着だったの、その雑貨商から女性用の服飾専門店へ置いた方がいいんじゃ? ってお父様のところに回ってきた話を、そのときの陛下が聞いちゃってね……」
「ま、また陛下なのか……」
まったくあの陛下ときたら……なんだかあの人の手の上で踊らされてる気分になってきたぞ……
「ちょうどいいモニターがいますよ、っていうことで私たちへ話がきたのよね~」
ね~、と話を聞いているアリーシアたちに笑顔で振ると、皆も嬉しそうに頷く。
「また陛下も気を利かせてくれて、タクヤに内緒だねって……図らってもらっちゃった……思い当たることはない?」
「ん? 思い当たる……? んん……? ……ああっ! そういや精霊学部からの呼び出しが一回あったな……」
「あた~り~! えへへ~、陛下がタクヤを呼び出してその隙に私たちに届けてくださったのよ」
「どうりで……どうでもいいような書類に目を通してサインするだけで呼び出すなんて、なんか変だな~と思ってたら……そういうことだったのかー」
「そりゃあ水着を選ぶんだもの、気に入ったデザインを選んでサイズ合わせの試着して……なんてやってたら、タクヤがいたらすぐバレちゃうものね~」
「そ、それにしても海に行くことを知ってた訳じゃあるまいに……なんてタイミングだ……」
「あー、それね、実はもうちょっと先の予定だったんだけど、王城のプールを貸し切りで使っていいって話だったのよ」
「な、なるほど……そういうことだったのか……」
全部つながって理解した、すっかり陛下の思惑に乗せられてしまっていたようであった、悪い気はもちろんしないがガックリと力の抜ける思いである。
「まったく……陛下にはかなわないなあ……」
にへへ~と笑うローサと、今回のサプライズの大成功に満足そうにニコニコする女性陣に囲まれてソファーにグッタリと背を預ける、窓枠のカノポスだけが、あんた結構大変なんだな……と同情的な目でオレを見てくれているようであった……
「そういやローサ、お前、陛下からなんか手紙もらってただろ? ありゃなんだったんだ?」
キラさんが陛下からだと言ってローサへ渡してたやつである、こうなってくるとなんでもかんでも怪しく思えてくるのであった、案の定ローサの目が泳ぎ出す、これは本当に怪しい……まさかまだ何か企んでいるんじゃ……
「あ、あれは……全然関係ないわよ? 私用で……そ、そう、実家のことでちょっとね……」
ジトーっと見つめるオレの視線にアワアワしながらそう言っている、更に見つめ続けるとより一層慌て始めた。
「ほ、本当よ? タクヤには全然関係ないんだからっ……」
その様子に、これは追及せねばと思い口を開いたときであった。
「おい、女への手紙の内容を訊くなぞ野暮な真似をするでない、関係ないと言っておるではないか」
イルビスであった、腕を組んでジロッとオレを睨んでいる、そこへまた。
「そうですよタクヤさん、キラさんも私用の手紙だと言ってたじゃないですか」
アリーシアに言われて、ぐうっとなるオレへ更に……
「タクヤ様……そんなことなさるのはヤラシイです……」
サマサまでっ……あっという間に四対一になり今度はオレがアワアワになるのであった……やはり連帯感強まってるなこりゃ……




