030 ナツコ
「うへへへ…」
偽ナオキは立ち上がりボクに歩み寄って来た。
「…?なに…!?」
ボクは意味が解らない事と恐怖で動けない。
「うへへへ…」
偽ナオキはジリジリと近づいて来る。
「前から思ってたんだよ!お前を食べたい…とな…」
「……え?」
肩を強く掴まれ顔が近づいて来た。
「……ひっ」
額にキスをしてきた。
ボクは意味がわからず、息をするのを忘れるくらい偽ナオキの顔を見ていた。
「…大丈夫!痛くなんかないよ…痛いのは最初だけだから」
「…え?痛いって?」
「…これさ。」
偽ナオキはポケットからあるモノを出した。
「これにハマッたら快感だぜ…うへへへ…」
ボクは唾を飲み込んだ。偽ナオキの出したそれは注射器だった。
「…いやだっ!」
「動くんじゃねぇ!ぶっ殺されたいのか!?」
「…ひっ!!」
ボクは声を必死に抑えた。
そして今度は震えが一気に襲いかかって来た。
ガタガタガタガタガタガタ
「………。」
ガタガタガタガタガタ
「…はあ〜はあ〜…大丈夫だって…最初のチクッだけだ…その後は天国だぜ…はあ〜はあ〜」
「うぅっやだ!」
ボクは首を横に振ったが、そんな抵抗もむなしく注射の針はボクの腕へ近づく。
ボクは思わず目をつぶった。
「………!」
「………。」
「…なんだよ!」
偽ナオキが突然、叫ぶ。
ボクはびっくりして目を開けた。
偽ナオキは後ろの座席を見つめていた。
「………?」
「だから何でそこでお前が邪魔するんだっ!えぇ!あっち行けよ!」
偽ナオキはボクを放したかと思えば後ろの座席に向かって歩きだし、注射器を持った手を振り回していた。
「てめぇ!ふざけた事ぬかしてんじゃねぇ!殺されたいのか!あぁ!なんで邪魔すんだよ!なんでそこにいんだよ!消えろ!消えちまえよ!」
偽ナオキは必死に手を振り回していた。
見えない敵をやつけようとしてるのだ。
ボクは今が逃げるチャンスだと気付き、静かに後退りをした。
「いいからひっこんでろよ!お前の出る幕はねーんだ…ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
「……!」
偽ナオキを見ると振り回してた注射器が首に刺さっていた。
「てめぇ…!よくも…うぅ…うわあぁぁぁぁ!」
「…ひっ」
ボクは恐くなりその場から逃げた。
走って逃げた。
…タッタッタッ…
「…はぁ…はぁ…」
タッタッタッタッ
「…はぁ…はぁ…え?」
前にナツコが立っていた。
ボクはびっくりして足を止める。
「………!」
「だから言ったでしょ。わたしはあなたの味方だって…」
「…もしかして…助けてくれた…?」
「んふふ…」
鼻笑いをするとナツコはみるみる消えて行った。
「…あ。」
「………。」
「そんなワケないでしょう!?ナツコが助けてくれた?まさか!」
ボクはナツキお姉ちゃんにさっきの事を伝えた。
「ホントだよ!もう少しであの偽ナオキに変なコトされそうになったんだモン!それをナツコが…」
「セイちゃん!騙されないでこれもワナなのよ!これがナツコのやり方なのよ?」
「違う!ナツコは助けてくれた…ナツコは味方なんだよ!前から現れては助けてあげるって言ってたモン!」
「…じゃあ…リュウちゃんもあなたを助ける為に現れたって言いきれるの!?ナツコとリュウちゃんは仲間なのよ?」
「違う!リュウちゃんは悪者でナツコはイイ奴なんだ!」
「…セイちゃん?」
ナツキお姉ちゃんは先生みたいに呆れた様に溜息をした。
「……!」
ボクはムカついた。
『鼻笑い』と『溜息』だけはボクがこの世で許せないもの。
ナツキお姉ちゃんまでもボクを馬鹿にしてる。