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(12)ゆりかご

 四時限目の終了を告げるチャイムが鳴った。

 妙に長かった午前中の授業をおえ、各々昼食の準備の取り掛かった周りの生徒を見回し、悠斗も立ち上がった。

 抵抗感を振り払うように鋭く息を吸い込み、星羅に声をかけるために振り返る。

 が、実際は振り返った、までにとどまった。

 「おい、なにボーっとしてんだ、早く食堂行かないと席埋まっちまうぞ」

 蓮が声を掛けてきたのだ。

 「あ、ああ・・・」 

 「・・・なんかあったのか?」

 「そういうわけではないんだが、な、空気を読むって言葉知ってるか?」

 言いながら、蓮のさぐるような視線を避けるために、かばんの中に視線を落とし財布を探る。

 うつむいたままわずかに左―――――星羅のほうへ視線を流した。瞬間、こちらも目の端から探るような視線を送ってきていたそれとかち合った。

 声を掛けようとしたことはすでに分かっているらしい。

 なんとなく見つめていると、星羅は一旦手元を見つめた後、

 「悠斗、ちょっと話がある」

 ここで演技力を要求するのはさすがに贅沢というものだが、その言葉は悠斗が想像していた以上に棒読みな口調であった。



   ☆★☆★☆★☆



 何の感情もこもらない声だけを残し、さっさと教室から出て行ってしまった星羅を追いかけるために、

 「すまない、蓮。そういうことだから今日は違うやつといってくれ」

 と言い残し足早に教室を後にした。

 

 星羅はI組側の廊下の端、西階段の前で待っていた。

 悠斗の姿を確認するや、

 「なにか私に話があるみたいね」

 「ここじゃ人通りが多すぎる、裏庭なら静かだからそっちへ移動していいか?」

 「かまわないけど」

 裏庭とは、一棟と二棟の間にある屋外空間で、洋風庭園として整備されている。

 これだけ聴くと、昼休みに人がいないのはおかしいように思えるが、いったん下駄箱で靴を履き替える手間がかかるため昼休みに利用する生徒は少ない。

 足早に階段を下りていく最中、購買に群がる生徒たちの列が見えた。

 今更のように昼食の用意がないことに思い至って足を止めた。

 それに気が付いた星羅が下の踊り場で振り返、怪訝そうに表情で問いかけてきた。

 「すまない、購買で昼食を買ってきていいか?」

 「こうばい?」

 問いかけたつもりが、更なる問いかけで帰ってきた。

 発音が妙に平仮名っぽいところからから考えると、単語そのものの知識が無いらしい。

 「昼飯を売ってるところだ―――――篠枝さんにもに何か買おうか?」

 さらに、星羅の手にも昼食や財布の類が無いことを見て取って付け足す。

 「・・・断る理由は無いけど」

 とは言っているが、悠斗の見る限りどうも購買へ行くのをしっぶているように見えた。

 「あぁ・・・何がのこってるか分からないから適当に選ぶけどいい?」

 言外に自分だけで行く、と告げると、

 「かまわないわ、先に行ってる」

 そういい残して、階段の影に消えた。



 ☆★☆★☆★☆



 裏庭に行くと、予想どうり星羅しかいない様だった。まだ寒さの残るこの時期にはカップルでさえ人目をはばかることよりも暖かさを優先するようだ。 

 「すまない。弁当は食べづらいと思ってパンにしたんだが、あいにく人気メニューはあまり残っていなかったんだ。一つ菓子パンが入っているが甘いのは大丈夫か?」

 「へいきよ。ありがとう」

 「隣いいかな?」

 「? ああ、どうぞ」

 ベンチの真ん中に陣取っていた(本人の認識では座っていた)星羅は少し腰を動かす。

 「で、聴きたいことがあるみたいだけど?」

 「うん。この間のこととか少し・・・いい?」

 「別にいいけど、ここまで連れ出しておいて聞いてくるあたり拒否権なんてなさそうだけど?」

 おどけた感じで聞き返してくる星羅の姿には正直意外感を隠せなかった。

 「まあそうかも」

 笑いをながら同意して、

 「先週のことなんだけど、後で思い出してみると、さ。いろいろと気になることがあって。

 とりあえずあの・・・灰色の世界みたいなのから教えてもらっていい?」

 「あれは一定空間の時間情報をいじって、一時的に異空間的なものを作る魔術よ。結界って考えると分かりやすいかな」

 さらっと言われて思わずうなずきそうになる。が、悠斗の耳は異質な単語を拾い上げた。

 「魔術!?」

 「人が――――とくにこの国人間が考えている魔法とかそういうのとは少し違うんだけど・・・まあそう考えるのが一番近いかな」

 「いやそういうことじゃなくてさ・・・」

 んっ?、という感じで首をかしげる星羅を見て、とりあえず全部保留にすることとした。

 


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