012 ダレノテ?
ボクはゆっくりとその手に向かって歩き出した。
「………。」
スタッ スタッ
スタッ スタッ
「………。」
近づいてみると、
その手がリュウちゃんのものではないのがわかる。
(…誰の?)
ボクはそう思いながら歩くスピードを早めた。
すると、その手はサッと消えて行く。
ボクは更にスピードを増してその手を追い掛け、角を曲がった。
「………!」
角を曲がったそこには…
女の人が立っていた。
髪の長い女の人。
ボクを寂しそうに見下ろしていた。
「…ひっ…」
ボクはびっくりしてペタンと尻餅をついた。
「………」
その女の人顔は髪で隠れてて全然わからない。
ボクを見ているのかいないのか…。
ボクは恐かったが、黙ってるのも変なので話掛けた。
「…なんでボクを呼んだの…?
君もリュウちゃんと同じ幽霊なの?名前は?」
「………。」
しばらくの沈黙の後、
突然その女の人は身体をモゾモゾと動かし、
壁の中に消えて行った。
「あ!ねぇ…!?」
ボクの呼び止める声もむなしく、女の人は出て来なかった。
「…誰なんだろう…」
カタッ
どこからか音がした。
ボクは周りをゆっくり見渡す。
「……?」
目の前は階段になっていて
上から聞こえたのか下から聞こえたのかわからない。
カタッ。
また聞こえた。
明らかに下からだった。
ボクはゆっくりと階段の下を見る。
「………。」
…でも誰もいない。
「…あれ?」
ボクはゆっくりと元の位置に戻ろうとしたその時−
ドンッ。
「 わっ 」
誰かがボクの背中を押した。
「うわぁぁっ」
ゴロッ ゴロッ
ドゴッ ゴロッ
ドサッ。
ボクは見事に階段を転げ落ち、踊り場に倒れこんだ。
「……う。」
動けない身体を必死に動かし、階段の上の方をみた。
誰かが立っている。
そして笑っている。
リュウちゃん…?
それとも…さっきの女の人…?
ボクの記憶はだんだんと薄れ、
ゆっくりと視界を暗闇が包んで行った。
「………ん」
「……ちゃん!」
「セイちゃん!」
「……う。」
ボクがゆっくりと意識を取り戻した時、
ママの声が聞こえて来た。
「セイちゃん!ママよ!わかる?」
「ん…どうしたの?」
「どうしたの?じゃないわよ!
セイちゃん階段から落ちて気を失っていたのよ…ココは病院よ!」
「…落ちた?」
ボクは痛む体を押さえ、さっきの事を思い出した。
「…そうだ!ボク誰かに背中を押されたんだ!」
「え?誰に?」
「……わからない……でも…見覚えあるよ…誰だっけ…?」
「とにかく大きなケガでなくて良かったわ。
軽い打撲で済んだし帰ってもいいみたいだから帰りましょ。」
「え?学校は…?」
「もう夕方でとっくに学校は終わったわよ。」
「え?もう?」
ママは荷物を持つと先生に挨拶をしていた。
ボクは何気に病室を出てみた。
「…………。」
薄暗い廊下がずっと続いている。
やっぱり病院は嫌いだ。
一時期、毎日の様に通っていた。
あの時も廊下を歩くだけで気分が暗くなってすぐに家に帰りたくなる。
今だってそうだ。
ふと廊下の奥を見ると髪の長い女の人が奥に立っていた。
「………!」
ボクはすぐにあの女の人だって気付いてずっと見つめていた。




