002 アメ ヤム マタ フル
「…奥さん…大丈夫ですか?」
「あ、はい。」
「ま・幸いケガ人はいないし…車もキズ一つない。
ラッキーな事故でしたね。」
「あの、ホントにケガ人はいないんですか?」
「ええ。子供を轢いたみたいな事言ってましたよね?
でも目撃した人達によると最初から誰もいなかったみたいですよ。
奥さんが急にブレーキを踏まれた…と。」
「そんな!だってはっきりと!」
「さっきまで大雨でしたからねー。そのせいじゃないですか?」
「…? ホントに誰もいなかったんですよね?」
「ええ。奥さんの見間違いですよ。」
警察の人がそう言うとママは凄くほっとした表情をして
「そうですか。」
「…もう行っていいですよ。」
「はい。どうもお騒がせしました。」
車で道路を走っていたら目の前に突然、リュウちゃんが現れた。
ママはびっくりして急ブレーキを踏んだんだけど、
それが間に合わずリュウちゃんを轢いた気がした。
でもリュウちゃんは幽霊だ。
そんな事をしても死ぬはずがない。
だって死んでるからね!
ママはよくわかってないみたいだ。
ボクは車の助手席でママがこちらへ歩いて来るのを見て安心した。
ガチャッ
バタン。
「セイちゃんごめん。車で待たしちゃって…」
「…ううん。」
「帰ろうか。」
「うん。」
ブウゥゥゥゥゥゥーン
「………。」
「警察の人はなんて?」
「ママの見間違いって。最初から子供なんていなかったって。」
「………。」
「雨のせいかな?きっとママが見間違えたのね…」
ブゥゥゥゥゥゥーッ
「ーいたよ。」
「え!?」
ブウウゥゥゥゥゥーン
「…いたって…子供が?」
ママは運転しながらボクの顔を見た。
ボクはママを見つめ返すと冷静に
「うん、そう。リュウちゃんが。」
「……セイちゃん、ママも子供には見えたけど、
リュウくんには見えなかった。
だってリュウくんは亡くなったのよ?
いるワケないじゃない。」
ママは前に向きを変え少しキツイ口調で言った。
「……そうだね。なんでボクには見えるんだろう。」
「………。」
「ボク…あんな顔初めてみたよ。」
「あんな顔?」
「さっき…リュウちゃんが車の前に立ってた時…笑ってた。」
「………。」
「ボク…リュウちゃんが笑ってるトコあまり見た事ないよ…」
「…確かにリュウくんは笑わない子だったわ。
だからさっきのはリュウくんじゃないね。
笑ってたからね…」
ママは優しくボクに言いきかす、
さっきの子供がリュウちゃんだって認めたくないんだろう。
「ーママ、ボクの話信じてないんだね?」
「…だって…幽霊なんて信じられないもの。
きっと寂しい心が作り出した幻よ。」
「寂しい心?」
「そうよ。
セイちゃんはリュウくんが亡くなって寂しいのよ。
だから見えるのよ」
「…そっか。」
ボクは移り変わる窓の景色を眺めた。
ブウゥゥゥゥゥゥーン
車はボクん家があるマンションへと着いた。
バタン。
「ふぅ。ママ疲れちゃった。」
ママは家に着くなりソファに体重を預けた。
「ボク、先にフロ入っていい?」
「そうね。セイちゃん少し濡れてるから。」
ボクは着替えを取りに自分の部屋へと入る。
ガチャッ。
今日は朝から雨模様なので電気をつけないと部屋は真っ暗だった。
カチッ。
薄ぐらい部屋が明るくなる。
ボクはゆっくりと窓を見る。
さっき止んだばかりの雨はまたシトシトと降り始めていた。
「……。」
ボクは窓に近づき、外の景色をながめる。
そして、この窓からは隣の家のベランダが見える。
そのベランダにはいくつかの花が置いてあって
リュウちゃんはよく、花に水をやっていた。
そう、隣はリュウちゃんの家で、
リュウちゃんはここ6階のベランダから落ちたのだ。
ボクは考える。
ここから下に落ちる瞬間、
リュウちゃんは何を思い、
感じたのだろうか…と。
そして、人は死んだらどうなるんだろうか…と。