うどんで始まりうどんで終わる
俺には彼女がいる。
この物語は、俺と彼女とその他もろもろの話だ…どうやら俺は今回も彼女を見て呆れ、怒り、笑うのだろう。
彼女が俺の世界そのものなのだ。
というと何だかロマンティックだな。
まあ、そんなこと思ってもいないのだが。
いや……………どうだかな…
「ハァ…お前って奴は毎日毎日うどんばっかり…」
今現在、俺の目の前で立て膝をつきながら下品にうどんを啜っている金髪で碧眼の少女、 一 咲蘭子 、もとい“ヤンチー”は今日も健在である。
そしてこの“ヤンチー”こそが俺の彼女なのである。さっきから”ヤンチー“を強調しているのがお気付きであろうが、実はこの女、ヤンチーなのである。いや、マジで。
そもそも、何故俺が”ヤンチー“と付き合わなければならなかったのかというと、それはとてつもなく長い話になる。
別に俺は”一 咲蘭子“が嫌いなわけではない。きっと好きなのだろう、いや、好きだ、とてつもなく。しかし、俺はそれを認めたくはないのだ。なぜなr
「おい舎弟!何故そんなにイカつい顔をしている?」
急に姉御が……いや、彼女はそう訪ねた。
「コラ咲蘭ちゃん、四月朔日君は、貴女の彼氏さんでしょう?」
そう母親に言われた咲蘭子は少しだけ、ほんの少しだけ顔を赤らめてから
「知ったことかっ」
と顔を背けた。
「なあ、咲蘭」
俺は彼女に語りかける。すると、
「なんだ」
と少し拗ねたように彼女は答える。
「さっきお前は俺がイカつい顔をしていると言ったけれど、それは表情のことか?それとも顔付きのことを言っているのか?」
「どっちも」
彼女は即答した。
「一と出会った頃から怖い顔をしている奴だと思っていた」
と付け加えて。
「その言葉そのまま返す」
と言った後、俺は咲蘭子の腕を取り、
「いってきます」と洗い物をしている美月さんに言うと、玄関を飛び出した。
「なっなんだ急に」
彼女はゲホゲホと下品にむせながら俺に訪ねる。その口に爽やかガムを強引に含ませ、
「もう登校時間ギリギリなんだよ、急がないと遅刻だ」
「そういうことかよ」
何故かスイッチの入った咲蘭子はもうスピードで駆けだしていった。
俺を置いて。
彼氏を置いて。
「あっ見てみて~いちいちカップル!!」
「ほんとだ~あたし初めてみた~!」
など辺りから聞こえてくる。
そんなことはどうでもいいんだが。
俺達が付き合っていることは九十九ヶ丘高等学校全生徒全教師に知れ渡っているのである。まあ、当たり前だろう。
こんなオレとあんなアイツが付き合っているのだから。
チャイムが鳴り、学科が違う俺達がいつも待ち合わせいる場所がある。
放課後の図書室だ。
一見青春に見えるであろうこの光景は、俺にとっては何とも屈辱的且つ忌々しい光景でしかないのだが。
理由は簡単である。
咲蘭子ガ、俺ヨリモ、賢イカラダ。
全ク勉強シテイナイノニ、常ニ学年トップダカラd│
と、パソコンで打ったように見せてみる俺を横目に彼女は寝ている。
俺がコイツを彼女として認めたくない理由の一つもこれだ。俺は、こいつには適わない。いくら勉強をしたって、万年学年2位だ。こんな秀才2人が付き合っているのだ、当然話題になるだろう。それに加え、こいつの、一 咲蘭子の性格は今まででお分かりの通り、非常に野蛮である。そして、ヤンチーなのである。なぜ、ヤンチーと言えるのかというとだ…
「ん~むにゃむにゃ」
むにゃむにゃじゃねーよ。
開眼
「おお、来ていたのか、よし、勉強するぞ」
訂正しておこう。こいつが勉強をするのではない、俺が勉強をするのだ。何故か勉強が出来てしまうこいつに、俺が、教えてもらうのだ。気に喰わん、非常に、この上なく。
終了
下校中、俺達は一言も喋らなかった。
何故なら、彼女が寝ていたからである。
なので家まで仕方なくオブってやった。
「あら、四月朔日君!ごめんなさいね~毎日毎日本当に…」
美月さんが出迎えてくれる。
「いえ、僕に勉強を教えてるから疲れちゃうんだと思います」
ニコッと微笑んでみる。
微笑んでみるだけだ。それは美月さんも分かっているだろう、今朝のような会話を毎朝聞いているのだから。
それでも美月さんは
「ありがとう」
と微笑んだ。
どうしてこんなに良い母親がいるのにこいつは…
「母上、うどんが食べたい」
!?
いつの間に起きた
「うどんね、分かったわ」
と少し呆れたように美月さんはキッチンへ入っていった。
「四月朔日君もいらっしゃい」
と奥から聞こえた。
「ほら行くぞ」
と咲蘭子が促す。
その後に、ありがとうと聞こえたのは
きっと空耳なのだろう。