平凡?何それおいしいの?
さあ、冒険という名のラブコメディを始めようじゃないか。僕は兎に角見たいんだ。七不思議という異物を学園ラブコメに放り込んだ結果をね。-翌檜なりや
平凡とはいいものだ。
なんと言ったって注目されることがない。何かに秀でているとそれを見せることになったときに必ず注目を浴びる。劣っていてもそうだ。注目を浴びると必ず結果を出さなければならない。期待されているならばいい結果。失望されているなら悪い結果を出さないと浮いてしまう。
対して、平凡はいい。注目を浴びることもなく、期待や失望などを向けられることがない。何だったら授業をさぼってもばれやしないだろう。先生に目を付けられたくないからやらないけど。周りに一切意識をされないというのはいいことだ。
対して僕。遊戯真は、平凡とはいえなかった。まず名前からアウトだ。何だったら田中とかそういう名字だったらよかったのに。この名前のせいでオタクだの何だの言われた。勉強は平凡の成績を取っているが運動はどうも駄目。
何にせよ、僕に無関心でいてくれたらそれでいいのだ。浮いてしまわないように、意識されないように。そのために誰とも仲良くは成らないが誰とでもいい関係は築いている。話しかけられたら笑顔で応対するし、体育でペアとかも組める。違和感をもたれたらいけない。
目立つことは避ける。流行のものはチェックはするがそこを避けるように身に付ける。彼女を作る?勝手にやって同性のヒーローにでも成っておけ。
何をしても皆が思っているとおりに。予想外は避ける。とにかく見立たないように。
そんな信条を掲げている僕だからこそ、目立つことは避けなければならない。
避けなければならないはずなのだ。
しかし、こうやって現実逃避をしても現実の状態が変わるわけではない。イメージしたとおりなんかに動くはずがないのが現実の難しい所で。
ここまで現実の難易度上げたのダレだよ全く。神様がいたらぶん殴ってやる。
そもそも人というのがいけな「無視していないでこっちを向きなさい。」はい、すいません。
「質問に答えなさい。あなたが遊戯真でいいのよね。」
「はいそうですけど何ですか?僕このあと用事があるんで手短にお願いします。」
もちろん用事なんて無い。方便だ。こんな人と長く関わりたくない。関わるだけで目立つような人種は嫌いだ。
同学年の三組。僕が二組だから隣のクラスの女子。
男子ランキング第一位。小倉香里奈。イギリス人とのハーフだかなんだか知らないが金髪のツインテで大きな目、ぷるっとした唇。そのほかのパーツも整っている。
体つきは・・・壁ではないんだが・・・うーん。スレンダーと言えばいいのだろうか。大体ハーフならそれらしい名前にしろよ。香里奈って何だ香里奈って。カタリーナかなんかを略したのか?
まあこんな人間がいたらもてるのも当たり前で、言い寄る男は星の数ほどいたが今まで見たこと無いような振り方でいずれも屠って来たのだ。聞いた話だがな。
そんな人に壁ドンされている僕。間近でみる美少女の顔にドキッとしたが顔には出さない。ここで赤面とかしたら後々めんどくさいことになると思ったからだ。まあもうすでに後々面倒くさくなるのは確定していたが。
「あんたに聞きたいことあったのよねー」
「聞きたいことですか・・・僕に聞くような事って何ですか?」
「あんた、知ってるでしょ?」
・・・コレはまずいな・・・。
僕の予感が当たっているならば彼女は僕があれを使っていることに気づいているな。何個気づいてるだろうか・・・・。兎に角。
「場所を変えましょう。その話はあまり人前で話してもらいたくありません。」
そう言って彼女の手を引く。面倒なことになってしまった。僕は目立ちたくないから本当はこんな事はしたくない。しかし、あれの存在を知られたら今の状況以上に目立ってしまう。
とりあえず階段の踊場に着く。後者の端にある階段だからあまり人気がない。内緒話にはうってつけだし、ここには一般には知られていない秘密がある。
話の方向によっては見せることになるかもしれない。
「さあ、話してもらいますよ。どこまで知っているんですか?」
「聞いたのよね。七不思議の噂を。」
「・・・・。」
内心冷や汗だらだら。なんだよその噂。僕目立っちゃってるじゃん。
この学校には七不思議がある。まあどこの学校にもあると思うがここの学校のは全て公認だ。
私立翌檜学園。通称アスナロ。この学校はずれている。言ってしまえば理事長がアホなのだ。
翌檜なりや。本名ではない。しかし、誰も本人の名前を知らない。元々科学者であり、二酸化炭素を人工ダイヤのクオリティを遙かに越えたダイヤに変える機械を開発し、地球温暖化を止めた科学者として誰もが知っている人だ。
しかもダイヤを作るのに相当な量の二酸化炭素を使うので大量のダイヤ放出により財を築くなどはできなかったが他にも画期的な開発をしていたので億万長者だ。
理事長はその金を使い学園を作った訳だが、ただの校舎を造ったわけではなかった。
理事長は学園が完成し、第一回目の入学式の時にこう言ったという。
「この学園には七つの秘密が隠されている。一つは部屋。一つは通路。一つは本。一つは鞄。一つは眼鏡。一つは携帯。七つ目は忘れた。とにかく、どこかに問題があり、それを解けば使えるようになる。早い者勝ちではない。しかし、他人に教えるのは駄目だ。さあ、楽しい青春をすごそうじゃないか。」
生徒は沸き立った。入学直後はどこに行っても人だらけだった。しかし、誰も秘密を解き明かしたものはいなかった。三カ月もすれば皆諦めた。今はもう暇つぶしに探したり、議論したり。その程度だ。
それでも見つける人はいる。どの学年にも二、三人くらいはいるが秘密の内容は彼らの口から語られることはなかった。
他にも変な所はある。入試は無い。合格するには一つ聞かれるだけで、自分の夢を語るだけ。それだけで選考される。
学校の中に娯楽施設がある。ゲーセン、カラオケ、その他もろもろ。思いつく限りの遊びの施設がある。
話を戻すがそんな夢のチケットのことを、最初は七秘密と呼んでいたが、いつからか七不思議と呼ばれるようになっていた。
「で、その七不思議の「部屋」についての噂で、時々消える生徒がいる。校内放送にかけても見つからない生徒。実は秘密の部屋にいるんじゃないかって噂されているその一人の名前が貴方だったのよ。」
「僕、時々急に寝てしまう持病が発生するんでそのせいじゃないですかね?」
「ダウト。そんな病気持ってないでしょ?保健室の先生に聞いたら健康優良児だって答えたわ。」
おい、個人情報漏れてるよ。どうなってんだよこの学園。先生ですら変人なのか。いや、入学当初から解っていたんだけどね。
「で、僕の情報ってどこまで漏れているんですか?」
「へそくりの額からほくろの数まで」
「ストーカーとして認定していいですよね。」
「私の情報収集能力を待ってすればこのくらいは当然よ。驚いてもらっては困るわ。」
「それでストーカーさん。改めて聞きます。僕に何のようですか?」
「秘密の部屋について教えなさい。」
やっぱりな。まあこの展開で誕生日とか聞かれても困るけど。もう知られてるだろうし。
しかし、面倒くさいことになった。
・・・・・・・・。逃げよかな・・・・。
よし、逃げよう。
「じゃあ僕このあと用事があるんで、それでは。」
「ちょっと待ちなさいよ!私の質問に答えなさい!」
「質問するくせに上から目線で命令する人に答える義理はありません。それではさようなら。」
一瞬彼女の後ろに視線を向けて注意を逸らす。
その隙に全力ダッシュ。一瞬でもいいから彼女の視界から消える必要がある。
こんな時にはー。煙玉ー。
ボフンと爆発させる。コレで彼女は僕が見えないはず。その隙に部屋に入る。秘密の部屋に。
秘密を解いたものに与えられる特権の部屋に。
煙が晴れて、真がいなくなった踊場に香里奈は立っていた。
「にげられたー・・・。はあ、これで振り出しかあ。」
香里奈は携帯を取り出すと何回か操作した後、舌打ちする。
「念のために付けた発信器も反応無しかあ。」
まずその発信器はどこで手に入れたのかとか、発信器はいつ付けたのかとか、まず間違いなくふつうの女子高生の行動の範疇から外れるが、ここはアスナロ。だいたいのことは許される。
まあ、校則に違反しないと言うだけでやられた本人はたまったものではないのだが。
夜が怖い幽霊とか。
露が嫌いだから朝になると発狂する近所のおじさんとか。
死んだことを解っていないゾンビとか。
苦しむ人を見たくない鬼とか。
とにかく変な役ばかり押しつけられるような青春でした。