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知識と駆け引きとお誘いと



「ああ……そうだ、オレは物質界から来た……」


「タッ⁉ タクヤお前っ……!」


 スーワーンの問いへバカ正直に答えるオレへ、イルビスの慌てる声が背後からかけられた……何を考えているのかよく解らぬ相手へこちらの手の内を簡単に晒すなと言うのであろう。


 もちろんオレだって当然そう思うのではあるが、しかし現時点での情報量の有無から見ると圧倒的にオレたちの方が相手を理解できていない……つまりスーワーンのことを何も知らないのも同然であるのだ、この状態のまま会話で駆け引きを始めてしまうと勝ち目はほぼ皆無なのが見えていた……


 ならばオレは重要度のさほど高くない情報はあえて惜しまず伝え、その分スーワーンからも些細なことでもよいのでなるべく多くの情報を引き出すことが必要だろうと判断したのである。


 オレのこの判断を察知したのかどうかは知れぬがスーワーンは、ふ~ん……なるほどねぇ……といった感じで思考を巡らせているようであった、もしかしたら今度はオレに質問のターンを回してくれているのかな? と思えるような目つきで黙しながらオレをジッと見てもいる……どちらにしてもオレの方は黙ったままでは埒が明かないので、ここからは積極的にならねば……と、微かに青緑がかった秘色の採光を放つ彼女の瞳を見つめながら口を開いた。


「こっちの世界じゃドップラー効果なんて言葉は知られてないもんな……それだけでオレが物質界から来た人間だろうってのはスグに推測できる……それからこのボックス席を隔離して邪魔が入らないようにしたってことはオレたちに何か話があるんだろうし、酒場の中で起きている現象を解析させたのだって、オレたちがどの程度の知識を持っているか試したんだろうなっていうのは解る……」


 未だその真意の欠片すら掴めぬ目の前のスーワーンを見つめ、彼女の表情から何でもいいから情報を得られぬかと探るのであるが、オレを見つめ返してくる秘色の瞳はその色の名の通り謎しか与えてはくれないのであった……静かに黙するスーワーンへとオレは続ける……


「全知の書院の管理者だっていうスーワーンだから、その存在に気付いたヤツを監視したりしてるのかなって思ったし、書院のコトを他に広めないように忠告しに来たのかとも思ったんだけど……それならこんな回りくどいやり方をしなくてもオレたちを黙らせる方法なんていくらでもあると思うんだ……」


 原初の八柱であり時の属性を持つスーワーンの凄まじい力を見せつけられ、もし彼女がオレたちを消すつもりであったのなら、こちらは何も認識できぬうちにあっさり葬られていたであろうことは容易に推測できる……ならばこそ彼女がオレたちと会話をしようとしているというのは、何か重要な理由があるのではないかと考えたのだ……斯くして薄い笑みを浮かべてオレの話を聴いていたスーワーンが……


「そうね……タクヤの考えは大体当たっているわよ? 全知の書院へ正規のルート以外からの侵入はお断りしているし……今後境界面のほつれを利用して書院へと入ろうとする者が現れたら、それは排除しなければならないわね……」


 涼しげに言うスーワーンの言葉にオレの背後からイルビスの、う……グッ……という低い呻きが聞こえてきた……イルビス、お前……やっぱりあの洞窟の穴から入ろうと考えてたのか……? と、背筋にヒヤリとするものを感じつつ続く言葉に耳を傾ける。


「でもね、私がこうやって話をしに来たのは書院の管理者としてじゃないわ……」


「え……? んじゃなんで……?」


 書院の管理者としての立場で来たのではないと……と、いうことは無断で洞窟に侵入したり古代竜を倒してしまったことを咎めようとするのではなく、全知の書院の存在を守秘させるつもりで来たのでもないということになるんじゃないか……? そしてそんなことを考えていると、スーワーンはまたもやオレの方へとズイっと近付いてくるや、怪し気に目を細めた顔でオレの問いに答える……


「純粋に興味が湧いたのよ? ミツハに古代竜の処理を任せてからずっとあなたたちを見ていたわ……いえ……タクヤ……あなたを見ていたわ……」


 その瞬間オレの体の中心にゾクリとする戦慄に似た感覚が走った……彼女がいよいよ目的の核心へと切り込んできたのが直感できたのである……目に見えぬ鎖で縛られたかのように動けぬオレのすぐ目前へ秘色の瞳が浮かび、吐息がかかるほど近い薄紅の唇から脳を痺れさせるような声がオレの耳へと流れ込んできた……


「ねえタクヤ……あなた、こちらの世界に初めて来たとき……いろいろ疑問が湧かなかったかしら……?」


「あ、ああ……そりゃあな……精霊や女神なんて物質界じゃオカルト扱いだったし……」


「他には……?」


「ああ……あと、生態系っていうのかな……? 動物や植物の姿形が微妙に違うってのも違和感があった……」


「それから……?」


「あと……文明の発達の仕方だな……」


「詳しく教えて……?」


「文献を調べたり聞いた話によるんだが……こっちの世界じゃ二千年以上前と今とを比べてみたらさほど……いや、ほとんど文明ってやつが発達していない……そもそも二千年以上も前に物質界で言うところのヨーロッパ中世盛紀くらいの文明が確立してたってのも変な話なんだが……それがほとんど発達していないんだ……」


「なぜだと思う……?」


「これはオレの推測にしか過ぎないケド……この精神界の人達にとって一番住みやすい時代……科学ってヤツが急激に発達する直前の……精神的に一番充実している時代で固定されているように感じる……根拠もいくつかあるんだ……」


「その根拠とは……?」


「まず航海術が未発達過ぎる……王国の図書館で見た限りではあるけど、外洋航海ができるくらいの造船技術も無ければ羅針盤の存在も見当たらない……あと、火薬の発明が無い……材料はあるハズなんだ……温泉があるから硫黄は採れるだろうし硝石も肥料や肉加工品の製造で使われている……なのに黒色火薬はまるで知られていない……意図して文明の交流や大規模な戦争が禁じられている気がするんだ……」


「あら……? でも回廊がつながっていた時代は物質界と交易できていたのよ……?」


「そう……そこなんだけど……この世界の文明が物質界のヨーロッパに酷似してるってことは、回廊の物質界側の出口はおそらくヨーロッパ近辺だろう……二千年前のヨーロッパでは帝政ローマが強大な力を持ち始めた頃だ……王国に侵攻して来た物質界からの軍って、ローマかその近隣国の連中じゃないかと思う……つまり戦乱を好まぬ精神界と軍事力の肥大する物質界は完全に相反する時代になりつつあったんだ……実質的に回廊は魔王になったシグザールが捩じ切ったんだが……オレはそこにも何らかの意思が介入してるんじゃないかって気がしてならない……」


 オレのこの言葉に背後のアリーシアとイルビスが息を飲む音が聴こえる、それはそうであろう……シグザールの魔王化に与り知らぬ意思の介入があったのではないか……なんて推測は今の今まで話したことがなかったのだ、確たる根拠が無い現状ではただの陰謀論でしかないのであるが、それでも二人には十二分にショッキングな推測であるのは間違いない。


「ねえ、タクヤ……タクヤってばっ!」


 そのときローサの声がオレを呼んだ、眼前のスーワーンの瞳から目は離せぬが、何故か切羽詰まった感じのローサの声にとりとめのない思考の沼から引き戻された気分になる……


「な、なんだローサ……?」


「タクヤ……なんか変よ……? いつものタクヤならアリーシアとイルビスが気にしちゃうようなそんなコト……絶対言わないハズだわっ!」


「あ……」


 そう言われて今自分が話したことを思い起こすなり愕然とした……確かにそうだ……ただの推測でシグザールのことをあんなふうに言うなんて……オレは何を考えてるんだ……⁉ アリーシアとイルビスの気持ちも考えずに、どうしてあんなこと言っちまったんだ……


 頭の中にかかった薄い靄が吹き消されていくような感覚がする……同時に視界もピントが合ったようにハッキリ見えてくる気がした……するとなんとクリアになった視界の中で、目の前のスーワーンの瞳が自らボゥ……と淡い光を放っているではないか……!


――まさか⁉ これは……⁉ と思った瞬間であった……


「タクヤァッ! 目を覚ますのじゃぁ‼」


 背後からイルビスの叫び声がしたかと思いきや、スパァーーンッ‼ という小気味よい音と共に頭頂へ衝撃が走った!


「あ痛だあぁぁっ⁉」


 イルビスの強烈なサンダルアタックを脳天に喰らい、目から火花が出るような衝撃が頭頂から尾骨へと抜けていく、ローサの言葉で半覚醒していたオレへのこれはダメ押し的な覚醒措置であった……完全にシャッキリしたオレの眼前では、サンダルアタックは想定外だったのであろう……スーワーンがさすがに驚きに目を丸くした表情になっていた……


「ス、スーワーン……オレにヒュプノをかけてたなっ……⁉」


 秘色の瞳から淡い光がスーッ……と消えていく様を確認しながら、己の頭頂を撫でつつオレとしてはかなりキツめの口調でスーワーンを糾弾する、さすがにヒュプノはやり過ぎである……会話をしている相手へ礼を失していること甚だしいのであった。


 しかしなんとそのスーワーンは悪びれることもなく、むしろ余程楽しいと感じているのであろうか……明らかな喜色を顔に浮かべながら平然と応えた。


「あらん……今のはヒュプノじゃないわよ? 今私が使っていたのは、タクヤ……あなたが自分で言いたいって思っていたことを素直に言えるように、ほんの少し後押しするだけの効果しかない瞳術だったんだからぁ~」


「な……で、でもソレってやっぱりヒュプノみたいなモノなんじゃないのか……?」


「そ、そうじゃっ、自制の壁を取り払うのは精神操作と同じであろうっ! おかげでこのアホウは……あんなにペラペラ喋りおって……」


 抗議するオレにイルビスがビビリながらも背後から援護? してくれた、だが考えてみると確かにスーワーンの言う通りヒュプノのように支配されるような感覚は無かった……しかしそれでも通常の判断力があれば話さないコトを話してしまっていたというのも事実である……それにしてもこちらの情報を与えつつスーワーン側の情報を引き出そうとした途端にこのザマである……駆け引きという点ではではまるで歯が立たないのではないだろうか……と、感じさせるほどのスーワーンの老獪さであった、警戒感を露わにするオレたちにそのとき一転して瞳の秘色に真剣味を含めた光が見え、柔らかく諭すような言葉が薄紅の唇から発せられる。


「ねぇ、タクヤ? あなた私と会話の駆け引きをしようとしてるでしょ?」


「うっ……⁉ そ、そりゃあスーワーンが何考えてるか解らないんだし……オレたちは自分の身を護らなきゃならないから……」


「その気持ちは分からなくはないわ……でも私は最初から駆け引きなんてしていないのよ……?」


「え……? そ、それって一体どういうことなんだ……?」


 どうにも彼女が相手だとペースを狂わされっぱなしである……こちらが警戒心を強めた途端にカウンターで真っ直ぐに切り込んできた感じである……しかして訴えかけるようなスーワーンの続く言葉にオレは何も言えなくなってしまった……


「さっきも言ったじゃない……純粋にあなたに興味が湧いたって……タクヤ……私は今、あなたとお話がしたいの……あなたの考えが知りたいの……あなたはどうして自分なんかに、って考えてるんでしょうけど……あなたは自分が思っているよりずっと高次の思考ができる人よ?」


 褒められ慣れていないオレは自分の顔が赤くなっているのが判る……言葉にも詰まってしまい、文字通りグイグイ押すように迫ってくる純銀の女神の美しすぎる姿にワケもわからなくなってきてアウアウするのみである……


「ス、スーワーン……確かにタクヤは私たちの思い付かぬ小狡いコトをよく考えつくがの……」


 そのときイルビスがオレのピンチと見たらしく、またもや援護なんだか悪口なんだか判別の付け辛いコトを背後から言い出した……


「じゃが、識者というのならばコイツ以上の者はいくらでもおるハズじゃ……人に限らず、女神やそれこそ原初の八柱……特にスーワーン自身ならばわざわざタクヤの思考なぞに興味を持つまでもないのではないか……?」


 この言葉にはローサ、アリーシアはもとよりオレ本人も完全に納得してしまい思わずウンウンと頷いてしまう……だが見ている感じではスーワーンは全く動じず平然としているではないか……そしてその態度と同じく落ち着いた声がイルビスへと話し出す。


「ねえ、イルビス? 『相対性理論』って知ってる?」


「ぬ……? いや……知らぬ……」


「そうよね……物質界のとってもスゴイ学者さんが考え出した理論ですもの……精神界に住む私たちはその理論名を知る由もないわ……でも物質界の人たちにとってはその内容はともかく『相対性理論』っていう言葉はとても聞き慣れたものだそうよ」


「タ、タクヤは物質界から来た人間じゃから……あちらの言葉を知っておるから価値があると言うのかの……? じゃが、タクヤは学者ではないのじゃ……言葉は知っていてもその内容の深きを理解しておるワケではないであろ……?」


「そうね……内容は学者さんでもなければ知らないことがほとんどでしょうね……ねぇ、タクヤは物質界では普通の庶民だったの?」


「あ、ああ……一応ちょっといい高校の受験に成功した程度だが……言い換えればその程度だってことだな……」


 突然オレに質問が来たので少し慌てつつも答えた、すると頷いたスーワーンは人差し指を一本立てて更に続ける。


「質問ついでにもう一つ聞いていいかしら……? タクヤが精神界の言葉を不自由なく喋れるのって何故かしら? 頑張って勉強して覚えたワケではないわよね……?」


「う……うん……アリーシアが最初にオレの中へ入ったとき、焼き付けで学習させてくれたらしい……こっちの世界に来たときから問題なく喋れてたよ……」


 そう答えるとスーワーンは、なるほど……大体思った通りね……というような顔で満足そうな笑顔になった、そしてイルビスとの会話を再開するつもりなのであろう、オレの背後からソ~っと顔を覗かせている彼女へと口を開く。


「イルビス、解るかしら? このことが重要なのよ?」


「精神界の言葉を自在に話せることがかの……? いや……物質界の言語を精神界の言葉に変換できる……ということ……かの?」


「あらっ、さすがイルビス、正解よ……物質界で生まれ育って知識を蓄え、そして精神界に来てこちらの言葉で自在に表現することができる……そんなことって今の世界じゃ女神をその身に取り込んで焼き付け学習ができる人でもなきゃ不可能よねぇ……」


 オレたち一同はハッ⁉ と息を飲んで悟った……そうである……回廊が切れてから既に二千年以上が経過している……貿易のあった頃にはいたであろう両世界の言葉を話せる通訳などもういないハズである……スーワーンの言う通り、そういう意味ではバイリンガルであるオレはかなりレアな部類に入る人間であるのだ……だが、ソコはさすがイルビスである、同時に疑問点があることに気が付いたようであった……


「そのことに関しては理解したのじゃ……じゃが、さっきも言ったようにタクヤは学者でもなんでもない……言葉を知ってはいても内容を知らぬのであれば意味はないのではないかの……?」


 イルビスの言う通りである……物質界の様々な言葉を知っていたとしても、オレには大した専門知識などないのであった……せいぜいがネット由来の雑学程度の知識しか持ち合わせぬオレに、全知の書院の管理者たるスーワーンがここまで興味を持つというのは不自然なのである……


――だがスーワーンは含みのある笑みを浮かべ、左手をスゥ……っと差し出した……


「オーブ……」


 イルビスの茫とした声が流れる……透明な光に煌く水晶の小さな珠が、差し出されたスーワーンの左掌に乗っているのであった……そしてオーブに目を吸い寄せられているオレたちへ、厳かな旋律のように時の女神の声が届く……


「深い知識なんて必要ないのよイルビス……ただ必要なのはオーブへと問う言葉だけ……そしてオーブの操作は精神界の言語によってのみ可能なの……それが、私が識者などではなくタクヤに興味を持つ理由……」


 イルビスはこの言葉をよく理解できなかったのであろう……怪訝そうな顔をして口を閉ざしてしまった、だがオレの表情を斜め後ろから見上げた途端に、ハッ⁉ と息を飲んで身を硬くする……そうである、オレが全てを理解して愕然としているのを読み取ったのであった……


「そうか……そういうことだったのか……オーブの検索機能……」


 つながった思考に茫としながら呟くと、スーワーンの妖しい微笑みがオレへと向けられる……どうやら正解らしい、となると疑問がいくつも湧いてきた……続けてスーワーンへ質問しようと、勢い込んで口を開いたところで背後からシャツの袖をクイックイッと引かれたので振り返る……


「う……ぐすっ……」


 見るとイルビスが眉を寄せて悲しそうな顔でオレを見つめているではないか……そうである、オレだけが理解したまま夢中になってしまい、話の見えぬイルビスを放り出しそうになっていたのだ……しまった⁉ と、瞬間的に悟ったオレは、ワタワタしながら可哀想な状態になっている彼女へ説明を始めた……


「イ、イルビス、オーブの検索機能についてはイルビスが理解できなくてもしょうがない……というか……理解できなくて当然のコトだったんだ……」


 ちょっと不貞腐れ気味ではあるがプライドよりも知識欲優先であるのだろう……「?」と首を傾げながらも聞く体勢なのはさすがイルビスである。


「物質界でのネットの話なんだが……ネットには検索機能ってのがあってさ、知りたい知識のキーワードを打ち込むとそれに関する情報を自動的に抽出して表示してくれるんだ、例えば本のタイトルを入力するとその本の作者・出版元・発売日から値段やドコで売っているかとか、あらすじやら感想までズラ~っと並べて表示してくれる……そういうのを検索機能って言うんだ」


「そ、それは便利じゃのう……オーブにもそのような機能が備わっておる……と?」


「ああ、そうだと思う……って言うか膨大な情報を集積しているホストから端末で情報を引き出す場合には検索は必須の機能だろうな……とんでもない量の情報全てを一つづつ調べて目当ての情報を探すなんて不可能だからな……」


「なるほどのう……じゃが、そのような検索機能があるというのならば、物質界の専門用語を知らずともなんとかなるのではないか? ナントカ理論などという言葉を知らずとも、知りたい現象をキーワードとすればそのナントカ理論に辿り着きそうではあるが……」


「イルビス……お前……さすがだなぁ……」


 適当に説明しただけでここまで実態を正確に把握するとは……と、心底感心してしまう、イルビスもフフンと得意気になり先程までの不貞腐れた様子は吹き飛んでしまっていた……しかしそこへ、今度はスーワーンが話に入ってくる……


「でもねイルビス……検索機能だって万能ではないの……やっぱり言葉を知らなければ触れることさえできない知識もあるのよ……?」


 得意気になっていた分だけスーワーンのこの言葉にムッとするイルビスである……スーワーン当人に尋き返すのも癪なのであろう……オレの横顔をム~……という顔で上目遣いに見上げてきた……


「あ、ああ……そうだな……例えば、何て読めばいいのか解らない文字とかさ……読み方すら解らないからキーワードの入力のしようがない……あと、タイトルの解らない音楽とかな……言葉で表すことの難しいものは調べようがないって場合がある……」


「な、なるほどのう……」


「それから、やっぱり科学の発達度が違い過ぎると表現のしようがないって問題もあるんだ……ほら、イルビスだって前行ったゲーセンで見たものを表現しろって言われてもなかなか困っちまうんじゃないか?」


「た、確かにのう……アレは説明しろと言われても難しいのう……」


「こっちじゃ電気すら周知されてないからなあ……どうしても物質界の文明や科学に関しては、言葉を知っていないと検索すら難しくなる部分があるな……」


 む~ん……と唸ってしまうイルビスである、オレの説明は理解しているようではあるが、物質界の科学はイルビスの理解の範疇を超えるという事実が面白くない模様であった……そしてそんなイルビスを微笑んで見つめていたスーワーンが口を開く。


「うふふっ……イルビスも理解できたみたいでよかったわぁ、それじゃそういうことで……」


 そう言いながら今度は視線を「?」となっているオレへ向け、極上の女神スマイルを浮かべるや突然とんでもないことを告げた……


「――タクヤ、私と一緒にいらっしゃいな」



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