くそ暑い夏の日のことだった
ここらで俺と咲蘭子の馴れ初めというやつを語っておこうと思う。
というより、この馴れ初めこそが今回の物語なのだ。つまり、今の俺達は未来の俺達なのである。
あれは確か俺がまだ弓道部に所属していた時のことだった。
2年の6月頃か…
俺はいつものように放課後弓道部でひたすら練習をし、部員が帰った後もずっと練習を続けていた。
急に俺の立つ延長線上に小柄な人影が立ちはだかった。そんなところに立たれたら打てないだろう…直ぐに居なくなると思われた影はそれでも身動きをせず立ち尽くしている。
「おーい、邪魔だ」
とイライラしながら語りかける俺。
「…………」
何の反応もしない影。
もしかして、心霊か……?いや、俺はそんなものは信じない。
近くに置いていた眼鏡を取り、再びまじまじとその影の正体を暴こうとする。
金色の髪に、何故か濡れている頬。
泣いているのだろう。
彼氏に振られたか、それはお気の毒に。俺には関係の無いことだ。
面倒くさくなってきたし、そろそろ帰るか…と帰る準備をしだしたその時
「さっさとその矢を打てっつってんだろうがバカー!!!!!」
と叫びながら駆け出してくる。右手をグーにしながら。なるほど、あれは返事をしていたのか、小さすぎて聞こえなかった。
まあ、そこらの女子の握力だ、そこまで痛くはないだろ…………………う。
俺はそこで気を失った。
そう、この暴力女こそ、今の、いや未来の彼女である。
「ん…」
開眼
どうやら俺はとても柔らかい枕を敷いてもらっているらしい。
というより、ここはどこだ。
「おお!目覚めたか!」
と突然上から俺の顔を覗く少女……
こっこいつは…
「ぼっ暴力女!!」
俺は慌てて暴力女の側から離れる。
「暴力女とは失礼な!」
と言いつつも爽やかな笑顔を放つ暴力女。
どうせ俺を殴ってスッキリしたのだろう…
ん…?まさかまさかとは思うが俺が枕にしていたのは…
「せっかくこの私が膝枕をしてやってたと言うのに」
これが彼女の三言目だった。
「なんたる失態…」
「ん?何か言ったか?」
とまたも爽やかな顔で尋ねてくる…
「おい、暴力女」
「だから何だ」
今度は少し機嫌が悪くなった。
「お前の名前はなんだ」
そう、さっきから暴力女と呼んでいたのは名前を知らなかったからでもある。
「一… 咲蘭子だ…」
俺は一 咲蘭子が一瞬悲しげな顔をしたのを見逃さなかったが、何故そんな表情をしたのか、この時の俺にはまだ分からなかった。
「一か、俺の名前は四月朔日 一だ。」
とまあ、こんな感じで自己紹介を終わらせた。聞きたいことは山ほどあったが、俺には関係の無いことだ。と自分に言い聞かせて一家を跡にした。