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報酬と感謝と次作品と



 波に乗るっていうのは、こういうことなんだろうな。

 量産体制の段取りは、勝手をよく知るキャメルさんとウッディーさんが仕切ると言ってくれた。

 ある程度まとまった数ができたら、王都へ行商に行くという。


 オレの最後の挨拶に大きな拍手で幕を閉じた、試作ブーツお披露目会場のハナノ村中央広場を後に、これからの戦略を練るべくキャメルさんの皮加工店へ移動してきた。

 オレとキャメルさんウッディーさんの三人、あと、モデルを引き受けてくれたコロナさんも一緒である。

 モデルをしてくれたお礼は奮発してあげてほしい、と言うと当然オッケーがでる、あれだけ盛り上げてくれた功労者だもんな。


「あ、あのっ!」

 コロナさんである、意を決して何かを言おうとしてるような感じに、オレ達三人が、ん? とそっちを向くと。

「お、お金はいりません……」

 と、もじもじしながら言う、とてもさっき観衆にポーズをとりながら、チュッってやってたおねえさんと、同一人物には見えない。


「できれば……これを……」

 そう言いながらサンダルに履き替えたあと、ずっと手に持っていた試作ブーツを胸の前でギュッと抱きしめると、豊かな胸がブーツ越しに圧をかけられ、行き場を失くして困っていらっしゃる。

「お金の代わりに、これが欲しいです!」


 モノづくりを生業としてる人達は、自分の手がけたものを気に入ってもらえたとき、こんな気持ちになるんだな。

 そんなに気に入ってくれたんだ……目頭が熱くなる、目が潤んでくるのもそのままに横を見ると、そうだぜボウズ、これが職人の本懐さ! と、眼で語り口元をニッとさせた二人の職人の顔があった。

 駆け出しもいいところの口でしか参加してないオレが、こんなに感動しちゃうんだから、生粋の職人にとってはホント最高なんだろうな。


 二人の顔からも否定要素は伺えないので。

「ああ、いいぜ、大事にしてくれよ」

 心の中で、ありがとう……と思いながらコロナさんに言う。

「きゃー‼」

 嬉しいんだなあ、ブーツをさらにギュ~ッと抱きしめて、その場でピョンピョン飛び跳ねる彼女……


 ハハハ、おいおい、ミニでそんなに跳ねると見えちゃうぞ。

 見えちゃうって。

 あ……見え……

 うん……ホントにありがとう……

 横を見ると別の意味で口元をニッとさせた、ちょっと赤くなった二人の職人の顔があった。


 翌日からプロジェクトは加速する、プロジェクト名は適当だったため忘れた、潤いなんとかだっけ……?

 村の集会所を借りて人を雇い、ブーツのパーツごとの製造ラインを作った。

 こういう特需的なものは、初めてではないらしく、職人側もパートさん側も手際よくことを進めていく。


 オレはというと……

 ブーツだけで終わらせるなんて、とんでもない、次だ次、次いってみよー! ということで、選んだのが『革コート』である。


 この世界で革製衣類を身に着けるのは、主に悪天候時の雨や風よけのためで、生活の中で常用されるような衣服はあまりないそうだ。

 一部例外で、猟師さんたちが獲物の毛皮でベストをつくるってのはあるらしい。


 どうにも元の世界でどっぷり浸かっていた、ファンタジー系MMORPGの様式が脳に焼き付いてしまっているようで、冒険者の軽装備に革のコートっていうのがオレにとっての憧れのファッションになってしまっている。

 なのでこの『革コート』作成ってのは、少なからず個人的な便乗の要素もある、それは否定しない。


 だが当然、勝算がないわけがない。

 風呂敷の真ん中に穴を開けただけに見えるポンチョ風のものや、着ると呪われたてるてる坊主にしか見えない、子供が見ると泣き出しそうな雨具しか知らない人々が、シンプルだがスタイリッシュな革コートを与えられるとどう感じるであろうか。

 試作ブーツのお披露目でつかんだ実感は、間違いではないはずだ。


 というわけで、今日はラフ画描きを頑張ることにする、量産の準備に走り回っているキャメルさんたちに負けぬよう、頑張らなければならないのである。


 熱中すると時間はあっという間に過ぎてしまうものだ。

 だが、感じる疲労感すら考えを受け入れてもらえた喜びを噛みしめる糧にすぎなかった、日が落ち始めて薄暗さに気づき顔を上げると、窓から見える広場にはもう建物の長い影が伸びている。 

 キャメルさんの店の作業台の上には、かなりの数になったラフ画が広げられていた、明日から選定の作業になるであろう、激論になるかもしれぬのもまた楽しみであった。


 それをまとめる作業を始めながら、ただいまーの最初の「た」で、ミサイルのように突っ込んでくるリイサちゃんや、クツクツ煮えてるヤヨイばあちゃんのシチューの鍋を想い起す。

「今日はこれで帰るかあ~」


 店を出て家路につくと、おれを見かけて声をかけてくれる村の人に手を振り返しながら、家並みが途切れた畑の道からは一人のんびりと、茜色の消えかけていく空を眺めて歩く。

「なあ、ファイ、オレの企画した製品には、ファイにちなんでファイアーボールの印を入れてくれるらしいぞ、ロゴマークになった感想は?」

 いつの間にか、頭の後ろに浮いていたファイが、ふーん、べーつにー……という感じでツイーッと前へ飛んでいく。


 心なしか楽しそうに見えるのは、気のせいかなあ。



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