腐り落ちた死の欠片
「俺たち、ふたりでひとつなんだよ。」
空から海が落ちてきたみたいな土砂降りの夜、あいつが言った言葉。
ベッドだけで埋まっちゃうくらい小さいへやの中で、ふたり布団にもぐって抱きあってたあの夜。
「どういう意味?」
「……頭にね、ぱっと浮かんだんだよ。それだけなんだ。」
それきりあいつは口を開かなかった。ねたのだろうと思って、おれももうそれ以上は聞かなかった。
ただ、隙間なんてないほどぴったりと、お互いの体のへこみを埋め尽くすようにあいつにくっついて、そして、目をとじた。
外では雨だけでなくて、ものすごい風がふいているようだった。
次の日、
あいつは増水した川に流されて消えた。
目の前で川に落ちた子供を助けようとしたのだ。
よくある話。
子供は助かったけど、あいつは助からなかった。
流されたあいつが見つかったのは三日後。犬と散歩してた爺さんが、川沿いの木の枝にひっかかっていたあいつを見つけたらしい。
おれは今、火葬場の前の道路で、あいつを見ている。見つかったあいつは、両親にしかその顔を見せず、静かに煙になっていく。
近くにあった石を、意味もなく蹴りとばす。
ふと、あの言葉が頭に浮かんだ。
“俺たち、ふたりでひとつなんだよ”
そうだ、あの夜の布団の中みたいに、あいつの腐ってふやけた体におれの体を隙間なくくっつけて、あいつの死をおれで埋めるのだ。
そうしたら、おれたちふたり、いつまでも一緒に。