004 オキニイリ ノ バショ
ボクはポンプからシャンプーを数量手に取り、頭を洗う。
もちろん目に入ると痛いので目を閉じる。
「………。」
−ある日、
リュウちゃんが突然、いなくなった。
リュウちゃんのママは必死に探していたけど、
ボクには何となく何処にいるかすぐにわかった。
ボクは急ぎ足でその場所へと向かった。
例の噴水のある場所。
あれ以来、
リュウちゃんにとってはお気に入りの場所だった。
「はあ…はあ…」
そして、その場所が見えて来た。
「…やっぱりいた…」
リュウちゃんは噴水の水の中を相変わらず覗き込んでいた。
「リュウちゃん!」
大声でリュウちゃんを呼んだ。
その時…
ドボン!
「……え?」
リュウちゃんはボクの声にびっくりして水の中に落ちたのだ。
「あ〜! あ〜!」
“バジャッバジャッ”
リュウちゃんは手足をバタバタさせ、溺れていた。
「………。」
「あ〜ぅ…ぐぅぼっげっ」
“ジャバジャバジャバ”
「…ぐっぼっぐっん」
“バジャッバジャッバジャゴボッゴボボっ”
…ボクはウンザリしていた。
「…はあ。」
ボクのあとを楽しそうについてくるリュウちゃん。
ボクがいなけりゃ何も出来ないリュウちゃんに。
今だってホラ、足がつくような場所で溺れているじゃないか。
何やってるんだよ。
「あ〜! あ〜!」
“バジャジャボビャッビチャッビチャ”
リュウちゃんは手足を微妙な感覚でバタバタさせ、
目は必死に助けを求めていた。
−ボクを見ていた。
「………。」
それでもボクは動かなかった。
「あ〜… あ……」
“バジャッボジャッジャ
バジャバ……バジャ……ジャ…………”
「ああっ……あ…ごぶ……ぶ……」
“…チャボッ……”
「………。」
“………。”
しばらくすると、何も聞こえなくなった。
リュウちゃんの声も
水の音も。
「………。」
ボクはゆっくりと後ろに振り返る。
そして、家に向かって歩き出した。
その間、何だか無性におかしくなって笑いを堪えきれなくなった。
「………く…」
「……くふふ」
ボクは両手で口を押さえ、急ぎ足で歩く。
あのリュウちゃんから解放される事は
こんなに身が軽くなるのか、今にも叫びたかった。
「セイちゃん!」
後ろでリュウくんのお母さんの声が聞こえた。
「……!?」
ボクはゆっくりと後を振り返った。
「ねぇ!リュウがどこにいるかわからない?
セイちゃんならわかるはずよ…!」
「………。」
「ホントは知ってるんじゃない?」
「………。」
「ねえ!知ってるなら教えて!」
「…知らない。」
ボクが強くそう言うとリュウちゃんのママは肩を落とし、
「……そう。わかった、ありがと。」
トボトボとまた何処かへ探しに行った。
「………。」
「………くっ」
「……くふふ…」
ボクは急いで家に帰り、自分の部屋へ入るなり笑った。
「あはははははは…」
何故か凄く気持ち良かったから。
開放感がボクを腹の底から笑いをくれたのだ。
「あーはっはっはっはっ」
−それから数分後、リュウちゃんは噴水で発見された。
命は助かったが、更に障害を悪化させた。
きっとリュウちゃんはボクを許せないんだ。
ボクに復讐して殺すつもりなんだ。
だからホラ、死んだ後もボクにくっついてるじゃないか。
シャアァァァァァァー
…気付けば、ずっとシャンプーで頭を洗っていた。
ボクはシャワーを手探りで探す。
「…え〜と…」
目を閉じてるので見えない。
ガシッ!
その瞬間、誰かがボクの腕を掴んだ。
「……!」
ボクは恐る恐る目を開けた。
視界には笑っている口が目に入る。
リュウちゃん?
そう思った時、その口が大きく開いた。