016 アノメ
「…つまり、リュウくんは両親に殺されたのね?」
「うん。リュウちゃん…助けを求めてた。ボクが窓から覗いてるの気付いてた…でも…ボクにはどうする事も…」
「……そうよね…いくらなんでも…あの状況じゃ助けるなんて…」
「何度も何度もボクを見つめ、目で訴えていた。」
「………。」
「だからリュウちゃんはボクの前に現れるんだっ!リュウちゃんを落としたパパやママよりも助けなかったボクを怨んでるだよっ!」
ボクが興奮して言うとお姉ちゃんは首を振り、
「セイくん…それは違うよ…」
「なにが違うの!?だってリュウちゃんは哀しそうにボクの前に…寂しそうにボクを見ているんだよ…!」
「リュウくんはきっとなにかを伝えようと君の前に現れたのよ。」
「何かって?」
「それはわからない」
お姉ちゃんはそう言うと黙ったまま何も言わなかった。ボクはその沈黙が恐くてドアを開けた。
ガチャッ。
「………。」
ドアの向こうでお姉ちゃんは壁にもたれ座っていた。そして、ドアを開けたボクを優しく見つめていた。
「…わたしにもわからないのよ…彼女はホントに彼女の幽霊なのか…それとも彼の作り出した幻なのか……今でも…」
そう言ったお姉ちゃんの表情はまさしくリュウちゃんと同じ『寂しい顔』をしていた。
「…お姉ちゃん…」
ボクはゆっくりと歩き、そしてお姉ちゃんの傍に座った。ボクとお姉ちゃんはしばらく何も話さなかった。沈黙が恐かったけど、お互い心が通じ合えた気がした。
「でも少しでも彼に近づけた。」
「え?」
ボクがそう言った時、ママが帰って来た。
「ただいまぁ!遅くなってごめんねー」
買物袋をたくさん手に、ママはドタドタと歩いて来た。ふと、ボク以外の人間がいる事に気付く。
「……あら?あなたは確か……」
「…どうもすいません。勝手にお邪魔して…」
ママはびっくしたかと思えばすぐに笑顔になり、
「いえいえ。ちょうど良かった!たくさん買物して来たんで一緒に食べません?落とし物拾った御礼もまだですし…」
「…あ…でも…」
「そうしなよ!ママの料理うまいんだ!」
ボクは自慢げにお姉ちゃんに言った。お姉ちゃんは少し考え、
「そうね。」
と、さっきまでの『寂しい』表情は跡形もなく笑顔で返事をした。
そしてボク達は楽しい夜を過ごした。
翌日。
「行ってきまーす!」
ボクはいつもの様に学校へ行こうとドアを開ける。
「気をつけてね!ちゃんと手帳は持ってるね?」
「うん!行ってくるー」
ボクは急ぎ足でエレベーターに向かい、ボタンを押す。
ガアァァァーッ
ドアが開き、一階のボタンを押すとドアは自然に閉まろうとした。その時
「待って!」
ガダン。
外から誰かが閉まろうとしていたドアをこじ開けた。
「間に合ったぁ」
そう言ったのはリュウちゃんのパパだった。ボクは少しびっくりした。
「脅かしてすまないね。おじさんも急いでいるからね。」
リュウちゃんのパパは笑顔で照れていたが、目は笑っていなかった。ただ…あの時と『同じ目』をしていた。
「………。」
…ボクが部屋にいた時…
リュウちゃんを落とした後…ボクに気付いた時の…
…あの目に…