011 テ
「息子は無事だそうです。
早退する様に言った方が良かったですか?」
ママはその得たいの知れない人に真剣にそう言った。
「…いや…実はわたくし、
これから行かないといけない用事ありますので,
何かあったらこの名刺に書いてある番号にお電話下さい…。」
男はそういって名刺を差し出した。
「ママ丁寧にそれを受け取ると返事をした。
「はい」
「では…失礼します。」
バタン。
「………。」
ママはパソコンに向かいながら椅子に座る。
そして名刺を見た。
「…ちょっと調べてみようかな?」
「………。」
ボクは震えていた。
教室のみんなにリュウちゃんが乗り移っているから…。
「セイちゃん!今の問題の答えわかる?」
先生が急にボクに質問をして来た。
「…え?」
「−ったく…人の話をちゃんと聞きなさいって言ってるでしょう!」
先生はボクに怒鳴りつける。
「…ぷっ。」
「くすくす」
笑い声が聞こえる。
ボクは声がする方を見た。
そこにリュウちゃんがいる様な気がしたから…。
「………。」
…萌ちゃんと目が合った。
ニヤリとしたままジッとボクを見ている。
ボクは視線をそらしノートを見つめた。
「…セイちゃん!今の答えは…?」
「…え?」
「また聞いてなかったの?さっき言ったばかりでしょう!?」
「…ごめんなさい」
「もういいわ…廊下に立ってなさい!少しは反省するべきよ!」
そう言ったかと思うと先生はボクの手を引き、
廊下へと引っ張り出した。
「いい?この時間が終わるまで立っているのよ?
座ったら許さないわよ!」
「…はい。」
ガララ…
ピシャッ。
「………。」
ボクは言われるままただ立っていた。
「………。」
…どれくらい立っていただろうか…
ふと、廊下の奥に人の気配を感じた。
ボクは何故かそこから目が離せなかった。
「………。」
ボクはジッとそこを見つめる。
「……ん?」
薄暗い廊下の奥に手招きをしている手が見えた。
「……ひっ」
ボクは恐くなって教室を覗いた。
先生は必死に勉強を教え、みんな真剣に聞いている。
とても邪魔出来ない。
「………。」
ボクは恐くても助けを呼ぶ事も出来ない。
助けを呼んだところでまた馬鹿にされるだけだ。
ボクはゆっくりと廊下の奥に目をやった。
「………。」
相変わらず手招きをしている手だけが見える。
ボクはしばらく考え、その手に近づく事を決めた。
あれは…リュウちゃんの手なのだろうか…?
それとも別の手なのだろうか…?
♪ピンポーン♪
「…はいはい」
パソコンで調べものしていたママは
ゆっくりと玄関に向かいドアを開けた。
ガチャッ。
「……?」
そこには女の人が立っていた。
「どちら様で?」
「…さっき下で男の子とぶつかったんですけど…
これを落として行ったんです。」
女性はそう言って手帳を差し出す。
「…あ・セイちゃんの?すいません、わざわざ…」
「…じゃあ、これで失礼します。」
「ありがとうございました。」
会釈をするとそのまま女性は消えて行った。
そしてママもドアを閉める。
バタン。