013 オソイキタク
駐車場から家への帰り道、
ボクとママは並んで歩いていた。
元気の無いボクを気遣ってかママが話しかけて来た。
「どうしたの?セイちゃん。」
「ねぇママ。リュウちゃんはやっぱりまだここにいるの?」
「そうかも知れないわね。ママにもよくわからないけど…」
「どうすればリュウちゃんは天国に行けるの?」
「リュウちゃんがこの世にやり残した事が無くなれば天国に行けるかもねぇ。」
「やり残した事?」
「例えばセイちゃんと遊び足りないとか…」
ママが笑顔でそう言うとボクは首を横に振った。
「それはないよ。」
「どうして?」
「だってリュウちゃんは−…」
“ボクの事嫌ってるのに…”
そう言い掛けたがボクはそのまま飲み込んだ。
するとママの携帯の着信音が鳴った。
「−はい、もしもし…ええ、はいっえ!?今からですか?…はい。わかりました、すぐに行きます。」
ママは携帯を切るとボクに鍵を渡した。
「セイちゃん!悪いんだけどママ、今から会社に行かなければならないの。すぐ帰って来るから家で待っててくれない?」
母子家庭のボク達にはそれはよくある事。
ここでボクは我が儘を言ってはいけない。
「うん。わかった」
「家は近くだからわかるでしょ?いい?寄り道しないでまっすぐ帰るのよ?」
ボクは鍵を受け取ると、そのまま歩き出した。
「うん。だからママも早く帰って来てね…」
「ごめんね…」
ママは車に戻り、すぐに見えなくなった。
…わかってる。
ママは忙しいんだ。
パパが死んでからいつだってボクの為にがんばってる。
だから…ボクはワガママ言っちゃいけない。
『寂しい。』
なんて言っちゃいけないんだ。
ボクはしばらく見つめた後、歩き出そうとしたその時−
「危ないっ!」
…と声が聞こえたと思いきや、誰かがボクを力いっぱい押し倒した。
ドンッ!
「 わっ! 」
ガシャアァァァァーン
「………。」
上から何かが落ちて来たのだ。
「大丈夫?」
「…うん」
女の人が心配そうにボクを見つめる。
「これは植木鉢だ。危ないわね、もう少しで君に当たるトコだったわよ?」
「上から?」
ボクは上を見上げだ。
「………。」
誰もいない。
隠れたのだろうか…?
それとも最初から見えない相手だろうか…?
「もしかしてリュウちゃん?」
「 え?」
ボクの一言にその女の人は反応した。
「…いや、何でもないです。」
「…ねぇ君…朝、手帳落とさなかった?」
「え?手帳?」
そう言われるとボクはすぐに手帳を探した。入れたはずのポケットにはなかった。
「…朝、わたしとぶつかって落として行ったのよ。ちゃんとお母さんに渡したから安心して…」
「…あ・ありがとうございます。」
ボクはゆっくりとお辞儀をした。
「…それより、さっき何で…『リュウちゃん』って言ったの?」
「あ・友達の名前です。」
「その子がやったと思ったの?」
「ううん。まさか、だって死んだもん。そんなワケない…」
「…だから死んだ『リュウちゃん』がやったの?って聞いてるの」
「…え!?」
「お姉さんに正直に言いなさい、笑わないから。
リュウって子は死んでもあなたの前に現れるのね…?」
「………ねぇ」
「…ん?」
「お姉さんの後ろにいる女の人もリュウちゃんの仲間なの?」
ボクはゆっくりと指を指す。
しばらくの沈黙の後、お姉さんは口を開いた。
「あなたにも見えるのね?彼女が…」
「…………。」