目覚めと家族と精霊と
「う……」
ランプの柔らかいはずの光がすごく眩しく感じてしまうので、すぐには大きく目を開くことができない、頭がボーッとする。
ん? ……ランプ? ……ここは? ……どうなってる? なかなか現状と記憶がつながってこない。
身体の感覚で柔らかいベッドに寝ているのは把握した。
少しずつ光に慣れてきたので、周りを見ようと首を動かす、と。
ぴょこっ!
擬容語にするとまさしくそんな感じであった、顔のすぐ真ん前に飛び出た女の子の顔、完全に意表を突かれたので声も出ない。
意表を突いた方はそんなことお構いなしにクルッと振り返り。
「タオじーちゃーん、ヤヨイばあちゃーん、目、覚めたみたーい!」
ぼーっと霞がかかったような頭でも、オレがじーちゃんだったら、この孫のために命を懸けちゃえるな……と考えてしまうくらい可愛らしい声と仕草で、呼ばれた本物のじーちゃんとばあちゃんがゆっくりと現れた。
「よかった、二日も眠り続けてて心配したのよ、具合はどう?」
若いころはさぞかし美人だったであろう、静かな感じでとても優しそうなばあちゃんがそう言い、額に手を当てて熱を測りながら体の具合を聞いてくれた。
ここがどこなのか、オレはどうしてここにいるのか、訳のわからないことだらけである、とにかく質問を相手にぶつけたい衝動が激しく湧いたが、ぐっと飲みこんだ。
本気でオレのことを心配してくれてるみたいだ……まず答えなきゃ。
体の節々を少し動かしてチェックしつつ。
「所々、ぶつけたみたいな痛みがあるけど……大丈夫みたいです」
答えながら、かなり世話になっちゃったみたいだな、礼儀正しくしなきゃ……と考えた、まず自己紹介だな、うん。
「あの、かなりご迷惑かけてしまったみたいで……オレ、フジミヤ・タクヤといいます」
なんか今、自分の名前がカタカナで出たような違和感、気のせいかな。
「なにも迷惑なことなんてありゃせんよ、気にせず楽にするとええ」
じーちゃんも優しそうだが、笑った顔にちょっとイタズラッ子ぽいお茶目な影が見えた、女の子は楽しそうに、タクヤー!タクヤー! と連呼してクルクル回っている。
オレが現在に至る経緯を知りたがってるのを察してくれたようで、じーちゃんのほうから話し始めてくれた。
タオじーちゃん、ヤヨイばあちゃん、そして孫娘のリイサちゃんの今三人のこの家は農家をやってて、ハナノ村に所在するらしい。
リイサちゃんは九歳、赤い髪を肩まで伸ばし、ゆるく波うったくせっ毛の毛先がクルッと巻いている。
日本なら子供向けファッション誌のモデルに引く手あまたなのは間違いないだろう、庶民派の元気一杯美少女ってところだ、何にでも興味津々のお年頃のようで、突然降って湧いたオレを珍獣を見るような好奇の目で見てくれている。
タオじーちゃんの娘夫婦、つまりリイサちゃんの両親は隣の家に住んでるが、今は王都に商売に行っておりしばらく戻ってはこれないそうで、リイサちゃんはその間じーちゃんの家でお留守番って訳だ。
もうすぐムウギの収穫時期だから、手伝ってくれるなら好きなだけここに居なさい、とも言ってくれた。
優しいじーちゃんとばあちゃんの話を聞いてるうちに、ほっこりした気分になってきた、見ず知らずのオレにこんなに優しくしてくれるなんて……と感謝の気持ちで胸が熱くもなってきた。
……って、いや、ちょっとまて、ほっこりしている場合じゃないぞ、ハナノ村? 王都? ムウギ? なにそれ? 王都ってどこにある王国の都? 全部聞いたことないぞ?
「あの、ちょっと聞きたいんだけど……」
オレの家のある街の名、県、日本、果てはアメリカ、ロシア、中国も知らないと首を振られた、パソコンやスマホ、テレビ、ラジオ、電話すら知識に無いようだ、自動車、電車、飛行機に至っては、ほえー、そんなものが本当にこの世に……? と感心すらされる始末。
この辺で微かに頭をよぎるタイムスリップや異界の可能性。
いやいや、さすがにそれはないだろ、からかわれているか超ド田舎なだけにきまってるって……
こうなる原因で思い当たるとしたら、やはりあの隕石、上空で一部爆発したって言ってたから落下のコースがずれたんだろうな、オレの家を直撃だったのかな……
目覚める前の最後の記憶である、強烈な光を想い起してみるが、現状とつながるような確かなことは何もわからない。
そんな中、話は核心に近づいていく。
タオじーちゃんは近くの森の中でオレを見つけてくれた。
でかいクレーターの真ん中に倒れていたらしい、農作業用の一輪車に乗せて運んだが途中何回か落とした、とフェッフェッと笑って話してくれた。
頭や背中が痛いのはそのせいだったのか……
とにかく、もうここがどこの国の田舎でどう運ばれたにせよ、隕石が原因に大きく関わっているっていうのは確定だろうな……
「普通ならこんな怪しい人、絶対助けたりしないんじゃがのう」
今度はフオッフオッと笑いながらタオじーちゃんが。
「じゃが、精霊様が加護しとる人じゃでなぁ、助けんわけにはいかんかったわい」
……いろいろありすぎてお腹いっぱいなのにまだくるか。
「せいれいさま?」
さすがにちょっと……と訝しみながら聞くと、じーちゃんは黙って指をさす。
オレの、頭の? 上……?
指差された上を見上げると、オレの頭頂すぐ上空に手のひらに乗るくらいの小さな人型の炎がフヨフヨ浮いている……ファンタジー物でよく見る火の精霊そのものじゃないか……
火の精霊は無言で固まり引きつった顔のオレに、ヨッ、という感じで小さな炎の片手を上げた。
「……あ、ど、どーも」
どうやら異界に来てしまった……というのも確定したようである。