028 トナリノコエ
学校が終わるとボクは家に帰らずにナツキお姉ちゃんの家へ向かった。
ガチャッ。
「どうしたの?セイちゃん?」
ボクの突然の訪問にナツキお姉ちゃんはびっくりしていた。
ボクはお姉ちゃんの顔を見ると涙が次から次へと溢れて来た。
悔しいやら哀しいやらで色んな感情が一気に押し寄せ我慢出来なかった。
「お姉ちゃん!」
ボクはお姉ちゃんに抱き着いた。
「………。」
「うわあぁぁぁーん」
姉ちゃんは何も言わず、「よし、よし」と頭を撫でてくれた。
だから
ボクは思い切り泣いた。
「ぶぁひやひやひやひやひやひやひやひや…ひぃ。見た?今の人の顔!びぁひやひやひやひや…」
「セイちゃん、さっきまで泣いていたと思ったら今度は大笑い?」
「だって…アホじゃない?このテレビに出てる人」
「ただの歌番組なのに何故おかしいのかしら?」
ナツキお姉ちゃんはボクに呆れていた。
「そういえばナツキお姉ちゃん…今日、あの運転手が変な事言ってたよ」
「え?」
「お姉ちゃんを…“犯した”って…」
「……そう。」
お姉ちゃんは返事をするとコーヒーを飲んだ。
「カラダは大丈夫なの?」
「大丈夫よ。それくらいの覚悟は出来てたし…」
「ふぅん。あ・それと…ナツコっていう女に話し掛けられた…。」
「…え?なんて!?」
ナツキお姉ちゃんはボクに顔を近づけて聞いて来た。
「…ボクを…守るって…」
「守る?誰から?」
「ボクをいじめてる人達から…」
「いい!?セイちゃん!彼女を信じちゃダメよ!彼女は人の心の隙間に入り込むんだから!そこを利用してみんなを苦しめるのよっ!」
「……わかってる…お姉ちゃん…痛いよ…」
ボクの言葉に我に返り、
「あ!ごめん…強く掴み過ぎちゃったね」
お姉ちゃんは掴んだ肩からゆっくりと手を離した。
そしてまたコーヒーを飲む。
しばらくしてボクは家に帰った。
家にはママがご飯を作っていた。
「セイちゃんおかえり!悪いんだけどさ、ママ仕事が入っちゃって今から行かないといけなくなったの!」
「…え? …うん。」
ボクは学校での事を言おうとしたが、急いで準備しているママを見て言え無かった。
翌日。
ボクは行きたくない学校へ行こうと家のドアを開けた。
「行ってきまぁ〜す!」
奥からは返事がない。
ママはゆうべ遅く帰って来たらしくまだ寝ていた。
朝ご飯はちゃんとテーブルに用意してあったのでそれを食べたのだ。ボクはもう一度言った。
「行ってきまぁ〜す!」
「………。」
やはり返事がなかった。ボクはゆっくりドアを閉め鍵をかけた。
ガチャン。
すると背後から−
「行ってらっしゃい」
と声がしたので振り返ると、そこにはリュウちゃんのママがドアの隙間から手を振って笑っていた。
「………!」
ボクは気持ち悪いので急ぎ足で下に降り、バスを待っていた。
バスがやって来てドアが開く。
もちろん、運転席には偽ナオキが笑って迎える。
「…楽しい一日の始まりだよぉ♪」
ボクは無視して席に着く。
すると萌ちゃんが、
「おはよ。ウンコ!今日も相変わらず臭いわね!」
…と言って笑い出した。
「ぎゃは〜っはっはっ」
「うんこだってよー」
萌ちゃんだけじゃない…バスに乗ってるみんなも笑い出す。
「………。」
「きゃははははは」
「あひゃひゃひゃひゃ」
「ぶははははははは」
………。
…はあ…疲れた。
…何やってるんだろう。
なんでボクはこんな事してまで生きなきゃならないんだろう…
みんなの笑い声が小さくなっていく。
どうやらボクは眠たいみたいだ。
そうだ!このまま永遠に目が覚めなければいい…
…ずっと覚めなければ…
ずっと。