029 アダナテイチャク
「セイくん!セイくんってば!」
「…え?」
先生の声でボクは目を覚ました。
「あなた朝から寝過ぎよ?とっくに学校に着いたわよ!早く降りなさい」
「…あ…ごめんなさい…」
ボクは起き上がるとすぐにバスを降りようとした。
「…くくく…」
運転席から笑い声がする。
偽ナオキがずっと笑っていたが、ボクは無視して急いで教室へ向かった。
教室が目の前に見えるとボクはドアの方を見た。そこに『ワナ』が仕掛けられてないかどうか確認したが、何もない。
ガララ…。
教室のみんなが一斉にボクを見る。
ボクはゆっくり席に向かった。そして昨日と同じく近づくにつれ臭って来た。
「………!」
案の定、椅子にはウンコがあった。
「………。」
ボクはただじっとそれを見つめていた。
ガララ…
先生が入って来た。
「ん?臭いわね!」
「先生ー!セイちゃんがまたおもらしを…」
萌ちゃんが言う。
「また!?昨日、あれほど言ったのに…!」
「違います!ボクじゃない!」
ボクは必死に訴えた。
だが、先生は表情を変えず、
「昨日も言ったでしょう?みんなが何と言おうとそれはセイちゃんがやったって…。」
「そうよ!そんな臭いモノ!さっさと捨てちゃって!」
「そうだよ!ウンコ!ただでさえウンコなのに…ぐひひひひひひ!」
「そうだ!ウンコだ!にゃはははははは…」
「いひひひひひ…」
「えへえへ…」
「あーはっはっはっ…」
「うんこ!うんこ!」
「うんこっ!!」
「ぎゃははっうんこ!」
クラスのみんなが口を開けて笑い出した。
みんな楽しそうに肩を震わせている。
「………。」
ボクは我慢出来ず、教室を飛び出しトイレへ向かった。
ガララッ
ダッダッダッダッ
「…うぅ。」
どんなに我慢しても涙が止まらなかった。
ダッダッダッダッ
「…んふふ。」
トイレに着くとボクは鏡を見た。
「んふふっ」
背後にナツコさんが立っていた。
「大丈夫よ?私が守ってあげるわ…」
「…お前だって信用できないっ!」
「誰だったら出来るの?…ママ?…ナツキお姉ちゃん?」
「………。」
「それはどうかしら?ママ…最近、家にいないでしょ?」
「……え?」
「仕事が忙しいって…ホンキで信じてるの…?」
「………?」
「まだわからないの?あなたから離れる唯一の楽しい時間だからよ?」
「…どういう事?」
「だから、あなたなんて二の次三の次って事!何が何でも仕事が大事ってコトよ!あなたはママの仕事の邪魔って事!」
「違うっ!絶対ありえない!」
「何故そう言い切れるの?じゃあ…ナツキお姉ちゃんも信じられるの?」
「うん!信じてるよ!」
「…んふふ…つい最近知り合った人をどんなして信じれるというの…?子供って単純で幸せだわね…きっと…この2人もあなたを裏切る時が来るわ…そんな時…私を呼びなさい…私があなたを助けてあげる…守ってあげるわ…」
「うるさいっ!お前なんかの助けてなんかいらないやいっ!ばか!あほ!」
「…んふふ。」
女は笑うと消えて行った。
「…はあ…はあ…」
ボクはしばらくトイレにいた。
でも誰も探しに来てくれない。
先生ですら。
だから仕方なく教室に戻った。
もちろん、そこにはウンコがそのままあってボクは泣きながら片付けた。
ブウゥゥゥ〜ン。
帰りのバスの中でボクはまた泣いていた。
涙が何故か止まらない。
ただ苦しくて仕方ないのだ。
バスが急停車する。
気付けばボク以外誰も乗ってないのだ。
「………?」
前にいる偽ナオキの笑い声が聞こえて来た。