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悲哀と愚痴と女神さまと



 窓から見える空が白み、夜が明け始めたようだ。


「ちょっと外の空気吸ってきます」

 そう言って、考えをまとめようと一人で外に出てきた。


 明け始めたばかりでまだ薄暗い農家の庭先に立つと、一人になった実感と共に、理不尽に対するやり場のない、怒りやら悲しみやらの負の感情が沸々と湧き上がってくる。


「異世界って……マジですか? なんなんですか? オレにどうしろと?」

「っていうかなんでオレ? こういう世界って普通、何か使命を与えられるとか、運命に導かれてとかいう、選ばれし者設定で来るものなんじゃないの?」

「隕石に当たって飛ばされたとか、ただ最高に運の悪い間抜けってことじゃないか……」


「たいして成績良かったわけでもなけりゃ、運動が得意なわけでもなし、その上一年以上引きこもってたんだから体力なんて平均以下だっつーの! 一人でこんな所来たって何もできねーよ!」 

「ゲームの世界じゃないんだから、こんな世界に一人ぼっちで飛ばされたって、ほんとに……何もできねーよ……グスッ」

「そのくせ精霊がいて加護されてるとか、ファンタジー的なお約束はしっかり押さえてあったりするし、なんなんだこの世界は……」


 感情を開放し、一通り愚痴って少し落ち着いてきた。

 現実から逃避するのが、最終的には一番嫌な選択だっていうのが、一年余りの引きこもり生活で得た教訓だからな、こっからは無理にでも建設的に考えていかなきゃ。

 

 まず、なんとか無理やりな屁理屈でもいいから、とにかく理屈をつけてこの世界のこと理解しないとだな、それにはまだ材料不足すぎる、どうにかして知識を得なきゃ。

 焦る気持ちと不安が交互に襲ってきて、またイライラしはじめている。


「ダメだ、落ち着かないと」

 とりあえず深呼吸しよう。

「すぅ~~~」

 大きく息を吸い込む、ひんやりと澄んだ空気がおいしい。

 そして肺に満ちた空気をゆっくりと吐き出す。

「はぁ~~~」


 うん、吐く息がキラキラ光っててとてもキレイだ……え、光……?

 傍から見ると今のオレは、鼻と口から光がとめどなく溢れ出る変な人に見えることであろう。

 あはは、エクトプラズムかな。

 あまりの出来事に楽しい気分になっている、明らかに許容量オーバーだ。


 金色の光は細かい粒子の集合のように見える、一旦上へ向けて上り全部出たと思いきや、オレの前に下りて集まり渦を巻くように周りながら形をとりはじめた。

 このまま回れ右して、家の中へ戻りたい強烈な衝動はしかし、光に浮かぶ姿を見た途端に消し飛んでしまう。


 浮かび上がる女性の姿、腰から上がホログラムのように淡く浮かんでいる。

 目を奪われる、何よりその悲しそうな眼差し、そしてあまりにも美しい、美しいというだけでは表しようのない、その存在……


 オレからだと、お姉さまというくらいの年齢に見えるが、内側から年齢を遥かに上回る風格が凛と伝わってくる、オーラというやつだろうか。

 トーガのようなふわりとした衣を着ており、首から下がるのは四つ四色の宝石の首飾り、シンプルだがそれがさらに美を引き立てていた。

 胸の前で両手を合わせ握り、オレに何か訴えかけるように見つめている。

 

 オレは存在を感覚で理解した、いや……もうこの言葉でしか表せないだろう。

「女神さま……?」

 よりにもよって、こんなオレの鼻や口から出るしかなかったのか? と考えると申し訳なさで一杯になる、いやいやまてよ、それ以前になぜオレの中から?

「あっ!」

 次第に光が薄くなり、浮かび上がる女神さまが見えなくなっていく、思わず声が出たのは、この数瞬の間まみえただけなのに、別れへの強い寂しさを感じたからであった、さすが女神さま、ものすごいカリスマ値だ……


 光は再び渦を巻くように動き出すと、そのままオレの頭上へ上り、そして突然静かに散った。

 降りかかる光の粒がオレの体に当たって消えていく、いや、沁み込んでくる……一粒一粒が、言葉や想いになってオレに教えてくれていた……


「精神界……? そうか、この世界は精神的な方向へ育った世界なのか……物質方向に育ったオレの世界とは、表と裏になっていると……それを教えに出てきてくれたのか……」

「……でも、なぜオレの鼻や口から?」

 独りつぶやくと、いつの間にか火の精霊がふよふよと横に浮いている。


 そちらに目をやると、ゆらゆら揺れる炎の顔がなんとなく悲しそうに見えたのであった……



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