034 コエ
ボクは初めて本気で人を殴った。
今までリュウちゃんとケンカをよくしたけれど、自分から手を出すなんて…殴るなんて出来なかった。
けど、今回は違う。
こいつは殴らなくてはいけない人。
絶対悪い奴だってわかってる!
なのに…
なのにどうしてママはボクを変な目で見るの?
「セイちゃん…ママショックよ!まさか初対面の人に暴力ふるうなんて…ナオキさんが優しい人だから良かったけど普通の人だったらセイちゃん…殴り返されてあなたも怪我するトコだったのよ!笑って帰ってくれたけど…」
!
ママはボクに呆れた様に言った。
「…最近、帰りが遅いのもあの男のせいなの?仕事が忙しいって嘘だったの?」
「嘘じゃないわよ!何でそんな事を言うの!」
「…ママ…あの人がリュウちゃんを殺したって言ったら信じる?」
「何言ってるの!あの人は私達を救う為に現れたんじゃない。」
「違う!あいつがリュウちゃんを殺したんだっ!ボクにはわかるっ!」
「セイちゃん!…もういい加減にして!口を開けばリュウちゃんリュウちゃんって…ママ疲れたわ…」
「だってホントなんだモン!他にどう言えばいいの!?」
「…お願いだから…もう二度とリュウちゃんの名前を口にしないでっ!」
ママはあまり怒らないが疲れていたせいか大声でボクに怒鳴り付けた。
ボクはあまりにびっくりして目からは涙が溢れて来た。
だが、ボクはそこで負けるワケには行かなかった。
ママを守る為にはママを納得させなくては…
「…お願いだから信じて…ボクは…ひっく…嘘をつい…てない!…ひっく…あの男は危険なんだ…ひっく…リュウちゃんは…あの男…ひっく…殺されて…ひっく…幽霊に…なった…んだよ…ひっく…」
バシッ!
ママはボクの頬をぶった。
「リュウちゃんの名前は言わないでって言ったでしょ!!分からない子ねっ!!」
「………!」
「…もう話になんない。遅いからさっさと寝なさい!明日も学校でしょ!」
「…う…ひっく…うぅ…ひっく…ママも思ってるんでしょ?ひっく…どうせ…ボクなんか…障害者だって!まともな人間じゃないって…ひっく…思ってるんでしょ……ボクなんか生まなきゃ良かったって!」
「ばかっ!ママがそんな事いつ言った?私はセイちゃんが元気でいてくれればいいって…それだけでいいのに何でわかってくれないの!」
「…ひっく…ひっく…おやすみなさい…っく」
ボクはゆっくりと自分の部屋へ向かった。
後ろでママがボクを呼んでるが振り返る元気も無かった。
ボクは一瞬にして無気力になった。
そして部屋に入る。
バタン。
どんなに堪えようとしても涙は止まらなかった。もうボクには何も信じるものがないと気付いてしまった。
ボクはただ泣くしかなかった。
−翌朝−
ボクはママと一言も話さなかった。ママから声を掛けられてもずっと無視していた。
「行ってらっしゃい…気をつけるのよ…」
「………。」
ボクは無言のままドアを開け閉める。
バタン。
ドアを見ていたがママが開ける気配はなかった。
「……フンだ!」
ボクはエレベーターへ向かおうと歩きだした。
ガチャッ。
ドアの開く音がした。
ボクはママだと思って振り向いたが開いたのは隣のリュウちゃん家のドアだった。
中にはいつも立っているリュウちゃんのママではなくパパだった。
「………。」
するとリュウちゃんのパパは笑顔でこう言った。
「…セイちゃん、わるいがリュウも一緒に学校へ連れてってくれないか?」
「…え?」
「おーい、リュウ!早く仕度しないか!」」
リュウちゃんのパパは家の中に向かって言った。
すると…
「…うん!セイちゃんこっち来てェ!」
家の中から聞き覚えのある声がした。
これは紛れも無くリュウちゃんの声だった。
「ホラ、呼んでるぞ。リュウが…」
そう言ってリュウちゃんのパパはボクを笑顔で見つめた。