第1話:究極の食物
自然と一体になれ・・・・・
大地を踏み、風を感じろ
志は空より高く、その真意は海より深い
草のざわめき、炎の轟き
全ての答えは自然の中にある
自然と一体になれ・・・・・
亮は今日も塾帰りにコンビニへ寄っていた。サイズがギリギリでキツいジーンズのポケットに手を突っ込むと150円があった。親からはジュースを買えともらった金だが、こんな寒い日にジュースなど飲めるはずが無かった。そして彼は「ホット」が大嫌いだった。コンビニへ寄った理由はただ一つ。甘いものが大好きな亮の欲求を満たしてくれる物、板チョコ。薄い物体の中に凝縮されたカカオとミルクの絶妙なバランスに引き付けられたのはいつ頃からだろうか。去年の小学6年からだったような気がする。とにかく週に2回の塾帰りの日には板チョコをほうばらなければ生きていけない。無駄の無いフットワークでお菓子コーナーの下段にひっそりと置かれてあった板チョコを取り、わずか2歩でレジの前へ。店員がその動きに見とれているのかどうかは知らないが、言葉を詰まらせながら
「ひゃ・・・・100円です・・・・」
と言った。亮の胸が高鳴り、100円玉をポケットから出したそのとき、彼はやってしまった。やってはいけないことをやってしまった。カランカランという音が商品棚の下にあるスペースに呑まれて消え、亮の手にはさっきまであったはずの100円玉はなかった。シーンと静まり返ったコンビニ内には衝撃で変な体勢になった亮と、彼の体勢にどう対応していいか分からないまま硬直している店員の姿があった。そのとき、まるで救世主が来たかのようなメロディと共に自動ドアが開く。
「おい、何やってんだよ?」
その救世主の正体は同じ中学1年の海。バリバリのジャニーズ系で、頭がいい。この前の中間テストだって、500点満点中495点という史上最強の得点をたたき出したのだ。・・・・・・そのときの亮は190点だったが・・・・・・・
海は瞬時にその状況を理解し、レジの上に100円玉を置いた。店員は「助かったよ」という顔で100円を受け取り、板チョコを海に渡した。それを見た亮はやっと動き出し、海の肩を軽く二回たたいて微笑んだ。その微笑みの情けなさといったら・・・・・・
2人が出て行こうとすると、店員が奇妙なことを言った。
「納豆はいらないんですか?」
あまりにも奇妙すぎる言葉に戸惑う2人に見かねた店員はため息をついた。店員が着ている長袖の制服からボタボタと何かが糸を引きながら落ちていく。その物体の臭いと色は、まさしく納豆だった。この店員、何か変だ・・・・・・亮がそう思った瞬間、店員の胸が大きく破裂し、肉片が顔に付いたと思ったらそれも納豆だった。店員が立っていた場所には納豆が集まった人間のような姿をしたものがネバネバと足を引きずっていた。
「何だよこいつ?ホラーかよ!!」
海が驚く様子もクールなことに亮はイラッときた。もうちょっとこう・・「ギャー!!」とか・・・・・気づくと亮の目の前に納豆お化けがいた。海が恐怖に引きつった微笑みで亮を見ている。
「ギャアアアア!!!」
その叫び声は亮が海に望んだ叫び声よりも大きく、そして「ア」の数が多かった。納豆お化けは手か前足かよく分からないものを亮の肩に置き、身体の方に引き寄せた。そのとき、亮の耳元で何かが擦れた。砂色をしたその物体は、納豆お化けを亮から引き離し、コンビニの奥まで押し進んだ。物体が納豆お化けを押す力をなくし、地面に落ちる姿はまさしく砂そのもの。よく分からないが助かった2人が後ろを振り向くと、シルクハットを被った若い男が眉をひそめて立っていた。若いと言っても20くらいで、175cmくらいはあるだろう。スラリとした体格を持つ男は、亮の肩に引っ付いた納豆の粒を払いのけながら言った。
「君たちはガーディアンだね?」