021 リュウトヨブコエ
ボクは家に帰ってくるなり、ナツキお姉ちゃんにバスの運転手さんがパソコンで見た、『オオトモナオキ』だったことを伝えた。
「そっか。そんな目の前にいたのね…」
「うん!まちがいないよ!あいつ…毎朝、ボクを見てたんだっ」
ボクはさっきの萌ちゃんの件があったせいか、妙に興奮していた。
「ねぇ明日の朝…わたしもバス停に行くわ。この目で確かめたいし…いや、学校がいいかな?みんな降りた後に声を掛けてみるわ。」
「駄目だよ!危ないよ!あいつ…なんか恐い…!」
ボクがそう言うとナツキお姉ちゃんは微笑み、
「大丈夫よ。わたしなら。彼は問題じゃない…」
「…え?」
「それにわたしには時間がないかもしれない。」
ナツキお姉ちゃんはポツリと呟いた。
それってどういう事?って聞きたかったけど、何故か聞けなかった。
ボクは家に帰った。夜9時過ぎだというのにママはまだ帰って来てない。家の静けさがボクには恐かった。孤独だった。
「ボクは17歳だ。もう半分は大人なんだ。こんなコトで怖がっちゃいけないんだ…淋しがっては…」
ボクは独り言を言っては自分の部屋に入った。相変わらず部屋は不気味さを増してた。リュウちゃんが死んで以来、ボクは自分の部屋が嫌いになった。そして、隣が見えるその窓も嫌になった。
「………。」
恐る恐る窓を見る。隣のベランダが見え、どうやら、中には人はいないようだ。
「………。」
ボクはベッドに横になり、目を閉じる。そしてあの時の事を思い出す。
リュウちゃんが『ポイ捨て』された時の事。
リュウちゃんは小さくなって行った。雨と一緒で見えなくなる。まるで闇に吸い込まれていく様に。
ザァアアアアアアアーッ
消えていくリュウちゃんを見届けた後、2人は何かを話していた。リュウちゃんのママは泣いていた。なんで泣くんだ!?自分でやっといて…。リュウちゃんのパパは泣いてるリュウちゃんのママを抱きしめながら、ボクを見る。ボクはびっくりしてそのままベッドに戻った…。
でも、なんでだろう…。
なんで2人はリュウちゃんを『ポイ捨て』したんだろう…。
なんで…そんな事する必要があったんだろう。
ボクにはどう考えてもわからなかった。わかるはずもない。そしてボクはいつしか眠りについた。
気付いた時には朝だった。
「おはよう。」
ママがいつもの様に朝食を作っていた。
「おはよう、ママ…」
眠い目をこすってボクは顔を洗った。歯を磨いた。服を着替え、朝食を食べた。
「行ってきまぁ〜す!」
ボクはエレベーターへ向かう。
ピンポーン。
機械音と同時にエレベーターの扉が開く。
「………!」
そこにはリュウちゃんのパパとママがいた。
しかも、リュウちゃんのママは車椅子に座っていて頭に包帯を巻いていた。そうだ!昨日学校に来て階段から落ちたんだ。
「……あ。」
ボクは一瞬にして怖くなった。昨日の出来事を責め、怒るんじゃないかと。リュウちゃんのママだけでなくリュウちゃんのパパもボクを怒るんでは?…と。
ボクが驚いていると、リュウちゃんのママはニコリと笑顔になり、
「おはよう。今日もいい天気ね。」
「………。」
ボクは黙ったまま後退りをする。
リュウちゃんのパパは黙ったままボクを見ていた。顔付きが怖い。
「今から学校?リュウ…」
「え?」
「違う!こいつはリュウじゃない!」
リュウちゃんのパパが叫ぶ。
「何を言ってるの?あなた自分の子供を忘れたの?」
「こいつはリュウじゃない!リュウは死んだんだっ!」
「じゃあ…目の前にいるこの子は誰だって言うの?おかしい事言うわね?リュウ…今日のパパ面白いわね。ふふ」
そう言って肩を揺らしながら笑うリュウちゃんのママ。
「……っ!」
ボクがリュウだって?
リュウちゃんのママがボクのママだって?
リュウちゃんのパパがボクのパパだって?
ボクにはパパなんていないっ!いないんだっ!
ボクはただ怒っていた。




