005 サビシイ コエ
シャアァァァァァァァ
「………。」
目の前には
口を開けているリュウちゃんがいた。
ボクは動けなかった。
シャアアアァァァーッ
その頃、キッチンにいたママは
いつもより風呂が長いボクを心配し始めていた。
「風呂長いわね。どうしたのかしら?」
コン コン
「セイちゃん…大丈夫? ねぇ…!」
「………。」
コン コン
「聞こえてるー?」
「………。」
返事のないボクにママは不安になり、
ドアノブに手をつける。
シャアアアァァァァァ
「セイちゃん?」
ドアを開けた。
ガチャッ。
シャアアアァァァァァ
「………。」
中からは湯気とシャワーの音だけが響いてる。
「セイちゃん!」
そしてママの目には湯舟に浮かんでるボクが目に入った。
「きゃっ!セイちゃん…!」
ママはボクの身体を湯舟から持ち上げる。
「セイちゃん!どうしちゃったの!?」
「…ママ…」
「…はっ!?」
「この子…ボクじゃないよ…」
「セイちゃん?」
ママは風呂場の端っこに座っているボクを見て驚く。
「…え?じゃあ…」
ママはゆっくりと抱きかかえている子供を見下ろす。
「−…この子は…?」
抱き抱えてる子供を見てびっくりした。
「……ひっ」
そこには笑っているリュウちゃんがいた。
「きゃあああーっ!」
ママは叫びながらリュウちゃんを放した。
その勢いでリュウちゃんは頭から落ち、鈍い音が風呂場に響いた。
ゴン。
「…………。」
シャアアアァァァァァ
ボクもママもリュウちゃんから目が離せなかった。
…というより動けなかった。
「………う」
「……うぅ」
「…いタイよォ」
リュウちゃんは頭を押さえながらうずくまっていた。
「セイちゃん!早く立って!」
ママは動けないボクの身体を掴み言った。
「…うん…」
ボクはゆっくりと立ち上がり、
ママに引っ張られながら風呂場から出ようとした。
シャアアアアァァァ
ガシッ。
リュウちゃんがボクの足を掴む。
「…あのトきモタスけてくレナかッたね…」
「…え?」
「セイちゃん早く!」
ママは勢いよくボクを引っ張ると
リュウちゃんの手はボクの足から離れ、
リュウちゃんの言葉を聞く暇もなく、ボクは風呂場から出た。
バタン。
「はぁ…はぁ…」
「………。」
「…今の…リュウくんだったよね?」
ママはボクに確認するように言った。
「うん。」
ボクは冷静に返事をした。
「…な…なんで?だってリュウくんは…
ベランダから落ちて…ううん…だってお葬式だってしたし…
火葬もして…あるはずがないわ…リュウちゃんの肉体は…」
ママは必死に頭を整理しようとしていた。
ボクは濡れた身体のままだったのですごく寒かった。
「…ママ…寒い…」
「あ、ごめん。今タオル持ってくる。」
ママが立ち上がろうとした時、ドアの向こうから音がした。
ガチャ ガチャ
「……!」
ドアのノブが右や左に動いている。
「だめ!」
ママはノブが回り切らないように手で固定した。
ガチャ ガチャ ガチャ
ガチャ ガチャ ガチャ
「…ひぃ」
ガチャ ガチャ ガチャ
ガチャ ガチャ ガチャ
ボクは何故か冷静だった。
必死でドアを押さえてるママを見ても恐怖はなかった。
「…アけテ…」
ガチャ ガチャ ガチャ
ガチャ ガチャ ガチャ
「…あケて…」
ガチャ ガチャ ガチャ
ガチャ ガチャ ガチャ
ドアの向こうから声がする。
「アけテ…」
リュウちゃんの寂しそうな声はずっと止まらなかった。