020 アカシ
「生きてる?どういう事?」
ボクはもう一度萌ちゃんに問い掛けた。だってリュウちゃんは死んだもん。ちゃんとこの目で…
「生きているの!」
「じゃあ…君にも見えるの?リュウちゃんの幽霊が?」
ボクは恐る恐る聞く。
「幽霊?幽霊って死んだ人がなるんでしょ?リュウは死んでないってば!さっきから言ってるじゃない!頭悪いね!年上のクセに!」
何故かキレる萌ちゃん。ますますボクは意味がわからず、言ってはいけない事を口走る。
「嘘だよ!だって見たんだモン!隣のベランダから落ちるの!」
萌ちゃんはしばらく黙ってたが、また口を開いた。
「セイちゃん…。気付いてた?クラスのみんなからいじめられてたの…。あんたいじめられてのよ???」
「え?」
「黒板消しが落ちてきたり、モノが失くなったりしてたでしょ?クラスのみんなからシカトされたり…自分で気付いてたでしょ?」
「え?そうなの?」
ボクは驚いた。みんなからいじめられてたなんて。初耳だ。…そうか、だから視線が冷たく感じたんだ。黒板消しもたまたま落ちて来たワケじゃなく…全部意図的なんだ?
「全部ね…リュウの命令なの。」
「え!?リュウちゃんの?」
ボクは更におどろく。
「そう。リュウは自分の手を汚さず、アンタをいじめてたの。その『イジメ』はまだ続いてる…。だからリュウは生きてるの。」
「じゃっ…じゃあ!やめたらいいじゃないか!リュウちゃんはもういないんだから!」
「アンタが悪いのよ!クラスで年上のクセに知能レベルが低いアンタがっ!見ててイライラするものっ!みんなそう思ってる!だからなくならないのっ!全部アンタが悪い!アンタの存在が『イジメ』を作ってるの!」
萌ちゃんは叫んでいた。口からはよだれが垂れ、瞬きすたらまともにできない。筋肉をうまくコントロールできない。
そうだよ。ボクらは障害者。ここにいる人間、まともじゃない。萌ちゃんだってりっぱな障害者。
でも、ボクは我慢出来ず、言ってやった。
「 クズ! 」
それがせいいっぱいだった。だけど、萌ちゃんには効いた。
「…うぅぅ〜」
突然、涙を流してはボクに向かって走って来た。
「ぅああああああっ!」
萌ちゃんはスムーズに動かす事の出来ない身体を走らせ、ボクを叩こうした。
だが、ボクは『ひょい』と萌ちゃんの攻撃をよけた。
「あっ!」
そう思った時には遅かった。リュウちゃんのママ同様、萌ちゃんも落ちたのだ。
「ぅあああっ!」
ゴロッ ゴロッ ゴロッ ゴロッ ゴロッ
「……あ。」
ドサッ。
「………。」
「………。」
しばらくの沈黙。
ボクはゆっくりと唾を飲み込む。
萌ちゃんは動かなかったが、意識はあるらしく声を出す。
「…ぅぅぅぅ。」
「萌ちゃん?」
萌ちゃんはゆっくりと身体を起こそうとした。だが、落ちたショックのせいかうまく起き上がれない。
「ぅあああああああ…」
身体をバタバタさせてうめき声をあげる。
「ぅぁアあウぁあっ」
「………。」
ボクはゆっくりと後退りをする。そして走り出した。
タッタッタッ…
「…はあ…はあ…」
ボクのせいじゃない。
あれはみんなリュウちゃんのせいだっ!
ボクは悪くないっ!!
リュウちゃんのせいっ!
「はあ…はあ…」
だが、ボクの走りはいつしかスキップに変わって行った。