043 ナツキ
ボクは突然現れたお姉ちゃんにあるホテルの一室に連れてこられた。
「…中に入って」
「…うん… 」
ボクは言われるままゆっくりと部屋に入る。部屋の中には子供がベッドで眠っていた。
「………。」
「そこに座ってて…ジュースでも持ってくるから…」
ボクはゆっくりとソファに座り込む。
ゆっくりと部屋を見渡す。部屋の様子からして今日チェックインしたようだ。
ボクは女の人をジッと見つめた。彼女はボクの視線に気付き、
「…あ・ごめん…わたしの名前まだ言ってなかったよね?」
「ナツキお姉ちゃんでしょ?本物の…」
ボクの言葉に彼女は頷いた。
「もう一人のナツキお姉ちゃんはどうなったの?」
ナツキお姉ちゃんはボクにジュースを差し出し口を開く。
「…死んだわ…彼女はわたしの事件を担当した刑事さんの妹なの。ナオキを食い止めたいって言ったら喜んで協力してくれてね。でもこんな結果になるなんて…」
ナツキお姉ちゃんはテレビをつける。
テレビではボクの学校で起きた事件が臨時ニュースで報道されてた。
犯人は『覚せい剤常習犯のバスの運転手』。
「結局…止められなかったか……」
ナツキお姉ちゃんはタバコを取りだし火をつけた。
ボクはそれを見て言う。
「タバコは身体に悪いよ?ママも昔は吸ってたけどやめたんだ…」
「あ、ごめん。でも吸わないともっとイライラするの。」
「………う。」
ボクは大粒の涙を流していた。
それに気付いたナツキお姉ちゃんはびっくりする。
「…どうしたの?」
「…ママ……死んじゃった…ママが…ひっく……ボク…ひとりに…なっちゃった…ひっく……うわぁぁぁぁん…」
「………。」
お姉ちゃんはボクをやさしく抱きしめた。
その温もりが心地良かったが、今のボクにはママの温もりを思い出してしまうほど辛いものだった。
ボクはずっと泣いた。
涙が枯れるまで。
「ひっく…ボク…どうなっちゃうんだろう…ひっく…施設に行くハメになるのかな…?」
「………かも知れないわね…」
「しょうがないか…ママは死んだし…親戚のおじさんおばさんはボクを絶対嫌がるし…」
「だったらお姉ちゃんのトコ来る…?」
「…え?」
「わたしは構わないわよ?」
ボクは一瞬、ものすごく喜んだ。
だが、首を横に振る。
「ありがとう。でも迷惑かけられない。自分で出来る事は自分でしたいし…」
「そう?仕方ないわね」
「ーそれよりベッドに寝ているのはお姉ちゃんの子供…?」
「……ええ、そうよ」
「結婚してるの?」
「…ううん…シングルマザーよ?」
「パパは誰?」
ナツキお姉ちゃんは何も言わずニコリと笑った。
「………。」
ボクはその日ホテルに泊まり翌日、家に帰った。
ボクの家で起きた事件もテレビやマスコミに大きく取り上げられた。
犯人であるリュウちゃんのママは何故かリュウちゃんのお気に入りだった公園の噴水場で水死体で発見された。
…原因不明の溺死だったらしい。
そしてボクは結局、施設に預けられる事になった。
一体、ナツコやナオキって何だろう?
どんなに考えてもボクにはわかりそうもない。
知ってるのはボクとナツキお姉ちゃんだけ。
あの出来事すら、ボクの幻想だったのでは? と思ってしまう。