006 ママ ト ボク
「………。」
しばらくママはドアのノブにしがみついていたが、
反対側からリュウちゃんが開ける気配はもう感じられなくなっていた。
「…はあ…はあ…」
ザアアァァァァァーッ
雨はますます強くなり音が激しくなった。
ボクは寒さに耐え切れず、部屋へと歩き出す。
「セイちゃん!勝手にあまり動かないでっ!!」
ママがボクを呼び止めるが、
寒いのが苦手なボクはそんな良い子で居られなかった。
「大丈夫だよ!」
ママを無視して部屋へ向かうボク。
「セイちゃん!」
ガチャッ
ドアを開けると部屋は湿気でジメジメしていた。
「…あ。」
タンスの横の窓のカーテンがかすかに揺れている。
「……?」
いつの間に窓が?
とは思ったが、気にせずにタンスへ向かった。
タッタッタッタッ
カタッ。
タンスからパンツ、ズボン、シャツ…を取り出し、着る。
ボクはすぐに窓を閉めようと窓に近づくと隣のベランダが目に入る。
リュウちゃんのママが用事から帰って来たばかりなのか、
慌てて洗濯物を入れていた。
「………。」
「セイちゃん!」
背後からのママの声にボクはびっくりした。
「もう!アンタはなんで勝手に動くの!
そこにいときなさいって言ったでしょう!?」
「だって寒かったんだもん!」
「もう〜…連れて行かれたのかと思った。」
「え?ボクがリュウちゃんに?」
「そうよ!リュウくんにはアンタしか友達いないでしょう?」
そう言ってママはボクを抱き締めた。
「………。」
リュウちゃんは…
ボクを友達と思ってないよ。
だって
ボクも友達と思ってないもの。
でもママには、ボクがリュウちゃんに殺されても、
『友達』だから寂しくて
一緒に天国に連れて行かれたと思うんだろうな…。
リュウちゃんがボクを怨んでるなんて
思ってもいないんだろうな…。
「大丈夫よ…セイちゃん。
ママが守ってあげる。だから心配しないで…」
「………。」
ママはギュッとボクを抱き締める。
それが気持ち良くって…ボクはふと目を閉じる。
「……ママ…」
「…ん?」
「この事はリュウくんのパパとママに言わないでね…」
「…え?なんで?」
ママはキョトンとした目でボクを見る。
「…絶対…言わないで」
ボクは冷静に強く言った。
「…わかった。
今は…言わないでおく…。
でも今度あなたに何かあったら言うわよ?」
「…うん。」
ボクはニコリと笑ってママに抱きついた。
ママはボクの髪をやさしく撫でる。
ゆっくりとまた目を閉じる。
…もしかしたら…
ボクが作り出したかもしれない。
リュウちゃんはとっくに死んでて
ボクが『黄泉がえらした』かもしれない。
…だから…神様…
ボクが目を開けるまでにリュウちゃんを天国に帰して下さい。
リュウちゃんにやった事は反省してます。
…だから…
…だから…
リュウちゃんを天国に帰して下さい。
ボクは祈りながら眠りについた。
夜中。
…かすかに音が聞こえる。
あれはママがパソコンを打つ音だ。
パパが死んでからママはボクの為に仕事をしてる。
きっともう…真夜中だ…
なのにママはずっと仕事してる。
お疲れ様…
…ママ…。
現実と夢の区別がつかないボクは寝言でそう言った。
「ママ大好き。」